2.すこやかな人
「ふふんーふふふふーんふんふんー♪」
鼻歌交じりに私は趣味の園芸中です。
なんで、侯爵家のご令嬢が園芸!?って思われると思いますが、やることがないんです、お嬢様って暇なんです。
本を読むのも好きだけど、ずっと家の中にいると体が弱りそうだったから、外に出よう!と思ったけど敷地外はダメだと言われたので、仕方がなく庭で走り回っていたらいろんなものを壊したので、怒られて怒られて怒られて、今に至ります。
お転婆?ん?そんなことありません!……………たぶん……………前世の私は運動ができなかったから、この軽い体が嬉しいだけなんです。
あ、そうそう!今日はトーマスとお花を植える約束だった!暇だし、呼びに行こうーーーっと
トーマスとは、我が家の専属庭師のトムおじいさんのお弟子さん。
たくさんの花に水やりを終えた私は使用人の宿へ向かった。
敷地内には使用人の下宿場所があり、そこにトーマスがいます。まだ14歳で、黒髪に茶色の目の結構顔が整った子。
「トーマース!あっそびましょー!」
元気よく扉の前でトーマスを呼ぶ。
「お、お嬢様!?なんでこんなところにまで!それに、お1人で!?す、すぐに準備しますので………!」
慌てて出てきたトーマスは少しだけ、疲れた顔をしていた。
ありゃ、なにか忙しかったのかな?んんん、迷惑だった………?
トーマスは1分もせずに出てきた。
「すみません、お待たせ致しました、一緒にお花を植えるんでしたよね。」
眉を下げてにこっと笑ったトーマスは、やっぱり疲れているように見えた。
「トーマス………疲れてるのー?」
「えっ」
普通に聞いただけなのに、すごいびっくりされてしまった。
「あれ…………ちがった………?」
「あ、いや、俺そんな疲れているように見えましたか?」
「う、うん…………ちょっとだけだけど」
そう言うと、トーマスはすごい大きなため息をついて頭を抑えた。
「俺もまだまだですねーー、」
「え………!な、なにが??」
「トムさんは俺の3倍は働いているのに疲れなんて見せませんからね、お嬢様に気づかれてしまうなんて、俺はまだまだです、」
「そ、そうなんだ………」
す、すごいプロ意識……………でも、まだ14歳なんだからしょうがないと思うけど、違うのかな?
こっちの世界は前世との年齢の感覚が結構違う。だって16歳で立派な大人扱いをされるらしいし、14歳で嫁ぐ女の子もいるとか、大変な世界だ…………
「あ、お嬢様?なんのお花をお植えになりますか?」
考え込んだ顔は消して、また眉を下げてニコッと笑うトーマスは何故か楽しそうだ。
「んーー、綺麗なのがいい!」
我が家の庭園の花は8割が薔薇で、それはそれで綺麗だけれど、ほかのお花も植えてみたいなぁーと、私が呟いたのがきっかけ。
でも、何の花を植えたいかなんて考えていなかった…………
トーマスと一緒に腕を組んで、首をかしげた。
「ふふっ」
少しこらえたような笑い声が聞こえた。
「アンナ!」
それは、私たちの様子を見に来た、侍女のアンナだった。
アンナは手を口に当てて、微笑んでいる。
「す、すみません、お二人がとても可愛らしかったので………っ」
アンナさん、いつまで笑ってるんですか…………
ほら、トーマスの顔が赤いよーー、照れちゃったじゃないか!初な14歳の少年をからかっちゃいけません!
「あ、そうだ!ねぇアンナ、どんなお花を植えるのがいいかな?」
「お花ですか?………そうですね………ディモルフォセカなんていかがですか?」
「……………なにそれ………?」
「いいですね!!」
ん?あれ、トーマス?知ってるの?え、なにそのディモなんちゃらって花。聞いたこともないんですけどーーー!
「お嬢様にぴったりの可愛らしいお花ですよ!」
トーマスがキラキラした目で見てくる。
うん、私のために選んでくれたのは嬉しいけど、どんなお花なのか教えて!
その後、夕食を食べ終わった私は書斎で花について調べています。
ディ、ディ、ディ……………あったー!
「ディモルフォセカ…………黄色い可愛いお花!…………花言葉は………元気、すこやかな人、豊富、無邪気、ほのかな喜び」
私にぴったりか………なんか嬉しいなぁ………てっきりうるさい!とかの花言葉かと思っていた………
「お嬢様………?」
広い書斎の中で小さく本を読んでいる私を、アンナが呼びに来た。
「そろそろ、お風呂に………」
「アンナーーー!」
私はアンナの名前を叫びながら、抱きついた。
「お、お嬢様ー!?」
「とてもな可愛らしいお花ね!アンナが私にぴったりと言ってくれて、すっごく嬉しかった!ありがとう!!」
「……………いいえ、本当のことですから。」
優しく微笑んだアンナは、私にとっては年の離れたお姉ちゃんのような人だ。
私は、この家のみんなが大好き。だから、私のせいでみんなが辛い思いをするのは嫌だ!破滅しないように頑張ろう!!
ーーー数ヶ月後
「おめでとう!シャーリー!」
私は今日で5歳になりました。
「お母様、お父様、ありがとうございます!」
両親は可愛らしいドレスやお花を沢山くれました。
使用人のみんなもたくさんのプレゼントをくれて、熊みたいな大きな見た目の料理長も可愛くて食べるのがもったいないほどの素晴らしいケーキを用意してくれた。
毎年の事ながら、私の誕生日パーティーは華やかだ。
嬉しい、すごく嬉しい。
「あぁ、そうだシャーリー、5歳になったことだし、近々王城へ行こうな」
「…………はい、お父様!」
笑顔がひきつらないようにするだけで私は精一杯です。
ついに、攻略対象に会うんだなぁ…………