<王者の風>という魔法
ここまでのあらすじ
コウは見事トマクに一撃を入れ、褒賞として珍しい魔法書を手に入れメルベックリヌ城を去る。
「今回はお疲れ様だったわね、コウ」
「いえ、師匠にはご迷惑をおかけしました。すみません」
転移門へと向かってクエスとコウは歩きながら語る。
謝ってはいたものの、コウはクエスに労われて少しテンションが上がっていた。
「しかしコウがあのトマクに一撃入れられるとは思わなかったわね。本当にすごかったわよ。ボルティス様も腰を抜かしそうだったし」
「えぇ・・」
クエスの表現にコウはそれはさすがに言いすぎなんじゃないかと思った。
所詮はハンデ戦の上、偶然うまくいった一撃だったからだ。
「あくまでさんざん油断を誘ってからの不意打ちが偶然決まっただけですから。まともにやり合えば俺は1分も立ってられませんでしたよ」
「それでもすごいわよ、防御に徹しているトマクに1撃入れたんだから」
「師匠にそこまで褒められるとは思いませんでした。今日はこんな経験が出来て本当に良かったです」
「そう?」
「師匠に褒められることは弟子として本当に嬉しいことですから」
コウのまっすぐな言葉にクエスは少し歩幅を狂わせながら照れつつも歩く。
コウはその様子を見てさらに嬉しそうにクエスの後を付いて行った。
帰る前に念のためと買い物リストをクエスに見せ、買い物がすべて完了していることを確認すると
隠れ家に戻ってさっきの戦いを見直そうということで、さっさと転移門へと移動して帰宅の途についた。
◆◇
隠れ家に戻ったらすぐさま先ほどの戦いの復習と反省会だった。
いつの間にかクエス師匠も記録をもらっていたらしく、ボサツ師匠と二人で俺の動きを確認する。
「ここは悪くないけど他の魔法、例えばこれを使うのもいいわよ」
「せっかく撃つなら単発より色々と混ぜた方がよかったですね。でもここの動きは完璧だと思います」
いつものように辛口な師匠たちの批評だったが、なんかいつもよりは褒められている気がして嬉しかった。
俺だって正直トマク様に勝てるなんて思ってもいなかったもんな。
「ところで、コウ。トマクに最後の一撃を決めた時魔力の過剰使用になったわよね?」
「あ・・はい。やっぱり気づかれてましたか。もちろんやってはいけないことですが、あそこまで下準備して・・一撃決められない結果にはしたくなかったので」
「戦場でもやむを得ず魔力の過剰使用をする場合はあります。ですが命に関わるとき以外は使用してはいけません」
「はい、今後は使わないよう気を付けます」
ボサツ師匠の厳しい一言に俺は反省した。
一般的に魔法を使う時の流れは型を組んで魔力を満たす、それだけだ。
型を組む時は放出した魔力から、魔力を満たす時は精霊様からの魔力や自分の放出する魔力を使う。
ここまでなら精霊様に全力で頼ると、使う魔力は型を作るときの魔核くらいしかない。
だが型に魔力が満たされた時、魔法として発動する時は術者の周囲に放出していた魔力を結構消費する。
だから魔法を使う時は、出来るだけ多く魔力を放出して自分の周囲に留めておいた方がいい。
さらに放出して維持する魔力が多い程、魔力障壁としても使えるので、師匠には特に大事なことだと教わっている。
その放出し周囲に留めた魔力を次々と魔法を発動させ過ぎることで使いつぶしてしまった時に
それでも強引に魔法を発動すると、不足分を自分の体を構成する魔素体から魔力を消費してしまう。
このことを魔力の過剰使用といい、基本的にはやってはいけないことと教わっている。
過剰使用をするとしばらくの間、体に何らかの不自由が発生することが多いからだ。
手や足に力が入らない、視界がぼやける、においを感じ取れない、頭で思ったことと行動が1テンポくらいずれる、など症状はその時々で様々だ。
「原因は?氷の心を使っていたんでしょ、それでもやってしまったとなると予想外のことが起きた?」
次同じ失敗をやらないようにクエスが尋ねる。
ちゃんと見てただ叱るだけじゃなく、次はどうしたらいいかも一緒に考えてくれる。
こういった反省会は本当に俺の成長につながっていると思う。
