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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
1章 魔法使いになります! (1~17話)
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氷の契約の裏事情

コウが氷の精霊と契約した時イレギュラーが起こった。(前話)

これはなぜそれが起きたのかの裏話。


ここまでのあらすじ

魔法使いになるために必要な精霊との契約を何とか終了。


コウが眠りについたことを確認すると2人は寝室部屋へ移動した。

ボサツが再び部屋に音漏れ防止の魔法をかける。部屋中の外壁がわずかに緑色に光って消える。


「さてと、くーちゃん。ちゃんと説明はしてくれます?」

ボサツは貴方がやったんですよね、知ってますよと言わんばかりのすました笑顔でクエスに語りかける。


「あー、やっぱりばれてた?」

「当然です」


あまり悪びれる様子も無く、やっぱりかという表情で話すクエス。

バレたなら仕方ないか、といった感じでクエスは口を開いた。


「簡単に言うとね、妹に頼まれたのよ。今回の一件は」

「妹というと、ミントさん?……もしかしてエリスさんでしょうか?」


「ええエリスよ。最初頼まれたときは私も「本気?」って聞き返したくらいなんだから」

そういうと前日の事をクエスは話し出した。



「昨日、私たちが契約の準備をしているときコウは寝ていたでしょ?ちょっとその様子を見に行ったときに、いきなりコウの中にいるエリスから声をかけられたのよ」


今日の契約の儀式に必要なセッティングのため、昨日は夜通しで準備していた。

普通は契約の場所として配置がきっちり決まっている精霊の神殿などを使うのだが、今回はコウのことを外に漏らしたくないため

アイテムの配置をきっちり調べなおして各個室に配置していたのだった。


この作業にはかなりの時間を費やしている。

この配置や動作タイミングなどはとても重要なもので、慣れない2人は準備だけで夜通しの作業になってしまった。


「それで?」

「氷の契約のときに試したいことがあるから手伝って欲しいと言われてさ」


精霊との契約は仮にも厳かに行うべきものだ。

少々問題があったとしても精霊が激怒した例はほとんど耳にしないが

トラブルを起こすと、契約が出来ずに再契約が1ヶ月先延ばしになるという話は時々漏れ伝わってくる。


「あまり気が進まなかったんだけど、とりあえず言われたとおりに氷の精霊との契約時に使う簡易式魔方陣にエリスの魔力をも感知できるように細工したのよ」


精霊と契約する場合、契約する相手を当然1人指定する。基本的には魔方陣の中にいるものだけだ。

それをクエスは残っていたエリスの魔石の欠片に細工して、周囲に添えることでエリスがこの契約にかかわれる余地を残したのだった。


「上手くいけばラッキーということで、って感じで聞いていたんだけどね」



「それはかなり危険な行為ですよ。精霊との神聖な契約に割り込んでいるようなものです。しかもエリスさんはその精霊とは契約済みなのでしょう?

 状況によっては氷の基本精霊の力の欠片が2か所儀式内に存在していることになるんですから」


「そりゃね。まぁ、私も最初は反対したんだけど…エリスが簡易式だと1つの精霊としか契約できないけど、うまく契約の場に潜り込めればエリスが契約してる氷の精霊とも契約できるかもって言うから」


