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都市の成り立ち

 ゲブラーから外に出たことのないリヴァルとしては、他都市に行くというのは少々緊張感のあるものだった。

 ゲブラーはゲブラーで大都市なのだが、これから向かうケテルはセフィロートで一、二を争う大都市だ。どんなものなのか、緊張と好奇心で胸の高鳴りが抑えられない。

 巨大な門をくぐる。ゲブラーならば憲兵などがいるところだが、ここにはそれがない。ケセドに行ったことで薄々気づいていたが、ゲブラーの警備というものはこのセカイにおいては珍しいもの、もっと言えは異様なものであるようだ。ゲブラー生まれのゲブラー育ちであるリヴァルは今まで疑問を抱く余地もなかったが、確かにこれはおかしいことなのである。

 同じセカイに存在している他都市に警戒を向けるなんて。

 そう、土地や名こそ分かれているがここはセフィロートという一つのセカイ。人間同士のいさかいや、現在魔物と行われているような戦いもあり得なくはない。しかし、それは元から、「軍」という大きな武力組織を立てなければならないほど、大袈裟なものではなかったはずだ。

 座学というのはどうも苦手なリヴァルだったが、ダート持ちである故に知識を持つことは要求された。耳がたこになるほど聞かされた話だ。「セフィロートの成り立ち」は。

 セフィロートにある十の都市を確立したのは始まりの十人だ。十人がそれぞれ自らの気質と性格を踏まえ、どれくらいの土地をどのように治めていくか()()()()で決めたというのがセフィロート十都市の始まりだ。

 そう、話し合い。平和的解決だ。平和的解決が行われたにも拘らず、ゲブラーは「軍事」を担う都市となった。

 まあ、十都市ができてから、セカイの危機になるような争い事は何度も起こった。しかし、それは始まりの十人が死した後の出来事である。数百年も後だ。十人に、ゲブラーの創始者にそこまでの先見の明があったというのだろうか。

 戦いの神としてゲブラーの創始者、及び守護天使を崇めているゲブラーの民は、特段何の疑いもなく「軍」というものを強く保とうといつの時代も奔走していた。戦争があるわけでもない。他都市と敵対しているというわけでもないのに。

 それがリヴァルに生まれた疑問だった。もっと、都市の始まりには何かあるのではないか。──検問のない緩い大都市を前に、そんな疑問が渦巻いていた。

 荘厳な門さえ潜れば、ここは大都市ケテルである。

 大都市というからには華やかな商店街やらが広がっていると思っていたのだが、ケセドと繋がる道から来たからか、ケセドの名残のような寂れた雰囲気の漂う道が続いた。

 けれどそれも五分ほど歩けば終わる。またしても、先程の門柱より豪奢なあしらいの門柱が現れたのだ。赤い柱に金字でセフィロートの原語が書かれている、由緒正しい門。まあ、原語というのはセフィロートというセカイが創設された当初に使われていた旧き言語で、現在使われているものとは大幅に違い、使うものはほとんどいない。確か、魔法使いなんかが、「原語魔法」という古来の強力な魔法の復元のために研究しているとかなんとかという噂は耳にしたことがあるが、リヴァルはダートの使い手。元々魔力の含有量が少ないため、魔法は使えないから、興味を持っても研究に走るほどのものにはならなかった。

 豪奢な門柱の向こうには、いくらか想像に近い、賑やかな街の風景が広がっていた。店はたくさんあるが、それぞれ各々の特徴を全面に押し出し、客寄せを行っている。活気に満ち溢れた街だ。武器に力を入れる鍛冶屋には多種多様な武具が並んでいたし、薬草売り場では調合サービスを行っているという場所まであった。と思えば日用雑貨を売る店があったり、装備の装飾品限定で売るというマニアックな店まで勢揃いだ。

 守り札、というものを売っている店もあった。話を聞けば、この都市ケテルはセフィロートの主神である生命の神を祀る神殿があり、その加護を最も直に受けられるため、こうした守り札など、実戦からすると一見役に立たなさそうなものが信仰から買い求められるのだという。

 店の者から聞くに、その加護は確かなものらしく、森で魔物に襲われた者が守り札を身代わりに逃げ延びることに成功したとか、数々の逸話が残っているらしい。

 リヴァルは少し口車に乗ってみるのもいいかと思い、守り札の一つを買った。祈りを込めると祈りを魔力に変換し、望む魔法を発動させてくれるという優れものだ。魔力が少なく、魔法の使えないリヴァルにはうってつけの守り札と言えよう。リヴァルは魔力の消費もなく、詠唱の必要もないダートを扱うことができるのだが、操れるのは炎のみ。魔法には多種多様な属性がある。リヴァルのダートのような炎属性はもちろん、炎に対抗するにはもってこいの水や氷といった属性もある。はたまた癒し系統の魔法が多い木属性、炎の補助として相性のいい風属性など、リヴァルには扱えない属性が大量に存在するのだ。

 リヴァルはまだ一人旅である。都市内で魔物と遭遇することはないだろうが、念には念を入れておくことが必要だろう、と守り札を買った。

 所持金はそんなに潤っているわけではないが、守り札はそんなに値が張るものではないため、三枚ほど購入し、店の者にこの都市について聞いた。ちょっと神殿というものに興味を持ったのだ。

 先に言った通り、ゲブラーは創始者と守護天使を崇めているが、神殿を建てるほどではなかった。ゲブラーには軍事施設が多く、崇めるといっても、守護天使の像などを作って家に飾ったりという程度のものだ。

 要は信仰というものがどういうものなのか知りたかったのだ。

 店の者曰く、このまま道なりに進んでいけば、神殿に辿り着くらしい。神殿は白い大きな建物で、白い門柱の前に神官という人が立っているらしい。その神官の許しを得てから、訪問することになる、とか。

 ゲブラーの検問のようなものだろうか、と思いながら先に進んだ。長らく続いた商店街を抜けると少し拓けた公園があり、中央の噴水の向こう側に、店の者が言っていたとおぼしき建物が見えた。

「うわ、本当にでけぇ……」

 白い荘厳な装飾のされた門柱と、何段もの階段の向こうに佇む神殿は、普通の住宅が何軒も入りそうなほどだった。

 と、呆気に取られるリヴァルの耳に、ふと鈍い音が聞こえた。何かが人にぶつけられる音。もちろん、リヴァルにではないが……

 音の方を見ると、そこには石を民からぶつけられる深緑のローブを纏った少女がいた。



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