追加試合 トマクvsコウ①
ここまでのあらすじ
コウはルトスとの試合に勝利するものの、周囲の雰囲気に押されて今度は格上のトマクと戦うことになった。
訓練場に降り立ったトマクとコウは少し離れて互いに向き合う。
「悪いが俺の給料もかかっているので、負けてやるつもりはないからな」
なぜか楽しそうにさわやかイケメン風の笑顔でトマクはコウに話しかける。
「こちらこそ勉強させていただきます」
「おぅ」
コウはトマクの返事を聞くと魔力回復のためにGM2の小瓶を開けて1本飲みほした。
「おっと、そう言えば連戦だったな。少し休憩を入れてから始めるか?」
トマクはあの時のボルティスの合図に多分時間を稼げというのも入っているなと思いコウに間を置くことを提案したが
「いえ、15分の制限がありますので大丈夫です。その間に魔力が切れることはないと思います」
コウは問題ないときっぱり断った。
そして両者が武器を取り出し構える。
周囲に数か所30秒のタイマーが表示された。
コウはトマクからさらに距離を取り周囲に無色の魔力を展開する。
「ん、無色か?」
トマクは構えを解くと特に何もすることなくのんびりとコウを観察していた。
コウは展開した無色の魔力をダミーとしてばらまいた後に魔力の保持を開放する。
これで周囲に無色の魔力を霧散させながらそれを目くらましをし、足元の魔方陣を消した状態で氷の属性を使ったことがばれないようにしながら<氷の心>を使った。
使用後、即座に風の属性に切り替えつつ、目標を定める。
『あの強者相手にかすり傷を何とか負わせる』今の目標はただこれだけだ。
思考が冷静になり、余計な情報には見向きもせずただ目標をどうやって達成するかのみをコウは考える。
相手の魔力はぱっと感じたところではそこそこ本気を出した時のクエス師匠並み。
そしてその状態の師匠には1度もまともに攻撃を当てられたことはなかった。
トマクの動きが師匠と同等とは限らないが、魔力障壁の厚さはあの時の師匠と変わらない感じだ。
何度か師匠と手合わせした経験からもクエス師匠が言う通りLV30辺りの魔法じゃないと最低限のかすり傷ラインすら狙えない可能性が高い。
コウは今得られる情報から冷静に目標を達成できる道筋を考えていた。
さらにコウは考えながら魔法の型を作りストックしていくが、トマクは余裕なのか型をストックすることなく軽く構えたままだった。
30秒の短い準備時間が終わりコウは初撃を警戒するがそれでもトマクは動かない。
「俺は何もしなくても15分経てば俺の勝利だからな。今のところ慌てて動くつもりはないぜ」
強者であるトマクが余裕の姿勢でコウの攻撃を待つ。
これはこれで崩しにくいことをコウは十分に経験していた。
「・・確かにそうですね。では胸を貸していただきます」
「あぁ、期待してるぜ」
コウが考えた不意を突くための流れは、まだ見せていない光と氷の属性をいいタイミングで織り交ぜて対応を遅らるというものだった。
冷静に考えても厳しい状況だからこそ、まずは下準備として何段階かに分けてこちらの実力を見誤らせることから始める。
トマクはどうやら本当に先には動かないつもりだと判断し、コウは動き出す。
自分に<疾風>をかけ動き易くするとすぐに<風刃>を1発ずつカーブして左右からトマクを襲うように放つ。
当然だが、先ほどルトス王子に放った時よりも威力は上げている。
風刃を放つと同時にコウはトマクへ向かって走り出し、60個近い魔核を作ると2つに分けて繋いでいき自分の魔力も継ぎ足して即発動までもっていく。
その様子をトマクは槍の穂先を下に向けたまま観察していた。
「へぇ、風刃はルトス様の時よりも威力がありそうだが、同時に突っ込んでくる意味あるのか?」
まだまだ余裕の態度でコウが後ろの方で作った魔核の型を観察する。
「あれは百矢か、受けてみるか」
そう言いながらトマクは左右と正面に1枚ずつ<光の強化盾>を展開する。
風刃がトマクに届く前にコウが後ろで作り上げた<風の百矢>2セットが発動し、コウの頭上を通りながら二百の風の矢がトマクの正面に降り注ぐ。
それから1テンポ置いてコウは<加圧弾>で自分の背中に体全体を前へ飛ばす空気の塊を作り出し、トマクへ向かって吹っ飛んでいくように接近する。
トマク側は風刃を受け止めると同時に、正面の風の矢も魔法障壁で受け止めていくが
トマクもコウが一気に突っ込んできたことは把握しているので、左右どちらから攻撃して来るかぎりぎりまで見極める。
正面はまだ風の矢が降り注いでいるので、普通に考えれば真っ直ぐ突っ込んで来るのはあり得ないのでトマクは左右どちらかだと踏んだが
