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四、出来ることから始めよう

何度もお騒がせいたします。

たくさんの方が見てくださったようで光栄です。評価までしていただけて感激でした!

皆様、閲覧ありがとうございます。

「勉強熱心なことについては嬉しく思いますが、国家間での揉め事は起きていませんよ。表立っても、水面下でも」


 たとえ平和だろうと情報収拾を怠れば足元を救われる。明確に口に出すことはないが他国に間者くらいは送り込んでいるだろう。


「同感っと。エルレンテは平和そのもの。だからお前みたいな子どもが心配することはないぜ。な?」


 国内よりも国外にいる方が多いレイナスも同じ意見である。国王陛下の代理として会合に出席することもあり情勢にも精通しているだろう。その外交官殿も同意見ときた。


「わかりましたわ。……けれど油断は滅亡の元と言いますし」


「いや初耳だけど」


「特にどこかの大国に目をつけられでもしたら大変ですし、これからはとってもとっても十分慎重に、より慎重な対応を重ねたほうがいいかと思います!」


「お、おう……」


「くれぐれも粗相があってはいけませんわ。くれぐれも! わたくしも気を付けてまいりますから、その……お兄様たちもお気をつけてくださいね。相手はあのアルベリスなのですから、もし怨みを買ってしまったら……」


 ロゼとてこれから先、兄の導く国を信じていたい。はいそうですかと喜べれば良かったのだが、無理な話である。


「心配してくれるのかい? ありがとう。ロゼの気持ちはしっかり伝わったよ。もちろん各国への対応には今後も細心の注意を払うつもりです」


 はっきり将来滅亡するから慎重にと言えれば簡単なのに。妹からの気遣いは本当に伝わっているのだろうか。


(お兄様たちに釘は差したけれど、正直わたくしが進言するまでもないことなのよね。ならどうして亡びるというのかしらね!?)


 釘を刺せるのはこの程度が限界だろう。気を取り直して。


「では何か、困っていることはございませんか?」


「今日はやけに食いつくのな。いつもは手習いのことや、美味いもんの話ばっかしてたのに」


「わ、わたくしだってこの国の一員ですもの! 国のために何かしたいと思うことが間違っていると? ねえ、レオお兄様!」


「わ、私!? ま、まあそれは、王族の一員として自覚を持つことは良いことだと思いますよ」


「そうでしょう!? わたくしはお兄様たちのように国政に関われるほどの力があるわけでもなく、せいぜい嫁ぐことでしか役に立てない身ですもの。それでもこの国を愛しているのですから!」


「わ、わかった、お前の気持ちは良く分かりました! 次期国王として嬉しく思います。有り難く受け取らせてもらうよ」


「光栄ですわ。それで、何か困っていることはございまして?」


「そうだなー、しいて上げるなら……俺も結婚したいとか?」


 おもむろに呟いたのはレイナスである。


「そうですわね……レイお兄様もどなたか――できれば我がエルレンテに敵意を持っていそうな国、もしくは大国の姫君とご結婚なさるとよろしいかと思いますわ。アルベリス帝国だとなお可!」


「おまっ、なに堂々と政略結婚勧めてんだよ! てか、あそこ皇子ばっかだろ!」


「良いと思いますわよ、政略結婚」


 六歳の妹に政略結婚を勧められる兄の心境は複雑だ。けれど複雑な心境はロゼも同じである。そこでふと、ロゼは閃いていた。


(わたくしがアルベリスに嫁ぐというのもあり……)


 内情探り放題である。

 とはいえ結局のところ有力な情報を得られなかったロゼがしたことといえば、速やかに眠ることだった。


 夜の到来を怖ろしく感じたのは初めてだ。朝、目が覚めて国が無事だという保証はどこにもないのだから。滅亡へのカウントダウンは始まっている。それでも明日を信じて、明日のためにロゼは眠りに就く。


(ロゼブルの時間軸ではわたくしも死んでいるのよね……。それはとても怖ろしいこと、けれど怖いからといって目を背けてはいられない)


 結末は知っている。けれど過程を知るわけではない。だとしたら回避しようと闇雲に足掻くよりも一人生き延びることの方がはるかに簡単だ。適当な理由を作って亡命なり留学なりしてしまえばいい。けれどロゼはそれが出来るほど強くはなかった。


