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慈愛の民を守るべく

 ゴゴゴゴゴ。

 リヴァルが目を覚ましたのはそんな地鳴りが鼓膜を叩いたからだった。

 地鳴り、地響き、尋常じゃない震動。いつの間に屋内で、しかも知らないベッドに自分が寝ているのか、という疑問すら吹き飛んだ。何故なら、轟音に紛れて人々の悲鳴が聞こえてきたから。

 リアンと戦って……その途中から記憶がない。峰打ちにでもされて、どこかに運ばれたのだろうが、ここがどこだかわからないし、第一運んだと思われるリアンの気配が全くないから、森からは出たのだと思う。ということはここはどこかの都市か。

 そこまで当たりをつけるとリヴァルは飛び起きて、ベッドの傍らにあった得物の双剣を手に建物から飛び出す。

 木造の家が建ち並び、向こうには広い畑や田んぼが見える。家は建ち並んでいるといっても、ぽつりぽつりとだ。地面は温もりの感じられる土。大都市であるゲブラー育ちのリヴァルからすると都市としては随分小さいように感じられる。

 ゲブラーから真っ直ぐ森を抜けて来たのだとすると、該当しそうな都市は──ケセド。

 しかしそれが本当か確認する余裕はなさそうだ。リヴァルが辺りを見回していると、田畑の方から人々が逃げてくるのが見えた。それに魔物に立ち向かう勇者故かわかる、魔の気配。リヴァルはまず、逃げてきた村人の方へと駆けた。

 状況確認するための余裕は残念ながらないが、幸いなことに、何が起きたかはすぐわかった。

 逃げ惑う人々が来た方向、その先には土塊でできた大人ほどの背丈のあるがたいのいい魔物、土の民がいた。何体いるのだろうか。リヴァルは十を数えたところで数えるのをやめ、戦闘態勢に入った。人の群れと逆方向に駆け抜けながら、双つの剣を抜き放つ。

 素早くダートを発動、髪が紅蓮に変化すると同時、剣が炎を纏う。

 炎を纏った剣で手前の一体に切りかかった。土の民は鈍重そうな見た目に反し、素早く反応し、すんでで剣をかわす。

 だが、それで済ませるほど、リヴァルは甘くない。剣先から炎を出し、かわされた分を補うように間合いを伸ばし、土の体を切り裂く。

 火が最も効くのは木属性であるが、土にもかなりの効果がある。土の民という魔物は体が全身土で固められてできている。土を固めるのは水である。ではその水分を飛ばしてしまえば? ──そう、土はたやすくぼろぼろと崩れる。

 皮肉なことではあるが、今では魔王側に寝返った師匠であるフラムはリヴァルと同じく炎を扱うことを得てとする剣士だった。それ故、各属性への対処法は的確に叩き込まれていた。

 幸い、この土の民は土の体を固めるもう一つの要素である魔力の保有量が少ない。武器も持っておらず、素手での攻撃しかして来ないため、リヴァルはたやすく退けることができた。

 が。

 ズズズ

「なっ」

 リヴァルは驚愕に目を見開く。何故なら、周辺の土から、土の民が文字通り湧き出してきたのである。

 いくら攻撃手段が素手しかないとはいえ、土の民は素手でも充分脅威となる魔物だ。こうもぼこぼこと出て来られると……

 こちらで戦えるのは、見たところリヴァルのみのようだ。ここが自給自足、悠々自適でこじんまりとした生活を好むケセドの地であるなら、戦闘の知識がないのも仕方のないことだろう。

 リヴァルは後ろに叫んだ。

「みんなっ、とにかく逃げるんだ! こいつらは俺がなんとかする!」

 叫びながら、応戦する。あまり炎のダートを派手に使うわけにはいかない。辺りに佇むのは木造の家。炎で燃やしてしまってはむしろ民に迷惑しかかからないだろう。

 とにかく、広い方へ誘き寄せれば……とリヴァルは風の感覚や周囲の景色などから、拓けたところがないか探す。──視界の片隅に、広場を見つけた。

 リヴァルはそこに行くと決めるなり、双剣の片方を土の民の頭めがけて投げつけた。すると土の民の目に突き刺さり、土の民が刺さった目を押さえながら、爛々と殺意に満ちた目を赤く光らせ、リヴァルを追いかける。ずしんずしんと重厚感のある足音が無数に響く。

 リヴァルは広場に着くなり跳び上がり、街灯の上に立つ。ちょうどその真下を通りすぎようとした土の民めがけて飛び降り、首の辺りに炎の刃を突き立てた。炎はあっという間に土の民の体を覆い、その体をぼろぼろに崩していく。

 拓けた地ならある程度炎を派手に使える。双剣の間合いだと、リヴァルよりも大きい土の民の腕より長さにおいて劣る。だが、ダートの炎で貫いてしまえば、ある程度リヴァルは長くまで伸ばせるし、一網打尽にできる。

 それに、ダートは魔力を消費しなければならない魔法と違い、常時発動していても平気なのだ。対するこの無数の土の民たちはおそらく、何者かに転移魔法でこちらに送られてきている尖兵のようだ。ここまでの兵団を送れるなど化け物じみた魔力保有量であるが、それでも魔力は無尽蔵ではない。ある程度倒してしまえば、増えることはないだろう、とリヴァルは推測した。

 持久戦というのはどうも苦手だが、幸いにして土属性が相手だ。属性相性的に戦いやすい。それに、この土の民、魔物にしては魔法も使わないし、身を固めている魔力保有量もどうやら少ないようだ。魔法を唱えられたりしたら、リヴァルはもっと苦戦しただろうが、見るに即席の尖兵の模様。師匠や魔王四天王相手ならば敗北は必至だっただろうが、一般兵卒レベルなのが功を奏した。

 リヴァルは走り、次の魔物を切り裂く。土塊の体が崩れる直前、その肩を踏み台にし、後ろから来た二体も横薙ぎに一閃。その更に後方から、一体が腕を思い切り振り上げながらやってくるのを身を屈ませてかわし、すれ違いざまに炎で切る。

 土の民はぼろぼろと崩れた。

 数十分に及ぶ攻防の果て、魔物の尖兵側が底を尽きたらしく、地響きのような足音がなくなった。リヴァルはほう、と息を吐いた。

 勝った。勝てた。

 しばらくすると、恐る恐るといった様子で民が奥から出てくる。勇者が一人立つその様子に、民は目を見開いた。

 それに気づいたリヴァルがダートの状態を解き、できるだけ柔らかな笑みを向ける。

「魔物は撃退しました」

 それを告げると、人々は一斉にわぁっとリヴァルに寄った。

「勇者さまだ!」

「勇者さまが助けてくださった!」

「セカイは救われる!」

 ケセドの人々はリヴァルをそう称えた。


 勝った。勝てた。──守れた。

 その事実がリヴァルの心を満たし、温かいものにした。




 しかしこれはあくまでも、魔王四天王の一人アミドソルが能力の一端を使って引き起こした前哨戦に過ぎないことを、リヴァルはまだ知らない。



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