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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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褒賞として魔法書を授かる

ここまでのあらすじ


コウは必死の組み立てにより何とかトマクに一撃を与えることに成功した。

そして試合はコウの勝利という形で終わった。


「そうか、なら・・」


ボルティスが何か言おうとしたタイミングで、トマクとコウが訓練場から戻ってきた。

トマクは出血は魔法で抑えられていたものの、簡易的な鎧が左腹部だけ切り裂かれていて負傷しているのは丸わかりだった。


「大丈夫なのか、トマク。直ぐに治療チームの元へ行ったほうがよさそうだぞ」


「まぁ、これくらいなら問題ありませんよ。それより俺も金を払うんですから、こいつが喜ぶ顔くらいは見せてもらわないと割が合いませんって」


トマクは少し強がりながらもまるで自分がコウに褒賞を与えるかのように語る。

トマクが支払う額は魔法書の購入額の1割でしかないのだが。


「失礼します」


いいタイミングでメグロが第2王女と第7王女を連れて戻ってきた。

二人の王女はメグロの後ろで本を数冊ずつ抱えている。


「お父様、とりあえずご命令通り持ってきましたわ」


そう言いながら第2王女ルルカは不満そうに持ってきた4冊の本を部屋の隅にある机の上に置く。

それを見た第7王女ルーチェは慌ててルルカの横に本を置いた。


「ルルカにルーチェ、わざわざ手伝ってもらってすまんな。2人共初めての顔合わせだろうから紹介しておこう。

 彼女が一光でありアイリーシア家の王族クエス・アイリーシア、そして彼がそのクエスの弟子であるコウ・アイリーシアだ」


クエスは紹介され軽く手を挙げ、コウは深々と頭を下げる。

それを見た2人の王女も簡単に自己紹介に入る。


「私は父ボルティスの娘であり第2王女、継承第2位の王族ルルカです。クエス様お目に書かれて光栄です。あとコウ、でしたか?あまり会う機会はないと思うけどお見知りおきを」

「私はルーチェです。第7王女になります。お見知りおき下さい」


ルルカはクエスに対しては丁寧に、コウに対しては少し軽めに挨拶をする。

続くルーチェは少し緊張した態度で簡単に挨拶をした。


「私がクエスよ。色んな意味で有名だから知ってるとは思うけど。そしてこっちが弟子のコウね」

「アイリーシア家準貴族、コウ・アイリーシアです。お目に書かれて光栄です」


「コウ、少し硬いんじゃないの。あなたはゲストでしょ」

「えっ、でも明らかに俺は下の立場ですし」


クエス、続いてコウも挨拶を交わす。コウは状況から自分が間違いなく一番下の立場だと判断して丁寧にあいさつした。

直ぐにクエスは茶化し始めたが、ルルカは気にせずに話し出す。


「そう、あなたがクエス様の弟子なのね・・それでお父様、このような形で呼び出したのは彼と顔合わせさせるためですか?