簡易式だと契約できる精霊は1つ、しかも全てその属性で基本となる精霊だ。

ちなみにこの連合内で簡易式契約はほぼ行われない。

特に光属性は神殿が充実しているし、簡易式にはデメリットしかないからだ。


エリスの契約している氷の精霊はレアな物も含んでいるのでコウに移譲、いや紹介したかったのも判る。

が、文言を間違えるとかのレベルじゃないイレギュラーだ。

これでは力のコントロールが上手くいかず部屋のあちこちが氷付けになったのもうなずける話だ。


そんな話をしているとこの部屋の扉に近づく魔力を感じる。

2人はとっさに警戒態勢をとりながらも考える。


「コウが起きたのでしょうか?」

「でも音は漏れていないはずよね」


そう話していると扉が開き、そこには青白い光を発する小さな魔力の塊のようなものがあった。


「ん?その魔力…ひょっとしてエリス!?」

「そう。たぶん昼間のことで姉さんが怒られるのをうまくフォローしようと」


クエスの発言にボサツは一瞬驚くもののすぐに笑顔で語りかける。


「よろしくお願いします。エリスさん」

「ボサツ様、こちらこそよろしくお願いいたします。あと、姉と依り代が御世話になっております」

「うるさいわねー、私はそんなに一方的には御世話になってないわよ」


クエスがぷいっと顔を背け、エリスの話を否定する。そしてエリスがこの話に参加することになった。


「ご迷惑をおかけしたので、せめて説明をと」

あまり抑揚の無い声で淡々と話すエリス。


氷を第一属性に持つからなのか、エリスは肉体があったころから精神的な上下はあまり大きくない。

また説明といっても相手に直接語りかけるテレパシーを使うので、声が部屋に響くわけではない。


エリスがこの部屋にやってきた時、クエスはそのエリスの精神体と思しき魔力の塊の青白い光を見て気になることがあった。

どうみても魔力がずっと霧散している不安定な状態で、しばらくすれば消滅するとしか思えない状況だったからだ。


「エリス、あんたその状態あまり長く持たないんじゃないの?」

「そうね。なので早く説明させて、姉さん」


その通りというエリスに驚きはしたものの、今は問い詰める時間も惜しいのでそれ以上はクエスも問いたださなかった。



「で、やるべき細工はしたけど結果はどうなったのよ?部屋の惨状からあまりいい結果になってない気がするんだけど」

「私もお聞きしたいですね。研究対象外の分野ですが今まで例のない実験です。実に興味の湧く話です」


ボサツはさっきクエスに注意した立場にもかかわらず、今や打って変わって興味津々だ。

ボサツは様々な研究も行っているので面白い例として知っておきたいのだろう。

まぁ、一つの肉体に二つの意思が共存している例は聞いたことがないので、今後応用できる機会も少なそうだが。


「結果から言うとそこそこうまくいきました」

「おぉ」

「ほうほう」


2人ともエリスの話に耳を傾ける。

と言ってもエリスは音を発してはいないので実際に耳を向けてはいないが。



「精霊が契約の場でコウに力を与えようとしている時、その場に私が契約している別の精霊の力をそれぞれ放出したんです」


一定のレベルと条件が必要になるが、それを満たせば自分が契約している精霊を第三者に契約させられるようになる。

クエスやボサツがコウ相手に風・水・光の精霊を契約させたときのようにだ。


「つまりは精霊しか作れない契約の場に割り込んでエリスの契約精霊も参加させようとした感じでしょうか?」

「ほぼその通りです」

エリスは平然と返答した。



精霊はこの世界に置いて魔法の力を貸してくれる基礎的な存在であると共に

魔法使いにとっては信仰の対象でもある。実際に世界に対して圧倒的な力を発揮した例すらあるのだ。

それを実験的な試みとはいえ、精霊を混乱に巻き込むのは普通に考えればご法度だ。


「エリス、あんた…」

「それはさすがに……まずいのではないです?」

さすがの2人も絶句気味だ。


「まぁ、途中までは思った以上にうまく行ったんだけど…当然私も今回契約しようとしている氷の基礎になる精霊を持っているので、契約のために降りてきた精霊の力が急に重複と判断して…」


「めちゃくちゃになったと?」

「まぁ、そんな感じかな」


悪びれる様子のないエリス。クエスはあきれ返っている。

ボサツは興味を示すものの、やはり精霊に対する信仰心からかちょっと引いている。


ややこしいことになったが、体を持たない存在でしか入れない契約の場にエリスが入り込み自分が契約している精霊の力の欠片をコウに契約させようと場に放出した。


その時加減が出来なかったのか、それともその精霊の欠片の意志なのか、5体の精霊の欠片が契約に参加することになった。

だがそのうちの1体は同じ精霊からの欠片になるので、異常な状況と判断されてその基礎となる精霊の力だけその場から消えてしまい

コウは残った4体の氷の精霊と契約が完了したらしい。


「あくまで推測だけど、そもそも魔力体に2つの精神体がある上に、コウとは契約しておらず私にだけ契約している状態が不自然でそんな私が契約の場に割り込んだので、結果おかしな結末になったと思う」


