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肥満勇者の欲望は  作者: 海国 遊泳
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五話 勇者のスキル



 スーのくれた情報を見ながらギルドに向かう。



 件の魔物は"赤腕"とよばれているらしい。犬が立ち上がったような姿で、背丈は二メートルほど。

人間の履くような膝までの長さのズボンを身につけている。

 被害にあった盗賊には切り傷と打撲、火傷がある。つまり火の魔法を使えるだろうという事。



 しかしそれより恐ろしいところは別にあるという事が書いてある。



『ねぇ、ほんとに行くの?まだスキルについての説明もしてないのに』

「行くよ。それよりもスキルとやらについて詳しく」

『えぇ~…』

 


 ラウニが不満げに話しかけてきた。というか何だスキルって。



『特異魔法ってあるでしょ?一般に魔法学校とかで教わるのとは別の、完全オリジナルの魔法』



 聞いたことある。一部の人だけが生まれつき使える魔法のことだ。

 ただそれが便利なものとは限らないらしく、特異魔法で得する人もいれば、「こんなのだったら無いほうがよかった!!」と言う者もいるらしい。

 まあ俺は特異魔法どころか、普通の魔法も満足に使えないんだけど。



『それに似たようなものを使えるようにできるの』

「へえ、やたら勇者がすごい力を持っているって聞くのはそういう事か。てっきりもとから特異魔法を使えるやつを勇者にしてるんだと思ってた」



 だから強いんだと思っていた、あと神器の力。

 


『でもそれですぐ強くなれるわけじゃないの』

「なんで?」

『めちゃくちゃ強いスキルをあげたいのはやまやまなんだけど、それをすると世界がやばい』



 急にすごい話がでかくなった。質問する前にラウニが続きを話し出す。



『まず、私たち神がいるところと、この世界をつなぐパイプみたいなのがあって、そこから私たちがこの世界を管理してたのね。ただ、そのパイプがいろいろあってもうボロボロなのよ。だから、急に大きい力を送ろうとするとパイプが壊れちゃう』

「壊れるとどうなる?」

『しばらくこの世界が完全に私たちの管理からはずれちゃうから、邪神の奴に何されるかわからないの。勇者とかもただの人間に戻っちゃう』

「よし、怖いから話を戻そうか、俺のスキルってどんなの?」



 軽い気持ちで聞き始めたけど、思ったよりもやばい世界の裏事情がわかってしまうので話を変える。



 というか、こいつ口が軽すぎる。何を聞いても答えが返ってきそうだ。好奇心だけで質問するのは後が怖いから控えよう。



 で、俺のスキルはどういうものになるんだろう。やっぱり強い力には憧れがあるからわくわくする。



『食べた生き物の体の構造をそのまま自分の体に組み込める〈構造模倣〉と、体内で作り出したエネルギーを自由に操れる〈気力操作〉』



 …なんか地味じゃない?勇者ってそういうもんだっけ?

いや、それも使い方次第という事なのだろう。もしも強い魔物に勝てたらその能力を使えるというわけだ。



「ということは竜を食ったら火を吹いたり、空を飛べたりするのか」

『無理じゃない?そのまま組み込むだけだから大きさはそのまんま、火を吹く組織なんてあんたの体でも収まんないよ。飛ぶにしても、でかすぎる羽だけ生やしてそれを使うための力はありませんでしたってなると思う』



前言撤回、そこまで自由度はないらしい。



「〈気力操作〉は?エネルギー弾とか出せるの?」

『いや、体内で操るだけだし。そういうのは無理』

「…じゃあ何ができるんだよ」

『…エネルギーをため込んだり、自然治癒力を高めたり?』

「なんでラウニが疑問形なの?」

『あんただけのスキルだし、工夫次第だとは思うけど、正直どこまでできるかわかんないから自分で試してほしいなっ!』



 雑だよもう。でもそういうもんか、仕事をしながら色々やってみよう。



 そういえばなぜかすれ違う人の視線が強い。なんでだろう?

 ああ、そうだった。ラウニの声は他人には聞こえない。

つまり俺ははたから見れば斧に話しかけている変態にしか…

 

『ねえ。どうしたの?急に黙っちゃって。ねえ、ち、ちょっと?どしたのほんとに!?ねえったらぁ!』



 急に恥ずかしくなった。心の中でラウニに謝りつつ、静かに早足で歩いてると、ギルドの看板が見えてきた。



* * *



 ギルドの中は思っていたよりも人が少なかった。よく考えれば、明るいうちのがやりやすい依頼のほうが多いのは当然か。



 そのおかげでテーブルがいくつも開いている。

そのうちの一つに座り、売店で買ったサンドイッチを片手に、家を出る直前にライゼルが慌てて渡してくれた勇者証を見る。


勇者証は手のひらサイズのカードで、あとは俺の個人情報を入ればそれで完成するらしい。

 というわけで記入していく。

 

『ねえ多くない?サンドイッチ、売店の人も驚いていたんだけど』

「そうでもないよ」


 周りにはそこまで人はいないが、また注目されたら嫌なので小声で返事をする。

山盛りのサンドイッチ五皿ぐらいならそこまで多くもないだろうに。

 

 そういえば、このサンドイッチを食べたエネルギーを使って〈気力操作〉の実験ができるんじゃないか?

 記入が終わったところで、食べる速度を上げていく。


『ねえ早くない?あんた今掃除機に見えるんだけど』

「大げさだなあ。普通だって」

『嘘だあっ!』


 二皿分を平らげて、エネルギーの貯蔵を試してみる。…。


「スキルってどうやって使うの?」

『やろうと思えばできる。そういう風に作ってるんだけど。まーやってみ?』



 そういうもんか。素直に言われたとおりにしてみる。

 すると腹三分目くらいだったのが、二分目ほどになった。



「なあ、エネルギーの貯蔵を試したらむしろ腹が減ったんだけど」

『ああ、そうなるんだ。たぶん胃の中から脂肪にエネルギーが移動してる』

「この短時間で消化しきったって事?」

『じゃない?』



 "はず"とか"たぶん"とか、"じゃない?"とか、とことん雑なんだけどこの女神。

 でもまあ実験は成功だ。もう少し実験してこう。



 指先を軽く、血が出る程度に噛みちぎる。痛い。

 そこで自然治癒にまわすエネルギーが多くなるように操作する。



 すると、じわじわかさぶたが出来て三十秒ほどで剥がれ落ちた。



 …便利かもしれないけども、求めていた勇者っぽさがない。



「地味すぎないか?これ。このちっちゃい傷にかける速さも微妙だし」

『使えるのと使いこなせるのは全く別よ。もっと短期間に大量にエネルギーを送れるようになれば一瞬で深い傷もふさがるようになるわよ。…多分』

「ぼそっと多分て言ったの聞こえたぞおい!」



 そうやり取りした後、サンドイッチをかき込む作業に戻ると、ギルドのドアが開いて、少年とも言えそうな見た目の人物が入ってきた。



 その人物は短い髪をして、動きやすそうな短パンとタンクトップに身を包み、中性的な顔をしている。


 

ただ一つ気になるのは、この場所に来たのに、ウエストバッグ以外、武器すらも何も持っているように見えない事。

 

 そいつはサンドイッチをほおばる俺を見て少し驚いた時以外、堂々とした足取りで受付のところに行き、こう言った。




「こんにちは、僕は勇者です。なにか困っていることはありませんか?」



その言葉は咀嚼を止めてしまうには十分な衝撃を俺に与えた。

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