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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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ルトス戦終了後の観覧席で

ここまでのあらすじ


コウの実力を測るために行われたルトスとの戦いは、コウの勝利に終わった。

だが周囲の思惑はそれだけでとどまることはなかった。


少し戻ってルトスとコウの試合再開直前

観覧席では試合が再開されるのを3名がじっと見守っていた。


「クエス、お前はコウが勝つと思っているのか?」

「別にどっちでもいいわ。ボルティス様が認定証をくれるならね」

「御二人とも始まります」


トマクの一声にクエスとボルティスも訓練場の複数のモニターを見つめる。


開始後すぐにルトスは再び遠距離からの多彩な攻撃でコウを足止めし削り続ける。

先ほどの攻撃に光の矢も交えて更に多彩さを増した。


「おっ、あれはちょっと前に俺が直接指導していたやつですよ」

嬉しそうにトマクは話続ける。


「これならコウもさっきより動きづらいかもしれないな」


トマクの言うようにコウの防戦一方が続く。

コウは攻撃する隙がないくらい追い詰められているように見えた。


「ふぅん」

クエスはルトスの一言に興味を示したのか少し感心した様子を見せる。


ほんの時々コウが反撃する以外は一方的なルトスの攻撃が続くかと思ったときだった。

コウがルトスにあまり意味の無い足への妨害を行った事で場が動く。


「へぇ」

クエスは右手であご付近を触れながらモニターを見つめ少し感心した声を上げたかと思ったときだった。


モニター全体が霧に包まれ即座に魔力判定の映像に切り替わるが、霧に付随して撒かれたコウの魔力が邪魔でコウの動きがいまいちわからなくなる。

そして十数秒後、ルトスが壁にたたきつけられて吐血したのが確認できた。


「ん、こりゃダメですね。終了させます」

「ああ」


トマクの意見にボルティスはうなずくとトマクはルトスの前面に<光の集中盾>を発生させコウの風刃を2発とも受け止めた。


「おぉ、なかなかの威力」

盾越しに感じたコウの風刃の威力にトマクは嬉しそうにしながら感心する。


「さっ、これで終わりね」

クエスが立ち上がってそういうと背伸びをする。


「では俺が奥に待機している救護隊にルトス様を預けつつ、彼を迎えにいってきます」

そう言ってトマクは観覧席から飛び出していった。



これでクエスと2人っきりになり思い切った話ができると思ったボルティスは直ぐにクエスに話しかける。


「うむ、とりあえず師となるには十分な強さのようだな。魔法の扱いも上手いし戦い方も思った以上に慣れている」

「ありがとうございます。ボルティス様」


「それでだ。認定証の件は後日渡すとして・・あれは本当に1年目か?」

「それは褒めすぎです、ボルティス様。コウはまだまだ未熟な点が多いですから」


「それはお前の目線ならそうかもしれん。だがあれなら5~6年目の魔法使いと紹介しても遜色ないぞ。

 しかも相手を切る事にほぼ迷いを感じなかったな。一体どういう指導をしているんだ」


「あくまで最低限戦える指導ですよ。戦いの場では何年目なんて相手は考慮してくれません。

 一応言っておくと、まだコウは相手を殺した経験はないですから。ただ、遠慮なく負傷させる経験は十分にさせてますけど」


クエスの言い分に少し呆れため息をついて、ボルティスは再び話し出す。


「普段の見た目は礼儀に気を遣うおとなしいタイプのようだが、よくここまで・・」


「慣れ、ですよ。それに相手を傷つけることに慣れれば後は放って置くだけで死ぬので、殺す経験はゆっくりと魔物相手からはじめるつもりです」


「そこはわかった。しかしこれはどう見ても逸材だぞ。認定証を出す代わりに一つだけ約束しろ。あの男を他の一門に渡すな」


「師匠はボサツもいるのでそこは私の力ではなんとも」

クエスは少しふざけた感じで困った表情をする。


「なら他派閥に渡すな」

はいはい、とボルティスの強い指示にクエスはあしらうかのように返事した。