本当なのか適当なのかわからない話をエリスが言い出す。

聞き方によっては言い訳にしか聞こえないのだが。


「でもさ、簡易式って普通は各属性の基本精霊としか契約できないはずよね」

「たぶん基本精霊しか呼び出せない、コンタクトが取れないというのが正しいんじゃないかと。私の出した5体の精霊は制御できず全部出てきちゃったし。その内の4体は契約まで出来ちゃうし」


エリスの精霊に対する敬意のなさにクエスは頭を抱える。

「それは興味深い話ですね」

ボサツは論理的には理解できるといった感じで興味があるようだが、クエスはもういいといった感じだ。


「まっ、うまく行ったからいいでしょ。今回呼び出した基本精霊は2月後にまた契約しなおせば」


「エリスの方に問題は起こってないの?コウも降ろした精霊とは全く違うエリスから分かれて出てきた精霊と契約になったんでしょ?それって正式な契約として認められるの?」


「よくわからないけどなるようにしかならなかったし、後の調査は姉さんに任せる。私の方は多分大丈夫。5つの精霊とも契約状態は切れてないことは確認できたし」


クエスは「なにそれ」といった感じだが、ボサツはその横で黙って色々と考えていた。


「不思議な現象ですね。知識としてはありがたい話でしたけど…」


ボサツはもう少し情報を欲しかったが、エリス当人もよくわかっていないようだったのでひとまず現象だけを記憶にとどめるだけにした。

そもそもあまりに特別なケースなので再現実験することも困難だからだ。


「とにかくコウには私からうまく誤魔化しながら説明するから」

もうおかしなトラブルは勘弁してくれ、といわんばかりにクエスは話を打ち切った。



話の流れが一旦止まったのを見て、エリスが質問をしだす。

「そういえば姉さん、私たちの仇はもうわかったの?まだいるのならぜひ協力したい」

いつもの淡々とした口調と少し違い、単調なものの芯には冷たく強い殺気のようなものが混ざっている。


「ふふふ、悪いわねエリス、仇は大方殲滅したわ。もちろんミントと共にね。

 私たちの大切な父と母、そして……あなたを私達から奪ったやつらだもの、生かしてはおけないわ」

クエスが最後だけ特に語気を強める。


「くーちゃん、あまり殺意を出さないでください。コウを起こしてしまいかねません」

「あぁ、ごめん、つい」

穏やかなボサツの注意に、クエスは本気で反省していたようだった。


「そっか、もうやっちゃったんだ。姉さん、何も力になれずごめん。ミントにも謝っておいてもらえると助かる」


「ううん、別にエリスが謝ることは何もないわ。私とミントはエリス、貴方に助けられたのよ。仇討ちまで手伝ってもらったら私たちは何なのってなるじゃないの」


「……そう、かもね」

姉妹の間にそれ以上は言葉が必要ないのか、部屋は何となくゆったりとした沈黙に包まれた。


「じゃ、私は彼の元に戻るね。もうそろそろここに居るのもきつくなってきたし」

「エリス……いや、その、また話できるよね?」


クエスはゆっくり話せたのが楽しかったのか、この時間がずっと続けばという気持ちでわがままを言おうとしたが思いとどまる。

ボサツはそのやり取りを微笑ましく見守りながらも特殊な環境にあるエリスに興味を隠さなかった。


「面白い発見があったらまた聞かせてくださいね」

「はい」


エリスがコウの中へと戻る。短いが貴重な時間を過ごした2人はボサツは聞いたこともない今回の現象を、クエスはエリスとの思い出を考えていたが

少し名残惜しい気がしながらも2人も寝床に着いた。


クエスは寝床で天井を見ながら思う。

やっと、やっとここまで来た。あとはエリスの肉体が元に戻せれば言うことない…。

けどもう無理をする段階じゃないのかもしれない、じっくりとやれば目的は必ず達成できる。

そう思い自分の中のはやる気持ちを何とか抑える。


あの日からここまで来たんだ、やっとここまで。

クエスにとってこの状況を失わないことこそが今では最も重要なことになる。


あの地獄を二度と近寄らせない、ミントにもエリスにも。たとえ私がどんな犠牲を払おうとも……。

クエスは目を閉じて自分に強く誓うと、明日のことを考えて頭を切り替えて直ぐに眠った。


修正履歴

19/01/30 改行追加

19/06/30 基礎精霊→基本精霊に変更。それにかかわる周囲の文を修正

20/07/14 ボサツの口調を変更、誤字を修正など。

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