表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/29

凍てつく陽炎

 暖かい炎のような髪色をした子どもがいた。両手にはそれぞれ剣を持ち、相対する人物を褐色の瞳を揺らしながら見つめている。

 子どもの目に映るのは、緋色の鮮やかな髪を一括りにした二つの角を額から生やした鬼人という種族の青年。子どもの背丈と同じくらいの長さを持つ大剣を軽々と片手で持ち、冷えた金色の目で相手を見据える。蔑みの色が宿っているようにも見えた。

「フラム……なんで……?」

 子どもが鬼人の名を呼ぶ。信じられない、という色が瞳にありありと宿っていた。

 対する鬼人は何の興味も宿さない無関心な冷たさで子どもに応える。

「それはオレが、魔王四天王の一人だからさ」

 魔王とは、生命に満ちたセカイ、セフィロートを統括する生命の神と対なす破壊の女神ディーヴァの復活のため、人外の存在である魔物を束ね、人間を、セカイを、滅ぼさんと侵攻を始めた存在だ。その脅威はセフィロートにある十の都市のうち半分の五つをたったの数ヶ月で滅ぼしてしまったことからもわかる。

 そんな先頭に立つ魔王の配下でも、四天王という存在は耳にしていた。魔物の中でも類稀なる実力者で、陣頭に立ち指揮を取り、五つの都市を迅速征服した者たち。

 目の前の人物がその一角を担うという事実を、子どもは理解できなかった。いや、したくなかった。何故なら、この鬼人はセカイを救う運命(さだめ)を背負う人間、ダートの使い手である自分の剣の師匠なのだから。

 否、それ以上に信じたくないのは、

「どうした、勇者? 立ち向かって来ないのか? でないとほらもうお前の故郷ゲブラーも滅ぼされるぞ?」

 挑発的に放たれたその言葉。

 勇者、と呼ぶのは皮肉だろうか。周囲は既に怒号やら悲鳴やらで埋め尽くされ、あちこちから火の手が立ち上る。ここ、ゲブラーはセフィロートの中でも軍事都市と呼ばれているが……他五都市での敗戦と不意の決起に対応できず、滅亡の二文字がもう見え始めていた。

 子どもがぎりりと剣を手が白くなるほどに握りしめる。瞳と髪が紅蓮に燃え立ち、うわああああああっ、と雄叫びを上げて鬼人に斬りかかる。

 一瞬の交錯。




「次会うときは、せいぜいもっと足掻くんだな」




 そんな、鬼人の呟きが勇者と呼ばれた子どもに届いたかは知れない。

 柄でこめかみを強かに打ち付けられた勇者は、あっさりと地面に倒れ伏した。

 鬼人は傍にいた配下の一人に、勇者を森に捨てておくよう言った。

「殺さないのですか?」

 配下は当然の問いを放つ。しかし鬼人はあっさり答えた。

「今のままのこいつじゃあ、使い物にならんよ。人類の希望が聞いて呆れる。それに、こちらとしちゃあ、派手に足掻いてもらった方が都合がいい」

「……なるほど」

 配下は全くわかっていない様子だったが、承服したらしく、勇者の体を担ぎ上げた。そのまま、町外れの方へ歩いていく。

 残った鬼人、魔王四天王の一人、シュバリエ・ド・フラムは、さて、と呟き、かちゃりと剣を構えた。

「炎よ、貫くがいい」

 魔法詠唱。唱えると大剣に赤い光が宿る。その大剣をシュバリエは地面に突き立てた。

 赤い光は地面を介してゲブラー中に広がり、巨大な火柱を立てる。

「さて、粗方焼き払ったはず……あとは残党狩り。仕上げに行くか」

 好戦的に金目を光らせ、シュバリエは街中へと足を向けた。






 その日、セフィロートの軍事都市ゲブラーは滅亡した。

 それは勇者の敗北を示していた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