 一応他家との交渉中で忙しかったのですけど」


一瞬コウを見て大した価値もないと判断したのか、ゲストであるコウを無視する形でルルカは父に抗議する。

メグロの後ろに再び隠れたルーチェはその様子を見ながらも、コウを時々ちらちらと確認していた。



そんな状況の中、メグロがトマクの腹部の傷に気付く。

驚いた表情を見せながらメグロは尋ねた。


「ま、まさかとは思うがトマク、君は負けたのか?」


「ん、あぁ・・まぁな。見ての通りさ。それでも色々と学べたいい試合だったけどな。コウ!もし次が合ったら同じ条件でも負けないからな」


トマクが急にコウに話しかけるとコウはトマクの方を振り向いて軽く頭を下げる。

少し生意気に反応してほしかったトマクはノリが悪くて不満そうだ。


その様子を見てトマクが言っていることが本当だと分かったのか、メグロはボルティスへと駆け寄った。


「ログは、ログは取っていますよね?」

「先ほどの戦いならちゃんと取ってある、心配するな」


「トマクが負けた試合なんて久方ぶりですから、すぐにでも見たいところです」

「クエスたちが帰った後ならいつでも構わんぞ」


なんだかとてもうれしそうなメグロにトマクが少しイラっとする。


「おい、メグロ。負けたっつってもあくまで一撃くらっただけだからな」

「ええ、わかってます。それでも楽しみだ」


メグロとトマクが言い合っている様子を見てルルカもコウに興味を持ち始める。

この国でもトップクラスの実力者であるトマクに一太刀浴びせられるとなればかなりの強者なのは間違いない。


その上に堅物である父がわざわざ仕事中にもかかわらず呼び出してまで会わせようとした人物だ。

ルルカはコウと親交を深めておいた方がよさそうだと思い直し、コウに近づいた。


「先ほどは失礼しました。仕事中に急に呼ばれたので気が立っていまして」

「い、いえ・・」


さっきまで自分をぞんざいに扱っていたルルカが急に丁寧にあいさつしてきたのでコウは戸惑う。

ルルカは肩くらいまであるストレートの金髪で気の強そうな女性だ。


動作の節々にはボルティスの厳しい指導をうかがわせるきっちりした性格と気品ある育ちの良さを感じさせる。

見た目は美人ではあったが、最初の対応からの変わり身の速さにコウは苦手なタイプだなと思った。


「うちのトマクに勝つなんてなかなかできる方なのですね」

「あくまで1撃当てれば勝ちという条件でしたので勝利という形になりましたが、本当の戦いでは足元にも及びません」


「そんなことはありませんわ。トマクにあれほどの傷を負わせられる者など数えるほどしかいませんもの」

「お褒めいただきありがとうございます」


それだけ言うとコウはすぐにボルティスの元へ向かい、魔法書の件に関して相談しようとした。

コウは本能的にルルカを避けたのだが、それを受けてルルカは少しイラっときたようでコウの背中を睨む。


その様子を見たボルティスは完全に失敗したなと思った。

ルルカは大したことのない相手には冷たくもしくは軽くあしらう癖があり、有用な相手には積極的にアピールする傾向がある。


相手が有用かどうか最初から判別できる状況ならさほど問題もないのだが、今回のように目の前で変わり身の早さを見せられれば誰だって不快になるに決まっていた。

ボルティスはルルカにもう少し情報を与えておくべきだったかと後悔した。


その様子を見ていたクエスは少し嬉しそうに笑う。

位置的にそれに気付いたのはボルティスだけだったが、悔しかったこともありクエスの笑顔をボルティスは見なかったことにした。



ルルカから逃げたコウはボルティスに魔法書の話をしようと近づいたが、ボルティスが少し不満そうな表情をしていることに気付く。


コウが話しかけていい状況ではなさそうだが、今更ルルカの元に戻りたくもないので困っていると

それに気づいたボルティスが直ぐにいつもの堂々とした表情に戻し、コウに話しかける。


「すまなかった。それで魔法書の件だろう?もちろんコウの勝ちで試合は終わったからな、自由に1冊選んでくれて構わん」

「ありがとうございます」


コウは深々と頭を下げる。

コウが頭を下げている間にボルティスは何とかコウが自分の娘に興味を持ってもらえないかと思案する。


「魔法書は第7王女のルーチェの側にある机に置いてある物が全てだ。何かわからないことがあればルーチェに聞くといい」

「はいっ」


コウは嬉しそうに魔法書のおいてある机へと向かう。

その様子をルルカは腹立たしく思っていた。


父に呼ばれてここへ来た時は一体何事かわからなかったが、今はこの状況から言って父の意図はコウとうまく親しくなれということだと理解している。

だが肝心のコウには初手で失敗したために、誰がどう見ても印象は悪い。


ルルカは父の期待に応えるべく何とか逆転の手をつかもうと低姿勢でクエスに話しかけた。

その時コウは既に魔法書が積まれた机の前にまで来て、物色を始めていた。


「コウ・・さんでしたよね?」


コウは話しかけられて思わず声のする方を見る。


コウより身長がかなり低い金髪でおかっぱ風の年齢20前後の女性がそこにはいた。

先ほどのルルカとは対照的で物腰柔らかい、少しおどおどした感じにコウは安心する。


「ええ、そうです。ボルティス様に魔法書を1冊お譲り頂けるということで確認しようと思いまして」


「そ、それでしたら・・こちらの4冊が非常に貴重で高価なもの、奥の5冊が高級なものになります」

「ありがとうございます」


コウは明るく答え、それを見たルーチェも少し控えめに笑顔を見せた。

それを見たルルカはその場に割って入ろうとしたが、それをクエスは止める。


