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六十一、勢揃い

 なんとかイーリスを説得したところでロゼは本題に移るべくラゼットに訊ねた。


「それで、これはなんの騒ぎなの? 運営の方たちが慌てているようだけれど」


「実は参加者たちがこぞって辞退を申し出ているらしい。一般の参加者だけでなく、俺が参加を進めた騎士たちからも辞退の声が続出しているところだ」


「どういうこと?」


 一般の参加者とは、純粋に王女との結婚を夢見る一般市民たちである。間もなく開始時間となるのだが、辞退の申し出をすべて受理すれば出場者はずいぶんと減ってしまうらしい。


「なんでも白い影に警告をされたとか」


「白い影!?」


「どうした。何か知っているのか?」


「いいえちっとも。まったく心当たりがなくってよ」


「そうか……何者かは不明だが、辞退を訴える者たちはみな白い影に脅されたらしい。大会を辞退しろ、さもなくば……といった具合にな。このままでは開催が難しいかもしれないと相談が始まったところだ。そういえば、騎士団長殿の到着が遅れているようだが……」


(白い影って、どう考えてもノアのことよね……)


 おそらくラゼットも正体に気付いているはずだ。

 脅されたとは物騒だが怪我人は出ていないらしく、正体がノアであれば大事には至らないとロゼは判断するが、街の人たちの反応は違った。何か良くないことが起こる前触れではと動揺がはしる。そんな重い空気を吹きとばしたのはアイリーシャだった。


「辞退したい人がいるのなら止める必要はありません。白い影が怖ろしいと言うのなら見ていればいいのです」


 可憐な容姿でありながら、その瞳は闘志に燃えている。こんなにも彼女のまとうピンク色を勇ましく感じたことがあっただろうか。


「でも私は違います。たとえ警告されたって、脅されたって、ここから動きません。最後までロゼお姉様のために闘うのです!」


 アイリーシャの決意に応えるべく、歓声が挙がる。


「そうだよ、リーシャちゃん。あたしらもついてるからね!」


「リーシャお姉ちゃん頑張って!」


「負けるなよ!」


 共に拳を掲げる人々と、それに応えて手を振るアイリーシャの姿は、王女という身分を越えて信頼関係が築かれていることを感じさせるものだった。

 アイリーシャの訴えはまだ終わらない。一際大きく息を吸うと会場中に響かせるように叫んだ。


「聞こえているの!? いくら私のことを脅かそうとしたって無駄なのよ! 絶対にここから動かないもの。ロゼお姉様と結婚したいのなら、私を倒さない限り認めないのよっ!」


 迎え撃つアイリーシャの勇ましさを前に、目撃者たちはいずれ立派な女王陛下になることを確信していく。未来の女王陛下に楯突く人間が、はたしているのだろうか。


「ノアは……来ないかもしれないわ」


 ロゼの不安は音として零れていた。


「逃げたのなら最低です。やっぱりあんな人、ロゼお姉様には相応しくないのです!」


「違うの、ノアは悪くないわ。ただ、わたくしが愛想を尽かされたかもしれないという話で……」


 最後にノアと交わした会話は思い返せば自分らしくもない情けないものだった。仮にノアが自分のことを想ってくれているのなら、正しいロゼの姿ではなかったと思う。


「ロゼお姉様、本気でそう思われるのですか?」


 呟いた瞬間の信じられないという視線は凄まじい。


「これは、さすがに騎士団長殿が哀れに思えて来たぞ」


「私も兄が無念でなりません」


 アイリーシャにラゼット、ロクスまでもが続けるのだ。アイリーシャは不満たっぷりの表情でロゼの背後を見つめている。


「ロゼお姉様はこうおっしゃっているのですけれど」


 ロゼが振り返ると変わらぬ笑顔を浮かべるノアがいた。アイリーシャの憤りも、これから決闘が始まるという事実も忘れさせるほど穏やかに佇む。


「ただいま、ロゼ」


 ロゼこそが帰る場所であるかのように、真っ先に自分へと言葉をくれた。


「おかえり、なさい……来て、くれたの?」


「もちろん」


 アイリーシャはロゼを庇うように立ちはだかった。いつも隣に並んでいたせいで気付かなかったけれど、それは頼もしさを感じさせるもので、大きくなったなと一人場違いなことを考えてしまう。


