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教皇の孫の失踪  作者: リアス
幼少期&修行時代
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読み書きと計算と聖魔法が得意です

僕が前世の記憶を取り戻してから6年ほどが過ぎ、気付くと僕は12歳になっていた。

僕は教皇の孫なので、厳しく育てられるかと思っていたが、そうでもなかった。

……と言うのも、僕は読み書きも計算もすぐにできるようになったので、厳しくする必要が無かったのだ。

姉であるマリアが結構我が儘だったのに対して、僕は落ち着いていて、礼儀作法も幼い頃からバッチリできていたのもポイントが高かったのだろう。

中身は大人……という訳ではないけど、10歳にも満たない子どもにしては、手がかからなかったことは確かだ。


「……手がかからないように気をつけたからね」

「ん? レイ、何か言った?」

「何でもないよ、姉様ねえさま


僕より2歳年上のマリア姉様は、弟である僕に対抗心を燃やしたのか、父様から厳しく躾けられたからなのかは知らないが(多分後者だと思われる)、礼儀正しい女の子に育った。

そして、態度だけでなく、容姿も成長した。

美しい金髪は人々を魅了し、透き通った緑の瞳は、まるで宝石のよう。

今では、国民たちから"聖女"と呼ばれているくらいだ。

ちなみに僕は……いや、恥ずかしいからこの呼び名はあまり出さないようにしよう。


「それにしても、レイは本当に凄いわね」

「え?」

「勉強を始めたのは私の方が早いのに、読み書きも計算も、私よりずっとできるようになったじゃない」


姉様の言う通り、僕は読み書きや計算がすぐにできるようになった。

でも、それは事実とは少し違う。僕はできるようになったのではなく、"元々できた"のだ。

驚くことに、このフォース大陸で使われている文字は日本語だった。

日本語で会話が通じてたからもしかしてと思ったのだが……何故だ? いや、気にしても仕方ないか。

とにかく、これは僕にとっては嬉しいことだ。言葉が通じないということは起こらないし、勉強をする必要もなくなった。

まあ、歴史とかは死ぬ気で勉強したけど。


「そう言う姉さんこそ凄いよ。国の皆が、姉さんのことを慕ってる。姉さんは僕の自慢だよ」

「そう? ふふっ、ありがとう」


……とてもじゃないけど、聖女との会話だとは思えないな。まあ、僕たち姉弟は二人きりの時は自分たちの立場はあまり気にしないからね……。


「レイ、大好き!!」


僕は姉様のことが嫌いではないが、このブラコンぶりはどうにかならないのか……?


「駄目です! マリア様!!」


飛びついてきたマリア姉様を、突然現れたメリダが掴んで引き戻した。


「全くマリア様は……。大丈夫ですか、レイ様?」

「…………」


メリダのおかげで助かったけど……。

どこから湧いてきたのかは、聞かない方がいいんだろうなあ……。


さて、僕が6年もの期間を勉強だけに使っていたかと言うと、そうではない。

そもそも、文字と計算の勉強をする必要がなくなったので、その分時間が多く余ったのだ。

その時間を、僕は自分の父親との模擬戦に使っていた。



※ ※ ※



「どうした? その程度か?」

「……」


僕は今、銀髪の男と模擬戦をしている。

その男の金の瞳が、僕を射殺さんとばかりに睨みつけている。


ーーラッセル・アスタニア

アスタニア教皇国最強の聖騎士であり、僕ーーレイ・アスタニアの父親。

その実力で騎士団のトップに上り詰め、教皇の娘であるナターシャ・アスタニアを妻とした男だ。

その名声は、この国に留まらず、大陸中に広まっている。


……そんな人が自分の父親だと知った瞬間、僕は思った。

ーーこの人に鍛えてもらえば、僕はもっと強くなれると。

この世界は前世で暮らしていた世界と比べて、個人の力は非常に重要なものだと僕は感じていた。


「行きますよ、父様とうさま。『フラッシュシールド』!」


ちなみに、僕はこの人のことを父様と呼んでいる。


「……それは、お前が得意な聖魔法だな」


魔法ーーそう、この世界には魔法が存在する。

魔法には属性が存在し、炎、水、土、風、さらに闇や聖などの多くの属性によって分けられている。

禁忌とされている魔法もあり、その中には死霊属性の魔法(死霊魔法)などがある。


あと、魔法は属性によって分けられてはいるが、強さによって分けられてはいない。

魔法の威力は主に使い手の魔力量や魔力のコントロール、そしてその属性に対する適正によって決まり、その時の精神状態にも多少左右されるらしい。


例えば炎属性の中でも比較的簡単な『ファイアーボール』でも、魔力量が少ない者と多い者とでは威力に差が出てくる。

極端に少ない者なら小さな火を灯すのが精一杯だが、極端に多い者なら小さな集落を軽く燃やし尽くすことができる。

……最も、そこまでの化け物はそうそういないが。


今僕が使っている『フラッシュシールド』は、聖属性の魔法だ。

僕は聖属性への適正が異様に高かったらしいので、聖魔法を皇国の魔法使いたちに徹底的に叩き込まれた。

僕としても、せっかく適正があるのに鍛えないという手はないので、願ったり叶ったりである。勿論、教えられるだけではなく休憩時間とかを削って練度を高めることも忘れなかった。

