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四十九、オディールの見舞い

「それにしても貴女、どうやって王宮に?」


 かつての王宮メイドとはいえ自由に出入りすることは難しいはずだ。


「優しい元同僚たちとレイナス様のお力添えです。お預かりしているものもありますし、何より私がロゼ様にお会いしたくて、何度も王宮まで足を運んでしまいました」


 門の前で様子を伺っていたところ見かねた元同僚たちが上に取り次ぎレイナスもオディールならばと承諾してくれたという。


「だめですね、私。しっかりしなければいけないのに、こんなことでは怒られてしまいますよね」


「誰が貴女を責めるというの? 貴女を責めるような人がいるのならわたくしも一緒に叱られるわ」


「ううっ、ロゼ樣ぁ……本当に、よくご無事で!」


 差し出された本はオディールの心そのものだ。込められているたくさんの気持ちごと受け取るようにロゼは本を抱き締めた。


「わたくしの素性を知っているばかりに、貴女には心配をかけてしまったわね。街を留守にしていることで今もたくさん苦労をかけているでしょうし、本当に申し訳ないわ」


「そんなこといいんです! 私は望んでロゼ様の手を取りました。苦労なんて感じていません。むしろこうしてお力になれることが嬉しいです」


「ありがとう。わたくしならもう大丈夫よ。みんな心配性だから外には出してもらえないけれど」


「当然です。ロゼ様はすぐに無理をされますから、私でもそうしたと思います」


 もしもオディールが前職に留まっていたら、彼女も手強い監視役の一人となっていただろう。


「わたくしの認識って……まあいいわ。ねえ、街の様子はどうかしら? この通りまだ顔を出せそうになくて、突然アルベリスの騎士団が現れて混乱していない?」


「は、はい……その、最初は火事のこともあって動揺が広がっていましたが、アルベリスの方々は礼儀正しく、むしろみなさんベルローズの街を満喫して下さっていますから、街が潤ったくらいです」


「それは有り難い話ね。では何か問題は起きていないかしら? すぐに駆けつけることは難しいけれど困っていることがあるなら一緒に悩みたいわ。遠慮なく話してちょうだい」


「そう、ですね……。火事については王宮から直々に説明とお礼がありましたから、大きな混乱にはなっていませんよ。火事については……」


「それは良かったわ。では何が問題なのか、そろそろ吐いてもらるかしら。ねえオディール?」


 オディールが言いよどみ視線を泳がせる時は何か良からぬことがある時だ。


「怒るつもりはないのだからそう身構えなくたって――」


「ロゼ様が王女だということがばれました」


「なんですって?」


 声が固くなったのは不可抗力だ。


「実はあの日、火事のあった日のことですが……ロゼ様が颯爽と王宮の門を通過する姿が目撃されておりまして……ロゼ様? あの~、ロゼ様~?」


 我に返った時にはオディールが顔の前で手を振っていた。どうやら放心していたらしい。緊急事態とはいえ自業自得だった。


「それだけなら隠し通すこともできました。ですが運の悪いことに街にはアルベリスの騎士たちが溢れていたのです。彼らは口々にラゼット殿下を庇い怪我を負ったローゼリア姫を称え、心から案じて下さいました。時を同じくして日を空けることなく街を訪れていたロゼ様の姿も見えず……」


 状況が揃ってしまったわけか。


「あ、あの、街のみなさんは本当にロゼ様のことを心配されていて、それで私もとても黙っていられる雰囲気ではなく! ……本当に申し訳ありませんでした!」


「い、え……貴女が、謝ることじゃ、ないわ」


 どう足掻いても王女という運命からは逃れられない。いくら身分を隠そうと王女ローゼリアの存在が消えるわけではない。最初から隠し続けることはできないと覚悟はしていた。来たるべき時が訪れただけのことである。