「水牢で水の中に閉じ込めたトマク様が予想より多くの魔力で水牢を打ち消し始めたみたいで、その魔力を相殺しながら凍結させるのに想定以上の魔力を持っていかれて・・」
「そうでしたか。それでもここでやめるわけにはいかないと思ったわけですね」
「はい、本当にすみません」
「まぁ、今回は特別にいいわよ。ボルティスにも一泡吹かせられたしね。でも絶対に癖にしたら駄目よ。
戦いの場では魔力の過剰使用=死への第一歩なんだから、癖にならなくても多用するのは練習でも論外よ」
本当はその後、氷の中に閉じ込めたトマクを<凍結粉砕>によって、氷と共に砕いてダメージを与えるつもりだったことをコウは黙っておくことにした。
<氷切り>でダメージが与えられなかった場合の保険として考えていたのだが、結果は氷切り発動に放出していた全部魔力を持っていかれたので何もできなかったが。
俺が魔力の過剰使用をしたことから師匠達は俺の体調に関して厳しめにチェックし、とりあえず問題なしだったが安全のため午後は少し遅れた昼食後、座学へと切り替わった。
座学になったならと、早速ボルティス様に貰った魔法書<王者の風>をボサツ師匠に見せ、魔法の解説などをしてもらう。
「王者の風ですか。これは前方の範囲への精神系魔法です。ただこの魔法を使える魔法使いは風の国と言えども聞きませんね」
「そうなんですか?一応契約している精霊は必要以外は隠しとけと言われてたので使ってませんでしたが、この『王者の風』に必要な風の精霊8体って俺全部持っているんですよ。
なのでこの魔法書を選んだんですけど」
「えっ?」
「えっ!?」
俺の一言にボサツ師匠が驚いた表情をしたので俺も驚いてしまった。
その後契約している風の精霊を魔方陣に全部表示させられ、ボサツ師匠と今一度確認する。
確かに魔法書に刻まれていた必要な精霊のマークがちゃんと俺の足元にある魔方陣の周囲にすべて刻まれている。
「そういえばコウは風との契約時に4体精霊が追加されていましたね。2体は私も契約済みの精霊でしたので気にしていませんでしたが
残り2体は私も見たことないマークですね。上位精霊でしょうか」
「上位なんてものがあるんですか?」
「ええ、私も風の上位精霊は1体契約していますが、上位精霊は契約するのに条件があり厄介なのです。
コウの場合は風の加護のスキルによって契約時についてきたから条件は不要になりましたが」
上位精霊は一般の精霊とは違って契約するのに試練や一定の魔法LV、特定の魔法習得などを要求してくるらしい。
特に試練に関しては失敗すると年単位で再挑戦出来なくなるし、その精霊は特定の高LV魔法でしか使用しないことが多いなど必要性が薄く、諦める魔法使いも多いそうだ。
ただ契約出来れば一般精霊よりもボーナス効果は大きく、可能なら契約しておいた方がいいのだが。
更に契約する魔法使いが少ない理由として、上位精霊と契約する儀式をできる者がかなり少ない点がある。
「その、ボサツ師匠が持っている風の上位精霊とは俺は契約できないんですか?」
「私が持っている上位精霊は風40と水と風の同時発動が出来ないと試練に挑めませんので、今のコウでは残念ですが」
師匠の提示した条件の高さにビビりつつも、その時が来ればよろしくお願いしますとボサツ師匠に頼んでみると
ボサツ師匠が嬉しそうに「待っていますね」と答えてくれた。
まぁ、風LV40よりも2色同時に使えるようになる方が後だろうけどさ。
そして再び魔法書の話に戻る。
次のページをめくり魔法の型が表示してあるページを見ると、俺はあまりの魔核の多さに俺はげんなりした。
「ちょ、これ・・魔核110個って、こんなものを悠長に戦闘の場で組んでいる暇があるんですか?」
「普通は・・開戦直前以外では難しいかもしれませんね」
「ですよね」
「でもこういう魔核の多い型を組むときにいい方法がありますよ」
俺が半分諦め顔でいるとボサツ師匠が裏技を教えてくれる。
俺は思わずボサツ師匠の説明に食いついた。
「コウは今ストックが2つ使えますよね?」
「はい」