(一人で逃げても一生後悔するに決まっている。だからわたくしは、ここで精一杯足掻いてみようと思うのよ)


 強くなりたいと思う。強くならなければいけないと思う。大切な人を、あるいは自分自身を守れるだけの力が欲しい。いざというときはこの手で大切な人を守るための力が必要になる。

 だからロゼは、早朝ランニングを始めた。

 朝は通常よりも一時間ほど早く目を覚まし、その一時間で暮らしている離宮の周囲を走った。これからは日課にするつもりだ。


(まずは体を鍛えることから始めるべきね)


 王女として大切に育てられてきた六歳児の体力は底が浅い。まだ出来ることは限られているけれど、何もせずにじっとしていればすぐに十七年後が来てしまうだろう。いざとなればアイリーシャを背負ってでも逃げてみせる。



~☆~★~☆~★~☆~★~☆~



 ロゼが体を鍛え始めて二年ほど経っただろうか。

 依然としてアルベリスとの関係に変化は見られず、平和が続いていると語って差し支えはない。けれどトレーニングの手を止めることは許さなかった。


 え? アルベリス嫁入り作戦はどうなったのか?


(そんなもの成功するわけがないでしょう!)


 国と国を越えて、それも王族相手となれば結婚とは国同士の繋がりを強固にするためでもある。むしろその意味合いが強い、というより愛なんて二の次だ。少しでも有益な相手を探し求めるだろう。肖像画を送ってはみたものの、彼らにとってエルレンテの姫と結婚する利点はないと判断されたようだ。


(大国アルベリスにとってエルレンテはその程度の認識ということね)


 運命の悪戯が起こってアルベリスの皇子たちに見初められる――なんて都合の良い展開にはならなかった。皇子たちが叶わなくとも有力者の目に止まってくれれば――なんて都合の良い展開にもならなかった。もっといえば現国王の愛人だろうと引き受けるつもりでいたけれど……。


(だからってあれは、屈辱でしたわね)


 ロゼとて上手くいけば儲けものくらいの心づもりではいた。それでも紙切れ一枚と共に送り返された肖像画には惨めさを覚えるのだ。たとえ相手にはしなくても、普通は向こうがそっと処分するものである。それが断るなりの優しさだ。それをわざわざ送り返してきたということは――身の程を知れという意味である。


(覚えてなさい、いつか後悔させてやるんだから!)


 この悔しさは稽古にぶつけてやると決めた。

 ところで初めは独りで始めていたトレーニングなのだが……


「ローゼリア様、腰、腰です! もっと腰を落としてください!」


「腕を大きく振るんです、背筋を伸ばして!」


「お疲れでしょう。お水はいかがです?」


 変わるがわる訪れる指導者たちによってロゼの周囲は賑やかになっていた。

 彼らの正体はエルレンテ国王専属護衛チームのメンバー、つまり隠密・戦闘・護衛のプロ集団である。

 エルレンテの国王には代々専属の護衛が義務付けられており、彼らの任務は影のように国王の身を守ること。それが何故このようなことになっているのかといえば……いわく、見かねたそうだ。ロゼが一人体術の練習を始め無様にも失敗し一人転んでいたところ、柱の影から手を差し伸べてくれた。

 それからは日替わりで手の空いている者が稽古をつけてくれるようになった。彼らの中には暗殺業や人に言えない過去を持つ者が多く、戦闘能力は保証済みだ。ロゼとしても大変有り難いことである。


 稽古で流した汗を拭ったロゼは離宮の影に腰を下ろす。王女が地べたに座るなんて目撃されようものなら厄介な噂になるけれど、人目につかない場所を選んでいるので問題はない。護衛たちもその立場から目立つわけにはいかないだろうというロゼの配慮だ。


 吹き抜ける風は火照った体に心地良い。空には雲一つなく、どこまでも続いていて――がばりと起き上がる。そんな光景を見ていたら気付いてしまった。


(考えてみれば、乙女ゲームの世界に転生するってすごいことでしたわね!)

ようやく大切なことに気づいたロゼでした。


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