コウはその裏をかいて自分の風の矢をくらいながらそのまま正面から剣を突き刺す様に突っ込んで魔法障壁を破壊する。
「おっと」
トマクは冷静にコウの突きを槍の柄で右側に受け流すとそのまま穂先をコウへ向けようとするが
自ら作り上げた<受け壁>で空気のクッションに叩きつけられるようにして止まったコウが
剣の向きを槍と平行にして槍の柄を沿うようにトマクの槍を持つ指を狙う。
「ほっと」
トマクはそれに気づき、右手から槍を左手に持ち替えながら槍の柄でコウの剣を地面に叩きつけるようとする。
コウは剣を地に叩きつけるような状態になりながらも、剣に魔力を込め切れ味を維持したまま柄頭に<加圧弾>を使って強引に剣先の側にあるトマクの右足を刺そうとした。
その行動にトマクも慌てたのか、槍への力を緩め強引に右足を下げつつ<光の盾>をコウとの間に作って、空いた右手で光の盾を押す様にしつつ左後ろへと飛んでコウとの距離を取った。
全てかわされたと判断したコウはトマクの足元付近に<風刃>を牽制として飛ばしつつ、トマクを見ながら後方へと飛んで着地後も後ずさりながらトマクとの距離を取った。
「やるじゃないか、さっきのはさすがに危なかったぜ」
そう言いながらも余裕そうに笑うトマクに対して
「十分なほど実力差を感じさせられました」
と真っ直ぐトマクを見据えたままコウは返答した。
コウの考えた初弾は予想通り通じなかった。
コウから見てあの動きはそこそこ本気を出した師匠に勝るとも劣らないものだった。
となると、やはり油断しきったところに一撃を当てる戦法しかうまくいきそうにない、そう考えてコウは魔力を展開し始める。
「おいおい、そこまで焦らずとももう少し下準備してもいいんだぜ?」
「お心遣いはありがたいですが、攻撃しないとトマク様が傷を負うことはありませんので」
「ははっ、それもそうだな」
コウの一言にトマクは軽く笑うと、使うつもりはないが念のためと30個以上の魔核から<光の集中盾>の型を作り上げストックした。
コウはその様子を見逃すはずもなく、防御魔法をストックすることから次は相当慎重になっていると判断して、決めの流れは次以降にしようと判断した。
コウは<水生成>で大量に水を作り出し、地面を水浸しにする。
訓練場は約2cm程の深さの水が張り巡らされた。
もちろんトマクはこんな水など光の魔力で光子化して消し去ることも出来たが、防御魔法もストックして準備万端だったので何をしてくるか楽しみでそのままにしておく。
コウは<水走り>を自分にかけると水の上を走ってトマクへと突っ込んで行った。
「突っ込むならさっきまでの加圧弾でよくないか?」
そう言いながらトマクは向かってくるコウに槍の穂先を向ける。
それを気にすることなくコウはもう少し距離を詰めると、地面の水を使い右足に真上へ方向への力をかけ高く飛び上がると<水刃>を2発ルトスへ向けて放つ。
更に地面から水を集め2mくらいの高さの台を作り、コウはそこへ着地しつつ魔法の型を組み上げだした。
トマクは槍に<斬撃光>を使い真っ直ぐ自分に向かってくる水でできた刃に対して垂直方向に振った槍の軌跡の斬撃を飛ばす。
だがコウの水刃が思ったより威力があったのか、トマクの放った斬撃を砕き迫って来るので
トマクは<光の強化盾>を使って2発の水刃をなんとか防ぎきった。
防ぐのに一手間かかったこともあり、コウの攻撃は続く。
「次は、これで」
コウが叫ぶとともに<水球の暴打>を使い大きな水の塊が出現。
そこから大きめの水の玉が15発ほど勢いよくトマクに降り注いだ。
トマクは先ほどの水刃の威力からやや警戒心を上げ、即座に2枚重ねた<光の強化盾>を作りその攻撃を受け止める。
10発ほど受け止めた時点で1枚目が割れ、それを見たコウがだいぶ小さくなった水の玉の本体をトマクへ向けて放つ。
トマクは型から<光の集中盾>を先ほどの盾の後ろに作り出し、コウの一撃を受け止める。
先に作った強化盾は割れたものの大きな水の玉を集中盾は受け止め、水の球は砕けて周囲に水をまき散らした。
「その程度じゃ通らないぜ~」
と余裕をアピールしていたのも束の間、トマクの足元に水が集まってきて膝くらいの高さまでになり、さらに大きく渦を巻くように回りだしてトマクはかなり動きづらくなる。
即刻魔力で打ち消そうかと思った時、既にコウは先ほどの足場から飛んでトマクを真っ二つにしようと剣を振り下ろそうとしていた。
(つくづく暇を与えてない攻撃をしてくるな)
トマクは少し自分の対応の遅れを悔やみつつも、対応が遅れたので足元の渦は無視して槍に魔力を集中し、コウの空中からの一撃を受け止める。