その間トマクはすばやく訓練場に降りるとルトスを奥へ運んで治療を指示しつつ、直ぐにコウの元へと戻ってきた。


「さて、君がコウだよね」

「は、はい」


「うーん、最初見た時の雰囲気ではわからなかったけど君は相当戦える奴だねぇ。上から見ていたけど驚かされたよ」

トマクはコウに軽い調子で話しかける。


「いえ、先ほども余裕のある戦いではなかったのでまだまだです」

「まぁまぁ、それでどうかな、俺と一戦やってみないか?」


この人は何を言い出すんだとコウは驚いた。

コウの前にいるのは当主であるボルティスを守る最側近であり、ギラフェット家の守護槍と呼ばれるトマクだ。

今のコウの実力では到底及ばないことくらいコウ自身も十分理解していた。


「戦ったところで私が一方的にやられるだけだと思います。お互いに得は見いだせない意味のない手合わせになるかと」

コウは観覧席へと向かう階段をのぼりながらやんわりと断る。


「いやいや、そんなことはないだろう」

コウの話など聞いていないのか、トマクはそれでも戦おうと誘ってくる。


コウは最初、軽い冗談か社交辞令みたいなものだと思っていたが、何度も食い下がって来るので本気だと理解し、仕方なく師匠の名前を出すことにする。


「申し訳ありません。これ以上遅くなるとクエス師匠に怒られてしまいますし、私はまだ戦い方が安定しないのでできるだけ戦いは避けるように言われているのです」


「うーん、そっかぁ。まぁ、この後決めるとしよう」


トマクはそう言うと、階段を上り終え観覧エリアへと入っていく。

コウは話の通じない人だなと思いながらその後を付いて行き、観覧席エリアへと入っていった。



「コウを連れてきました、ボルティス様」


トマクは楽しそうにボルティスに告げる。

続いてコウも後ろから礼をした後ゆっくりと観覧エリアに入る。


「コウ・アイリーシア、戻りました・・って、えっ、師匠!?」


「コウ、お疲れ様。なかなかいい試合だったわよ。途中から見学させてもらっているわ」

クエスは嬉しそうににっこりとほほ笑んでいた。


「あっ、えっと、すみません。ボルティス様に呼ばれて、それで、ここへ来ざるを得なくて・・」


「ふふっ、いいのよ。ボルティス様じゃ仕方ないわ。それよりなかなかいい攻め手だったじゃない、完勝ね」

「いや決して完勝とは・・」

なぜかクエスがいて戸惑うコウだったがクエスはまったく気にしていない様子で対応する。

そこへボルティスが割り込んできた。


「コウ、見事だったな。報酬としていた約束の件は必ず行おう。果たされた場合はその内容を必ず君に連絡する、それでいいかな?」

「ええ、それで十分です。ありがとうございます」


コウはボルティスに深々とお辞儀をする。クエスはそれを何事かと不思議そうに見ていた。


「約束の件って何?」

クエスは興味を持ったようでコウに質問するが、それをボルティスが遮る。


「これは私とコウの間での約束だ。他言は出来ないので追及は止めてもらいたい。もちろんコウにとって悪いことでないことは保証しよう」

「そぅ」


クエスは少し不機嫌そうな顔を見せたが、それでもそれ以上は追及しなかった。

クエスとコウはこれで終わりだろうと見合わせて帰ろうとしたとき、先ほど第2王女ルルカを呼びに行ったメグロが戻ってきた。


「すみません、ボルティス様。ルルカ様は今、対外対応で忙しくこちらに来られないと撥ね退けられまして」

「はぁ、わかった。こんな時にあいつは・・」


ボルティスはがっかりしたかと思うと何かを思いついたのか、急にトマクの方を見た。

その視線で理解したのか、トマクはクエスに近づき急に頭を下げる。


「クエス様、お願いがあります」

「えっ、何よ突然」


唐突なトマクの態度にクエスは少し驚くとともに引いていた。

だがトマクは遠慮なく言葉を続ける。


「先ほどの戦いを見て、ぜひ私とクエス様のお弟子さんの手合わせを許可願えないかと」

それを聞いてクエスとコウは露骨に嫌な顔をした。


「そんなことして何の意味があるのよ?」

「えっと、例えばボルティス様の認定証に重みが出るとか・・」


とっさに出たトマクの言葉にクエスは何を言っているんだとため息をつき、周りのボルティスとメグロも「はっ」と吐き捨てるのように息をしてルトスの間抜けさに失望していた。

