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隣するは王の器たる都

 ケセドの民を救ったことにより、リヴァルは称えられ、勇者がやってきたとして、ケセドは大にぎわいのお祭り騒ぎだった。

 聞けばケセドは信心深い者が多く、言い伝えや預言などは大切に扱うという。

 ちなみにセフィロートの十都市にはそれぞれの都市を司る天使というのがいるらしく、その天使が、神と人間の間に入り、預言を与えているという。

 ケセドでは、神の代わりである天使を祀っているらしい。ケセドの天使はリー。農耕を助ける天使らしい。

 ケテルにはロワ、コクマにはミロワール、ビナーにはフネートル、ティファレトはスリジエ、ネツァクはガニアン、ホドはペルダン、イェソドのシエルにマルクトのリーヴル。

 ゲブラーにはエペという天使がいるらしいが、リヴァルは見たことがない。

 天使はそれぞれの都市の守護を司るというが、先のゲブラー陥落の際は天使が出てきたという話はなかった。それに他の征服された都市も、天使が守ったという話は聞かない。

 天使は人類を見捨てたのだろうか。

 ふと脳裏にそんな疑問がよぎる。不信心だと言われそうだが、リヴァルは生憎、見たことのないものを信仰する気にはなれない気質だった。

 天使が守ってくれないとしても、神はまだ人々を見放してはいないのだろう。何せセカイを救うためのダートの持ち主を二人も出しているのだから。




 ダートの持ち主……

 リヴァルの脳裏にふと、森で再会したリアンのことがよぎった。「森の魔物に恩があるから」と言って、森を守るために剣を振るった彼。あいつは果たしてダートの使い手としての役目を果たす気があるのか?

 ……いや、自分を気絶させてケセドに運んでくるまでの徹底ぶりだ。こちら側に戻ってくる気はないと見ていいだろう。

 リアンがいれば、百人力なのに……




 ふと頭に浮かんだその思考を首を振って否定する。魔物を守るあいつなんかもはや味方じゃないんだ。そんなやつに頼ろうなんて、情けないだろう、と。

 とはいえ、ゲブラーで痛感したことだが、リヴァル一人では魔物の軍には到底敵わないことがわかっていた。魔物はリヴァル一人ではどうにもできない数だし、何より魔王四天王の一人が師匠のフラムなのだ。他の四天王もフラムと同等の実力者と見て間違いない。そうなればますます、リヴァルの手には負えない相手だ。

 今回の相手、小さな土の民プティソルは大量発生したがどうにか撃退できた。一応通常の魔物なら、充分に相手取ることができるようだ。

 だが、それでは足りない。

 魔物を倒すのは勿論のこと、魔王四天王を相手にしなければならないときは必ず来るし、その先の魔王のことまで考えなければならないのだ。

 リヴァル自身の鍛練も必要だし、仲間も必要だ。

 ただ、この穏やかな田舎都市には戦力になりそうな人材はいない。そもそもケセドの民は争い事を嫌う。強者がいても無理に同行させることはできないだろう。

 だとしたら、何故ケセド出身のリアンにダートがついたのだろうか……その点は疑問だったが、今答えを求めても仕方のないことだろう。

 今はとにかく、ゲブラーや、他の侵攻を受けた都市を取り戻すことに集中しなくては。

 そこでケセドの人々にリヴァルは訊ねた。

「鍛練ができて有力な兵士がいるところ?」

 ケセドの民はしばしきょとんとしていたが、わりとすぐに返事は返ってきた。

「それなら、隣のケテルさね」

 マルクトに次ぐ大都市ケテル。名前は聞いたことがあるが、森向こうの都市のことをリヴァルはほとんど知らなかった。

 するとケセドの人々は親切に説明してくれる。

「ケテルは王国都市とも言われてるさぁ。ゲブラーほどじゃないが軍もあって、確か鍛練場もあるって話じゃなかったか」

「神官都市とも言われて、セフィロートの神様を祀る神殿があるとも聞いたことがあるさ」

「神殿があるからか、他の都市と違ってよく天使さまが降りてきて啓示を与えてくださるとか」

 隣接都市なだけあって、皆、そこそこの情報を持っていた。リヴァルより詳しいのは確実だ。

 鍛練場があり、神殿がある。天使が降りてきて啓示を与える、というのは行ってみないと真偽のほどはわからないが、天使がいるのならいるで、解消したい疑問もあるし、ちょうどいい。

「……では、明日、ケテルに行ってみるかな」

「ん、それがいいさね」

 リヴァルの呟きにケセドの人々が賛同する。

「申し訳ないことだが、ここケセドには何もないのさ。勇者さまにできる恩義といえば、一泊していってもらうくらいで」

「充分です」

 リヴァルはケセドの人々に微笑んだ。

「俺は前に進まなきゃ」

 それが、勇者の定め。

 もう一人の勇者の器たるリアンが動かないのなら、自分が進むしかない。

 リヴァルはそう決意し、明日の朝にはケセドを発つことに決めた。

 強くならなくてはならない。──そう、思いながら。


 翌朝、ケセドの民に気を遣わせないよう早くにケセドを出ようとしたのだが、予想外に農耕の民の朝は早いらしく、手土産まで持たされて、丁寧に見送られ、出発することとなった。

 別都市の民である自分をここまで手厚くもてなしてくれるとは……噂に聞いた通り、ケセドの民は優しい者たちらしい。

 まあ、それと同じ人々が、リアンを異端、セカイの裏切り者として排斥したことを、リヴァルは知る由もなかった。




 ケセドの外れに行くと、田舎都市には不似合いなほど巨大で荘厳な出で立ちの門柱が二つ、建っていた。

 その佇まいだけでも圧倒されるような存在感。二つの門柱の上を繋ぐようにケテルの名を示す王冠をあしらった装飾が施されていた。

 基本、セフィロートの都市とは、都市であって国ではないため、出入りは自由なのだが、何か許可を取らなければならないだろうか、と不安をもたらすほどに威風堂々とそこにあった。

 リヴァルも思わずごくりと固唾を飲み、意を決して門を潜った。


 さぁ、旅の始まりである。



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