はじかれつつも少し離れた位置に飛ばされたコウはそのまま渦の端の方に落ちた。
「ちっ、こりゃ水切りか」
そう言うとトマクは急いで足元に密着した状態の<光の強化盾>を張り、周囲に魔力を展開して渦を巻く水を光子化して消し去りつつ防御魔法の型を組む。
が、コウは水の中にある対象にそのまま斬撃の威力を伝える水切りを使うこと無く、その場で<風刃>を使いトマクの首付近を狙いつつ自分の背中に<加圧弾>を作り発動させ、吹っ飛んだ勢い任せにトマクに剣を向け突っ込んできた。
「か、風かよ、マジか」
そう言いながらトマクは槍を水平から垂直方向にして魔力を流し
風刃を受け止めながら、渦で少し軌道のずれたトマクの右側を通り過ぎるコウの横一線切りを受け止めると、一気に大量の光属性魔力を周囲に放出して水の渦を全て消し去った。
通り抜けながら一撃を入れようとしたコウは、はじかれて軽く飛ばされながらも着地し、再び後ろに飛んで距離を取った。
「いや~、こりゃ楽しいな」
トマクは満面の笑みを浮かべてコウを褒める。
「こっちは何も通じなくてかなり困っていますけどね」
繰り出す手を全て防がれ、少し困惑した表情でコウは答える。
「いやいや、相当な実力だぜ。君ならうちで魔法兵千人を率いる部隊長だとしても不思議じゃないくらいの腕前さ。
それでどうだ、思い切って俺の直属の部下にならないか?」
「いえ、まだまだ未熟者ですから」
コウはトマクに剣先を向けたまま魔力を展開しつつ魔核を動かしながら答える。
「うーん、なら俺がクエス様の弟子になれば・・」
「それは無理だと思いますよ」
コウは少し吹き出しつつそう言いながら<風の槍>を1本トマクへと飛ばす。
「だよなぁ」
トマクは自然にそれをかわすと残念そうにつぶやいた。
「では次行きます」
そう言うとコウは休む時間もほどほどにすぐに次の攻撃に入る。
コウは<豪風>を使い強い風をトマクに浴びせるが、トマクは周囲に魔力を展開し魔力障壁によりその風の影響は受けずにいた。
「おいおい、せめて破壊の風くらい使えよな」
とトマクがぼやいた瞬間コウのいるあたりからかなりの魔力を感じて、トマクは反射的に盾系の型を作り出す。
「螺旋砲」
コウが大声で魔法名を言うと魔力あふれた風がかなりの速度でらせん状に回りながらトマクへと飛んでいく。
「やばっ」
トマクは想定以上の一手に身の危険を感じ、自分の魔力を一気に突っ込んで<光の集中盾>を作るとストックからも型を取り出し<光のオーラ>を発動させる。
集中盾が直径20cm程の渦を巻く風の一撃を受け止めると、コウの螺旋砲は受け止めている集中盾を削るように押しながら回転し続ける。
わずかに盾を削る音が響いたかと思うと、直ぐにトマクの作り出した集中盾にひびが入る。
「マジかよ」
あわててトマクは銀色の大きい盾を取り出すと、螺旋砲を受け止めようと盾を構えた時光の集中盾が割れる。
盾が砕けた反動でトマクは一瞬ふらつきつつも、螺旋砲を盾でそのまま受け止つつずり下がり、何とかコウの一撃を無傷で受け切った。
「ふぅ、やっべぇ。もろにくらうところだった」
さっきより明らかに余裕をなくした態度でトマクが盾を収納する。
コウは少し視線を落として小さくため息をついた。
「そんながっかりするなって、さっきのはすごかったぜ。ルトス様に向けて放ってれば魔法障壁なんか即破壊して、腹をえぐられ重傷だったかもしれない威力だったからな」
「そりゃ奥の手でしたから」
「きっちり強化までした状態でぶっ放してくるとは思わなかったぜ」
「それでも無傷じゃないですか」
コウは不満層にトマクに抗議する。
「まぁ、そこは俺が相手だからしゃーない。正直俺が金を出さないでいいならこの時点で負けを認めてもいいくらいだったな」
その言葉にコウは悔しそうにしながらも再びトマクに向けて剣を構える。
それを見たトマクはまだコウのやる気が残っていることを喜んだ。
「そうだな、その意気じゃないと。まだあと半分くらいは時間があるはずだぜ。手を止めても俺は傷を負わないからな」
トマクはまだ気力の衰えないコウに来いよと挑発した。
2日空きましたが無事更新です。今話も見ていただきありがとうございます。
ブクマ等々頂ければ幸いです。
次も戦闘パートが続きます。戦闘は修正が大変・・。
魔法紹介(今回は多いので一部)
<加圧弾>風:圧縮した空気を作り出し、一定方向に開放する魔法。作った圧縮空気は飛ばせない、動かせない。
<受け壁>風:空気でクッション壁を作る。固さ調整可能。
<水球の暴打>水:魔力を含んだ巨大な水球を生み出し分裂させ飛ばす。
<渦巻>水:水を生み出すとともに渦を巻き作り相手の動きを封じたり、転倒させたりする。