「随分と遅い到着なのね。逃げ出したのかと思っていました」


「少し入国に手間取りました。それに野暮用が」


 すなわち試合が始まる前の梅雨払いはノアの仕業であると。


「余裕なのね。私は相手にならないと思われているのかしら」


「いいえ。アイリーシャ様は、俺には倒せない強敵です」


「嘘ばかり言って……私、手加減しないのよ!」


 ノアの発言全てがアイリーシャの感情を煽る。

 一方で、ロゼは重大な事実に気付いてしまう。偶然か、奇跡か、ロゼはその目撃者となっていた。


(ロゼブルキャラ大集合じゃないの!)


 新たに加わったイーリスの登場により、ついに主人公と四人の攻略対象が顔を揃えた。ただし揃いも揃って来るのが早すぎるけれど。


(主人公はまだ十一歳なのよ!? 物語は始まっていないわ。というか、わたくしがいる限りロゼブルは始めさせませんからね!? エルレンテは亡びなくってよ!)


 しかもこれから目にするのは主人公と攻略対象の決闘という、乙女ゲームの甘さはどこへやら。


「ほら、あんたはこっちだ」


 ラゼットに手を引かれたロゼは観戦用の席へと座らされる。


「ロゼ!」


「そう睨むなよ、騎士団長殿。勝てばロゼはあんたのものだろう? それまではまだ独占する権利がないことを忘れてくれるなよ。そしてロゼ、あんたは賞品であり人質だ。あんたがここにいる限り騎士団長殿も迂闊な行動は取れないからな。安全措置としてそばにいてもらおう」


「さ、義姉上。こちらの席へどうぞ」


 ロクスが恭しくイスを引いてくれる。隣にはラゼットとイーリスが、ロクスは背後で護衛をしてくれるらしく座るつもりはないようだ。


「これは人質というより特別待遇なのではないかしら」


 それにどうやら顔馴染みの観客は他にもいるらしい。


「わたくし気付いてしまったのだけれど、あそこにいらっしゃるの、お兄様たちよね?」


 最前列に立つ二人組は、朝も顔を会わせたばかりの見慣れた身内である。本来は王宮にいるはずの……。


「みんなしてお祭り騒ぎに便乗するなんて!」


「そう言ってくれるなよ。見ろ、きちんと変装しているようじゃないか」


 街で遭遇してからというもの、兄たちの変装技術は格段に上がっていた。 


「妹の結婚相手が決まるんだ、気にもなるさ。なんなら誰がローゼリア姫という栄誉を賜るか、賭けてみるかい? もちろん俺に賭けてくれてもいいぜ」


「ラゼットにはノアが負ける姿が想像出来て?」


「随分と信頼の厚いことで。そういえば、あんたが騎士団長殿の大切な人なんだな」


「なんのこと?」


「どんな縁談をも断る騎士団長殿の想い人についてはアルベリスでも有名な話さ。一体どんな傲慢な姫君にご執心なのかと噂になっていたが、まさかロゼのことだったとはな」


 例の噂は皇子の耳にも届いているらしい。


「以前俺がエルレンテに来たのは騎士団長殿に背を押されたからと話しただろう?」


「もちろん憶えているけれど……まさか、それもノアの仕業!?」


 あの時はロクスが騎士団長だと誤解していたが、ここにノアの仕業であることが露見する。ノアは一体何を言い、ラゼットは焚きつけられてしまったのだろう。


「気になるか? なに、俺の試合が終わればゆっくりと語り合おうじゃないか。いくらでも話す約束だったからな」


 確かにそういう約束を取り付けられていたことを思い出す。そしてこの状態では逃げる場所もないのだと、ラゼットは見せつけるように『約束』を強調してきた。

ロゼも感激の主人公&攻略対象勢揃い話です!

閲覧ありがとうございました。

5月12日発売の2巻もどうぞよろしくお願い致します!

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