「一つだけ、正直に教えてちょうだい。わたくしはまたベルローズの街を訪れても許される?」


 身分を偽り好き勝手に振る舞っていた。王女が何をしているだとか、王族というだけで苦手意識を持たれることもある。だからこそただのロゼとして信頼関係を築いた。


「ロゼ様。私たちを侮らないで下さい。鐘が鳴り響いた時、私たちがどれほど喜んだとお思いですか」


「鐘?」


「はい。ロゼ様が目を覚まされたらすぐに知らせて下さると、殿下たちが約束して下さいました」


 当時王宮の門にはオディールを含めロゼを心配する人間が絶え間なく詰めかけていた。門番たちはしきりに対応に追われ、レオナールの提案でロゼが目覚めれば鐘を鳴らして知らせることが約束された。


「私もですが、みんなロゼ様のことが心配で仕事になりませんでしたよ。鐘が聞こえた瞬間の街の様子といったら……喜んで、泣いて、拍手が巻き起こって、それはもう大変な騒ぎようでした。ですからこれまで通りでいいんです。たとえロゼ様が王女でも、私たちが貴女を慕う気持ちは変わりません。お見舞いの花、届いていますよね?」


「花ってまさか、あの部屋に溢れんばかりの花はローゼリアとしてではなくロゼとして頂いたものだったの!?」


 現在王宮の一室は大量の花に占拠されている。別名花の間。ロゼの見舞いにと送られた花は収まり切らず一室を占拠するほどとなっていた。ノアが話していた飾る花についての『戦争』とはこれかと思い至る。


「花に気持ちを託すことしかできませんが、一日も早いロゼ様の回復を願っています。いつも街のために頑張って下さったロゼ様だからこそ、なんですよ」


「どうりで、引きこもり設定の王女にしてはお見舞いが多いと不思議に思っていたわ」


 むしろもっと早く教えてほしかった。こんなにもお礼が遅くなってしまった。


「とても嬉しかったと伝えてもらえるかしら。おかげで元気が出てきたわ。わたくしも早く街に行きたい。街の人たちに会って直接お礼を伝えたいもの」


「安心して帰ってきてくださいね。それまで私もしっかり街を守りますから!」


「ありがとう。待っていて、いずれ抜け出してみせるわっ!」


「いえ、それはご遠慮ください。きちんとお怪我が回復なされてからにしてください。でないとアイリーシャ様に言いつけますからね」


「くうっ……!」


 うろたえることも多いが必要な場面では意志の強さを発揮する。それがオディールの頼もしさ、そのはずが、今回ばかりは仇となっていた。



~☆~★~☆~★~☆~★~☆~



「本当に良かった」


 この数日ロゼの心配ばかりしたいたオディールはようやく許された面会に足取り軽く王宮内を歩いていた。

 深い傷を負ったことは痛ましい事件ではあるが、ロゼはすでに前を見据えていた。病床にありながら街の心配をしているのだから周囲が過保護になるのも頷ける。仮に自分がそばにいたのなら同じことをしただろう。

 今回の訪問でオディールの決意は固まった。観光大使が街をあけているのなら、その分を補うのが共犯者の役目というものである。彼女のように完璧にはなれずとも戻る場所を守らなければならない。新たな目標を前に意気込むも、そんな彼女の背を呼び止める者がいた。


「オディール!」


 かつての仕事仲間だろう。取り次いでくれた感謝を告げようと振り向いた。けれどフリルとリボンに飾られた高価なドレスをメイドのそれと間違えようがない。


「アイリーシャ王女殿下!?」


 オディールがその姿を見つけるころには彼女が足早に近づいてくるところだった。

いつもありがとうございます!

そして初めましてのお方にも少しでもお楽しみいただけましたら幸いです!

今回は別タイトルを『ロゼの身バレ』ともいいますね。またロゼの苦労が増えましたが、みんなロゼの復活を心待にしているのです。しかし気付けば主人公が九話分もベッドの上で過ごしていました……と言いつつも、何やらアイリーシャも動き出す模様。

それでは、また次回の更新でもお会いできましたら幸いです。

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