せっかく強くなれるのだから、強くなっておいて損はないだろう。


ーーさて、『フラッシュシールド』についてだが、これは光の玉を自分の周囲に生み出し、それを操作する魔法だ。

この光の玉は魔力を消費することで数を増やしたり、強度を高めることができる。

そして、これは相手の攻撃を防ぐ盾としても扱えるが、他にも……。


「ていっ!」

「……相変らず厄介な攻撃だな」


遠隔操作することで、離れた位置にいる相手を攻撃することもできる。

まあ、繰◯弾みたいなものだ。

それなりに威力はあるし、数を増やすことで動きを封じることもできるから、結構強い。

それに、僕の『フラッシュシールド』は少し特殊で……。


ーービビビッ

「ーー! またこの攻撃か!」


幾つもの光線が、父様に向けて放たれるーー僕の作り出した光の玉から、だ。

元々、この『フラッシュシールド』は僕が造ったオリジナル魔法で、僕が6年間の修行で問題点を見つけては改良を重ねたものだ。この光線も、その過程で追加されたものだ。

だが、自身に向けて放たれた光線を、父様は軽々と躱していく。

……当然だ。父様がこの程度で被弾してくれるはずがない。

また、躱すのが容易だということは、反撃することもできるということで……。


「『ホーリースラッシュ』」

「ーーっ! 防げ!!」


咄嗟に光の玉を自分の正面に集中させる。

父様が使った技は、聖剣技の一つ『ホーリースラッシュ』だ。

聖剣技とは、その名の通り聖属性の魔力を用いて放つ剣技のことだ。

この世界では、魔法だけでなく武術も属性によって分けられている。

剣技も、属性によって炎剣技や風剣技、そしてさっき父様が使った聖剣技などに分けられている。

そして、『ホーリースラッシュ』は、聖属性の魔力を剣に纏って斬りつける、聖剣技の中でもシンプルな技だ。

極めれば、先程の父様のように、斬撃を飛ばすこともできる。

この技は、決して攻撃力が高い技ではないのだが……。


「……全部、壊れたか」


並の戦士なら一つも壊すことが叶わない光の玉を、この人はあっさりと破壊してしまった。

いくら数が多くても、この人のように素早くて、攻撃力もある人には簡単に壊されてしまうらしい。

そして、ここで攻撃の手を止めるほど、この人は甘くはない。


「『シャイニングブラスト』!」


一瞬で距離を詰めてきたかと思うと、今度はさっきよりも威力の高い聖剣技を放ってきた。

魔力を剣に込めて、横薙ぎに払う……。でも、僕もそう簡単には食らってやらない。


「『ライトニングウォール』!!」


聖魔法と雷魔法を組み合わせた、僕の防御魔法。

聖魔法に秀でていた分、雷属性の魔力を扱えるようになるのには苦労したが、その分この魔法の防御力は高い。


「……ほう」


ーーこの人の技さえ、防ぐことができるほどに。


「お返しだ! 『シャイニングブラスト』!!」

「遅い」

「えっ」


ーーだけど、この人に通用するのはあくまで魔法だけだということを、僕は失念していた。



※ ※ ※



「……ん? ここは……」

「気がついたか」

「……父様?」


気がつくと、僕は自分の部屋で寝ていた。

僕は何を……ああそうか、僕は負けたんだ。


「お前の魔法は強力だが、剣技はそうでもない。……勝負を急いだな」

「……はい」


全く、情けないことだ。父様に剣で敵うはずがないから、魔法を使って勝つ策を今まで考えてきたというのに。


「とは言え、あの聖剣技は見事なものだった」

「え……?」

「この国の騎士団と比べても、悪くはない……。俺とでは勝負にすらならないがな」


……父様がこんなことを言うなんて、珍しいな。一人称も変わっているし。


「どうかしたの? 父様」

「いや、何でもない」


父様は立ち上がり、その紅い瞳で、真っ直ぐにこちらを見つめた。


「お前は私の息子だ……お前なら、今よりもっと強くなれるはずだ。魔法も剣技も、さらに磨き上げて、また私に挑んでくるがいい」


「父様……はい!!」


父様が僕を励ましたのは、これが最初で最後だった。





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