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二十一、観光大使の役目

申し訳ありません! ラゼットの年齢表記を誤っておりました。正しくは十九歳、訂正させていただきました。失礼いたしました。


たくさんの閲覧ありがとうございます。

今回も皆様のお暇つぶしの役に立てれば幸いです!

「貴女が観光大使のロゼなのか?」


 スープを手に戻ったところ、ロゼを直撃したのは予想外の質問と――


「うっ!」


 目の前に広がる光景に思わず膝をつきそうになる。


(眩しい、眩しすぎる……直視出来ない、目に毒っ!)


 色気という名の精神攻撃である。

 水を吸い重たくなったフードはロゼが剥ぎ取り干してしまった。被害はほぼフードだけと言えるし、エルレンテの穏やかな気候ならすぐに乾いてしまうだろう。けれど悲しいことに完全に防ぎきることは出来なかった。

 湿った髪を掻き揚げる仕草のなんと艶やかなことだろう。水気を帯びて張り付いたシャツの破壊力といったら――若干十九歳とは思えない色気を醸し出していた。


(ゲーム登場時の年齢に達していないとはいえ、ラゼットの色気は十九歳から健在……なんて怖ろしいのかしら)


 そっと胸板から目を逸らす。


「ん? どうした」


「いえ、別に……。確かに、観光大使と呼ばれているのはわたくしです」


「それはなんだ?」


「エルレンテを盛り上げるために日々力を尽くす者のことです。その中でもわたくしは特別に国王陛下から認可をいただき、活動が合法化されています」


 ロゼが抱える本の裏表紙には『この者を観光大使と認める』という文章と共にレオナールのサインが記されていた。


「具体的にはどんなことを?」


「エルレンテのためならなんでもします。あの、それでスープのことですが、良ければ冷めないうちにいかがです? 口に合うかは、わかりませんけれど……」


 ほぼ間違いなく舌が肥えている人だ。


「ああ、せっかくだ。有り難くいただくよ」


 仕草一つとっても絵になる。

 けれどロゼの予想を裏切り、彼は残すことはなく飲み干してくれた。


「美味いな。それに飲んだことのない味だ」


 しみじみと皿を見つめている。


「気に入って頂けたのなら光栄です。おそらくダシが効いているのかと」


「ダシ?」


 ロゼの前世では一般的な調理法だが、この世界にはダシを取るという文化が存在していなかった。


「魚を干したものを水につけておき、その水を使うことで味に深みが出るという調理法のことです。エルレンテではこのようにスープを作ることが流行していて、干してありますから保存にも適しているんです。市場でも販売していますからお土産に最適で――、す……」


 いつもの癖で相手が皇子だということも忘れて営業していた。


「ますます興味深い」


 ラゼットは唇に笑みを携えていたけれど……正直怖い。


「……ラゼット様は旅のお方、でよろしくて?」


 どんな理由があって三日も早くエルレンテに入国し、一人歩きをしているのか探らなければならない。


「ラゼットで良い」


(良いわけないでしょう!? 自身の立場を鑑みてから言いなさい! わたくしにアルベリスの皇子様を呼び捨てにしろというの!?)


 そう素直に叫べたらどんなに楽だったか。


「それとその喋り方もどうにかならないか」


「まことに申し訳ございませんでした。わたくしごときが馴れ馴れしいとおっしゃるのですね。身の程を弁え、以後気を引き締めて会話させていただきます」


「いや、俺はその堅苦しい話し方を止めろと言ったつもりが、どうして更に固くなる!?」


(だから! それが無理難題だと言うのよ!)


「俺も気軽に話させてもらう。だからあんたにもそうしてほしい。な? 頼むよ」


 無害そうな笑顔に背中を押される。思うところは非常にたくさんあるけれど!

 とはいえどんなお客様には誠心誠意対応するのがロゼである。観光大使の意地の見せ所だ。


「……ラゼットは、エルレンテには観光で?」


「まあそのようなものか」


 お客様はロゼの呼称と口調の変化に満足そうだが、そのようなものという曖昧な返答は聞き捨てならない。何を企んでいるのか……。


「良ければわたくしに案内させてもらえるかしら」


「良いのか?」


「ぜひ、案内させてほしいの」


「噂の観光大使殿が直々の案内とは贅沢だな!」


 そう笑顔で返されたところで騙されはしない。


(一人で出歩かれるなんて考えるだけで怖ろしいもの!)