コウだけは何のことかわからずに首をひねっていた。


「いまいち何のことを言っているのかわからないけど、ボルティス様が出したくない物なら別に無理には要らないわ」

「えっ、いや・・」

クエスの返答にトマクは自分のミスを自覚して焦り始める。


「えっと、それじゃ・・そうだ!俺に勝てばコウには欲しいものを与えるとか言うのはどう・・でしょうか?」

その言葉にすぐにコウが眉をしかめる。


「すみません、俺はどんなに奇跡が起きてもトマク様に勝てる程の実力はありません。それに師匠、俺ってこれ以上戦っていいんですか?」


「まぁ、別にいいわよ。公衆の場で戦うわけじゃないし。無用な戦いは絶対に避けるよう言っていたけど、コウがどうしてもっていうなら許可するわ」


「はぁ・・でもトマク様の言い分はあまり意義を感じないので辞退させていただければと思います」


コウとの手合わせが完全に否定された状態になり、トマクは頭を抱えていた。

その状況を見ていたボルティスが仕方なく助け舟を出す。


ボルティスとしてもコウに自分の娘と面合わせをさせたい思惑があったので、できればここにもう少しいてくれた方がチャンスがあるのだ。


「どうだろう、トマクとコウの手合わせだが、トマクがかすり傷でも負えばコウの勝ちならば勝負になるのではないか?」


「へぇ、そうねぇ。ならトマクの勝利条件に10分、いや15分経過までにコウに大きなダメージを与えてないことも追加してもらえない?」


「ふむ、なるほど。確かにトマクが本気で攻撃すればコウは為す術なく負けるだろうからな。時間制限とダメージ制限をつければチャンスがあるか」

ボルティスの案にクエスまでもが乗っかり、戦うはずの本人たちが置いていかれる状況になっていた。


「ではかすり傷も詳細に決めておきましょう、血がにじむ程度でアウトというのはどうでしょう。吐血も負け判定で」


「それならそこそこコウにも勝ち目があるかもしれないわね。面白い試合になりそう」


今度はメグロが案を出してきて、またもクエスが同意する。

この状況にさすがにコウがやばいと感じたのか、外堀を埋めさせまいと反論する。


「ちょ、ちょっと待ってください。これあまり戦う意味があまりないですし、個人的には戻って修行でもと思っていたんですけど」

せっかく手合わせの流れになってきたのにコウが否定しだすので、慌ててトマクが説得にかかる。


「いやいや俺と戦える機会なんてそうそうないんだし、手合わせをしようじゃないか」


だがそんな言葉ではコウはやる気にならない。

かすり傷を与えれば勝ったことになると言われても、自慢できることとは思えないし、そもそもそんな自慢をする相手はコウの周りにいない。


さらにコウからしてみれば攻撃しても防御や回避でただ時間を稼がれ、結果負けるだけだとしか思えない試合なので、拒否するのは当然の反応だった。


そんなコウの態度に何とか押したいボルティスが声をかける。


「どうだろう、勝てばクエスでもなかなか入手が難しいものを褒美としてコウに与えようじゃないか」

「は、はぁ」


コウは色々と考えてみるが、そもそも生活環境がアレなこともあって現状欲しいものが思いつかない。

今のコウの日常はほとんどが、食事、修行、座学、睡眠で占められているからだ。


もっと言えばこの世界の道具や娯楽をコウはまだ詳しくは知らない。

街中に買い物には行ってるが、コウはほとんどより道もせず修行に必要な物しか目にしないので物欲の元となる情報がほとんどない状態だった。


「その、せっかくの申し出に失礼だとわかってはいますが、あまり欲しいものが思いつかなくて」


「ほぅ、コウは日常で修業以外何かやっていることはないのか?」


「修行以外ですか・・暇つぶしに魔法書を読んでいるくらいです。クエス師匠やボサツ師匠が結構魔法書を持っているので」

コウの話を聞いてこれは使えるとボルティスは勝ちを確信した。


「それならば私の集めているとても貴重な魔法書の中から好きなものを1冊与えよう、クエスでも手に入れるのが難しい程の魔法書だ」


それを聞いて興味がわいたのか、コウはクエスの方を見て、クエスはお好きにどうぞという態度で返した。


だがコウとしては当主様を守るほどの強者にそもそも傷一つ与えられる気がしない。

少し悩んでコウはクエスに相談することにした。


「師匠、正直言って俺はトマク様にかすり傷一つ与えられる気がしないのですが」


「そうね~、かなり難しいのは確かね。ただコウが持っている剣ならトマクの魔力障壁も余裕で通るだろうし、LV30以上の魔法を直撃させればかすり傷くらい十分行けると思うわよ」