「練習が必要な方法になりますが、まず110個の魔核の配置を3つに分解します。そしてこの3分割した型のうち2つを個別に作ってそれぞれストックします。
最後に3分割にした最後の型を作り上げた後、ストックから作った2つを取り出して繋げて完成させます」
「おぉ、それなら40個くらいの型を3つ覚えてくっつける方法だけ覚えておけば割と早く作れそうですね」
「ええ。ですが、この方法はストックを食いつぶしてしまうし、型を作ってからの魔力充填はこの規模の魔法になるとかなりの時間が必要になります。
結局は開戦直前にしか使えないやり方です」
確かにボサツ師匠の言う通りだ。
戦闘開始時に少なくとも1つ防御系魔法の型を発動直前でストックしておくのは、素人でも知っている基本中の基本だ。
一度ストックを教わっている時にボサツ師匠から聞いた話だが、クエス師匠は時々ストックにある型を全部攻撃系魔法で埋めて敵に突っ込むことがあるらしい。
まさに光の連合最強の存在であるクエス師匠らしいやり方だ。
あれは絶対に真似してはいけないと釘を刺されていたが、もちろん真似する気なんてない。
その教えを守り、先ほどの練習試合でトマク様が攻撃しそうにない状態でも、俺は防御魔法を1つ常にストックにぶち込んでいたくらいだ。
実戦もどきをやり終えた今の俺なら、クエス師匠のいかれ具合がより実感できる。
俺みたいな実力のないものが言うのはおこがましいが、クエス師匠には本当に命を大切にしてほしいと思う。
しかし型のストックか・・そう考えると一つのアイデアがひらめいた。
「型をその場で完成させておいてストックしておけば・・戦闘の途中でも使えますよね?」
「コウ、忘れたのですか?型は多くなるほどストック状態での魔力消費が急激に増えます。110個の型を温存しておくなんて1発で勝負を決めるやり方です」
あぁ、そうだった。
結局開幕や余裕のある時にしか使えない魔法だというのはわかったが、そもそも今は習得すらできないのでここで悩んでもあまり意味はないか。
とは言えこの魔法は抵抗される可能性があるとはいえ、相手が抵抗できずにくらうと術者に対して畏怖を感じるようになり武器を向けることすら出来なくなるらしい。
まさに王の風格を体現したと言える素晴らしい魔法だ。一刻も早く習得してみたい。
暇なときは型を作る練習でもしておこうかな。
特に分割して作る方法だと早く型を完成させられる代わりに練習に必要な時間は増えそうだし
型を作る練習だけなら今からやっていても意味はありそうだ。
なんか使えそうな実感がわいてくると、今度はこの魔法の運用方法が気になり始める。
そう言えばこの魔法、範囲が前方になっていたけど味方がいた場合はどうなるのだろうか?
「師匠、この魔法は味方が範囲にいる場合はどうなるんですか?」
「こういった範囲系の精神系魔法は基本的に敵味方関係なく巻き込みます。ですからこの魔法を使う場合はコウは味方の先頭に立って使わないといけません。
味方が魔法を受けコウを恐れて逃げ出していては、何のため魔法を使ったのかわかりませんから。
まぁ、味方の軍の先頭に堂々と立って高LVの魔法を使う様は王者という言葉にふさわしいです」
この魔法マジかよ。
誰が考案したのか知らないが、頭おかしいとしか思えない。
相手を対象範囲にまで接近させつつ味方の先頭に立ち一番目立つ位置で敵から狙われやすい状況からじゃないと効率的に使えないとか。
俺はその状況を頭の中で想像したが、一斉に攻撃される情景しか思いつかなかった。
最早その様は王者ではなく、よくあるやれれるだけの役に立たない目立ちたがりとしか思えなかった。
これ以上はこの魔法書を読んでいても得られるものがないので、ボサツ師匠の座学は別の話に移る。
ちょっとだけ魔法書を選び間違ったかなと後悔しながら、俺は思いながら師匠の話を聞いていた。
少し遅くなりましたが、今話も読んでいただきありがとうございます。
今話は下書きしていた分があまりに変だったので・・必死に修正しましたが
まだ変な個所がたくさん残っていそうで少し心配・・いや、文章力足りないのはいつもの事か。
では、次回更新に向けて頑張ります。多分金曜になりそうです・・。