 恐怖シナリオはいくらでも思いつく。


 この国でラゼット皇子に危害が及んだら……

 この国でラゼット皇子が命の危険にさらされたら……

 この国でラゼット皇子が行方不明になったら……


 もれなくエルレンテ滅亡へ繋がるだろう。自分自信が滅亡原因かもしれない相手の側にいるのも怖ろしいけれど目を瞑るしかない。命に代えてもラゼットの身を守らなければと気を引き締めた。



~☆~★~☆~★~☆~★~☆~



「あちらに見えますのがエルレンテ最古の建築物、ご存じエルレンテ王宮でございます。その歴史は建国まで遡ることから彫刻品に至るまでのすべてが国宝の域に達しています」


「手馴れているな。それにエルレンテ史にも詳しい。いつもこんなことをしているのか?」


「観光案内は最も多く、かつ基本的な仕事の一つよ」


(この日のために、たくさん勉強したもの)


 王女として受けた教養だけではまかないきれない部分も多かった。けれど観光大使として名乗りを上げたければ歴史について知らないでは済まされない。そのため一からエルレンテについて勉強しなおした。


「それにしても……名所が王宮なのか?」


 城という建造物を見慣れている、というより城で暮らしているラゼットは腑に落ちないようだ。


「よーくご覧になって。さすがに中までは案内出来ないけれど、美しい景観だと思わない?」


「確かにな。景観も素晴らしいが、我が国の城塞のような造りとは異なる」


 語るまでもなくラゼットは汲み取ってくれた。その通り、アルベリスでは見られないものだ。


「夕日に照らされたり、朝焼けに包まれる姿はとても幻想的なのよ。見る時間によっても姿を変えるなんて素敵だと思わない? 平和の象徴として良い宣伝になってくれたわ。それにね、水面に写る姿も素敵よ」


 傍らの池には逆さまのエルレンテ王宮が映っている。


「歴史が長くて平和な国なんて良いことでしょう? これをメリットというのだけれど、そこを生かしてやろうと思ったのよ」


(――て、どうしてわたくしは乙女ゲームの攻略対象相手に観光案内をしているのかしらね!?)


 なんとも奇妙な光景だ。


「他にはどんなことを?」


 けれどラゼットは興味深そうに話を訊いてくる。だからこそロゼも気持ちよく話し続けてしまうのだ。なんて訊き上手だろう。


「朝は市場の見回りをしているわ」


 あれかとラゼットは納得している様子だった。


「市場の確認ね。困っていることはないか話を訊いて回るの。何より人とのコミュニケーションが大切なのよ。人手不足のところがあれば臨時で手伝うこともあるわ。各有識者の方々と会議をすることもあって、今後の運営方針を決めたりするの」


「まるで一国の大臣のように多忙だな」


「そうね……城下町限定運営大臣とでも言えばわかりやすいかしら。それだとあんまりな称号でしょう? だからわたくしが直々に『観光大使』の名を推薦したの。今ではほらこの通り、国王陛下までもがわたくしの活動を評価してくださった」


「どうすればなれるんだ? 俺でもなれるものか?」


「正直、わたくしのやり方はあまり勧められないわ……」


 ロゼは深刻に呟いた。


「危険なのか!?」


「危険というか……」


 険しい改革の道のりが思い出される。


「まずミスコン――『女性が美しさを競いあう大会』で優勝するところから始まるの」


「は?」


「ベルローズ主催開催の当コンテストは女性限定なのよ。ラゼットには参加が難しいと思うわ。ああ! でもその後の『男性が力を競いあう大会』なら参加も歓迎されるでしょうね。わたくしはこちらの大会でも優勝しているのよ」


「……あんた、まさか……女性じゃないのか?」


 そこかっ!

閲覧ありがとうございます。

また今日中に更新する予定ですので、少々お待ちくださいませ!

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