「可能性は0ではないんですね・・」


コウは少し悩みながらつぶやいた。

これはもう一押しかと思いトマクがコウに声をかける。


「ならコウが負けた場合でもそこそこ価値のある魔導書を1冊、勝てば貴重な奴を1冊ならどうよ。やる気もやる意味も出るだろう」

勝手に条件を増やすトマクにやや呆れつつもボルティスはそれを許可した。


「ただし、トマクが負ければ魔法書の購入額の1割は給料から天引きするぞ」


ボルティスの一言にぎょっとした表情を浮かべるトマクだったが、最終的にはコウが乗ったことでトマクも手合わせできる誘惑に負け試合が行われることとなった。

なお褒美となる魔法書はコウが風の属性を指定したので、ボルティスは決着までに準備するとコウに伝えた。


トマクとコウが訓練場へ降りていくとボルティスはメグロに声をかける。


「メグロ、すぐにルルカに貴重な風の魔法書をここに持ってくるように伝えろ。国王からの命令としてだ」

「はい。ですが、ルルカ様は先ほどから・・」


「その魔法書は王族以外立ち入れない場所に保管している。ならばルルカに頼むしかないだろう」


「そうでしたか、了解しました。そこそこ貴重な魔法書も誰かに持ってくるように伝えておきます」

「そうだな、頼むぞ」


王の命を受けメグロはすぐに部屋を出て行った。

出る間際、試合の記録を見せてくださいねとしきりに言っていたので、ボルティスはちゃんとログを取っておくとメグロに伝え、それを聞いたメグロは安心して命令を伝えに行った。


「上手くやるわね、ボルティス様は」

不機嫌層にクエスはぼやく。


「何のことだ、クエス」

「別に」


クエスは抜け目ないボルティスに感心しつつも第2王女が来ることに抵抗することは諦め、試合前の弟子の様子を観察すべくモニターと実際の訓練場を見つめる。



試合前のコウの様子をじっと見つめるクエスに、ボルティスは再び話しかける。

コウの1年目とは思えないほどの戦いへの慣れにボルティスは少し危うさを感じていたからだ。


「クエス、私から見て彼はあまり争いごとを好むタイプに見えん。なのに短期間でこれほど迷わず戦えるとなると修行で相当な負荷をかけてはいないか?」

「私の指導方針に不満があるの?」


クエスは反論するが、ボルティスはここだけは強く言っておかねばと思い、一呼吸おいて話し始める。


「負荷をかけるなとは言わんが、あれだけ優秀な人材だ。負荷をかけすぎて精神的に潰すのだけは避けておけよ」


「わかってるわよ。少々危ない橋は渡らせたけど、そうそうやらないから安心してよ」


「既にやっていたか・・理解はするが・・」

ボルティスはお説教モードに入ろうとするが、クエスが間髪入れず反論する。


「聞いて。コウは突発的に行動する割には迷わず相手を殺せるような度胸はまだないわ。だからメンタル面は気を付けて見てるわよ。

 だけどコウのあの性格は自分が動けないことで何かを失った時の方が精神的に引きずる可能性が高いタイプなのよ。だから最低限動けるようにしておくのがベストだと判断したの」


クエスの言葉にボルティスは悩む。

確かにそう言うタイプもいるが、そのタイプはいうなればもっと戦闘に向かないタイプだ。


戦いの中で仲間が死んだのは自分のせいだと思うと、あれもこれも自分のせいだと思えて結果的に潰れてしまう。

大きな戦いでは仲間が死んでもそんなこともあるという程度に感じなければやっていけないほど、仲間や知り合いは掃いて捨てるほど死んでいくものだ。


「そうか、それならばコウは運用を考えないといけないタイプのようだな」


「そうだけど、しっかり自分が動けるようになっておけば、少なくとも潰れるリスクは減らせるでしょ?」

「ふぅ~、確かにそうとも言えるがな」


ボルティスはそれだけ言うと訓練場のコウへと視線を向けた。


少し酒が入った状態でこんばんわ。

何とか無事に更新できました。今はついに4章の雑書きに入りつつあります。

これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします。


今話も読んでいただいた皆様に感謝を。そして私自身にはやる気を。

では

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