「あの場に強引に入ったら逆に印象最悪にしかならないわよ。あなたの周囲からの評価もダダ下がりになりかねないわ」

「ん・・ぐぐぐ・・」


そのことはルルカ本人もよくわかっているようで、こぶしを握り締めつつ勢いで割り込もうと思っていたが

それもクエスに止められ、もはや打つ手なしと悟ったのかがっくりしながら、離れた場所からコウとルーチェの様子を窺うしかなかった。


コウは非常に貴重な方の魔法書4冊を順番に見ていく。


1冊目『凪と時化(しけ)』妙な名前の魔法だが広範囲のバフやデバフ、エリアに継続してかけられている魔法を打ち消しつつちょっとした攻撃も付与されている魔法らしい。

なんだか欲張りセットみたいな魔法だった。


ページを読み進めて必要な精霊の種類を見るとコウが契約していない精霊が2体もいる。

「ん~、悪い魔法じゃないんだけどなぁ」


本を見ながらぼやいているとそれに気付いたのかルーチェが話しかけてくる。

「そちらは補助系ですね、こちらなんかだと攻撃系になります」


ルーチェに言われて受け取った本を読んでみると確かに攻撃魔法だった。

魔法名『領域粉砕』風系統の魔法で高威力を誇り、指定した範囲を粉砕するらしい。抵抗できなかったら魔法使い1人を丸々粉砕して跡形もなく消し去れるそうだ。


随分と恐ろしい魔法だ・・。威力のある魔法は欲しいけど、これはちょっとすごすぎとコウは思う。

今のコウには必要LVが高すぎて使えない点は1冊目と同じだが、将来のことを考えるとこれも悪くない印象だった。


「この本が4冊の中ではこの魔法書が一番高価なものですね。もちろん他のものも高価ですけど・・」


「ちょ、ルーチェ様。意図的に価格を比べるは勘弁してくださいよ、俺の給料から本の価格の1割が天引きされるんですから」


「そうだったんですか、ごめんなさい」

そう言うルーチェは嬉しそうな顔をしている。


さすがにトマクもルーチェにガツンと言えるわけじゃないようで、苦悶に満ちた表情で間接的に抗議していた。

コウが面白い光景だなと見ていたら、トマクがやけになって突っかかって来る。


「コウ、そもそもここまでぶった切らなくてもよかったんじゃないか?軽く傷つけるだけで勝ちだったんだろ」


「いや、トマク様は圧倒的な強さでしたので俺もいっぱいいっぱいだったんですよ」


コウの返答にトマクは悔しくて八つ当たりすべくコウの頭をつかみたいが、さすがにそれはまずいと我慢したまま両手でつかむポーズをして手を震わせる。

その様子を見てコウとルーチェは笑っていた。


コウに変に突っかかったのは価格の話から逸らすためだったのだが、トマクの思惑は何とかうまくいったようだ。

気をそらされたコウは、仕切り直してルーチェが3冊目と4冊目を紹介するとその話を素直に聞いていた。



「それで・・どれにするか決まったか?」

トマクの問いかけにコウは嬉しそうに答える。


「この本にしようと思います。『王者の風』という魔法ですね」

「向こうのちょっと高い奴は5冊ほどあるが見なくていいのか?」


トマクはもっと安い本にしてくれないかなと進めてみるがコウは釣られない。


「この魔法の内容がとても気にいったので、もうこれしかないと思いました。トマク様ありがとうございます」


コウが頭を下げると、気にすんなとトマクも笑って答えた。

ルーチェはそんなコウの言動をまじかで観察していた。



ボルティス、クエス、ルルカの3人が話していたが、コウの本を決定した声に反応しボルティスが振り向く。

続いてクエスとルルカも振り向いた。


「決まったのか」

「はい、王者の風という魔法書にしました」


「それでよいのか?」

「このような高価なものを賜り、大変恐縮に存じます」


一応勝負事で勝ちとった褒賞とはいえ、コウは丁寧な対応で受け取る。


「へぇ、それって確か風には珍しい精神系よね。コウはなぜそれを選んだの?」

クエスは攻撃系ではなく補助系を選んだコウが不思議に思えて、何となく尋ねてみた。


「『領域粉砕』も魅力だったんですが価値が高い事もあって、それに『王者の風』は効果が変わっているので使えたらいいなと思ったんです」

「なるほどね。コウがそれでいいなら構わないわ」


ボルティスはコウが価値が高いという言葉を言った時トマクが誘導したのではないかと睨んだが、トマクは必死に首を横に振っていたのでそれなら問題ないかとコウの言い分に納得した。



「それじゃ帰らせてもらうわね」


クエスはそう言いながらボルティスの方を見る。

認定証の催促だと理解したボルティスは静かにうなずいた。

コウはクエスの後ろにいたのでその状況には気が付かなかった。


クエスが観覧室から城内に戻る通路へ続く扉に手をかけようとすると、ボルティスの合図にとっさに動いたルルカとルーチェが両開きの扉を開けてくれる。


「クエス様、そしてコウ、またお会いできる日を楽しみにしてますわ」

ルルカの言葉にコウは軽く頭を下げる。


「クエス様、コウ様、本日はご足労頂きありがとうございました」

ルーチェが姉に続いてそう言葉を発するとコウは自分が様付けされてびっくりする。


一応ゲストとして呼んでいる体なので、様付けでも問題はないが、コウは自分が明らかに下の地位だと自覚していたので、びっくりして思わずルーチェをがん見してしまう。

その様子にルーチェは笑ってコウを送り出した。


今話も読んでいただきありがとうございます。

ちょっと別件でバタついたので、土曜に更新できず申し訳ありません。

次話は火曜までに更新する予定です。


あぁ、今回は魔法紹介が無くて後書きが楽だ・・


修正履歴

19/07/02 本文最後、表現を微修正

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