第8話「天使と悪魔」
ちょ待てよ。
俺はなに自然と人殺ししようと思ってるのだ。
そもそも30人を殺してしまったから、その償いの為にアライブに来たのであって、ハーレムはあわよくばって思ってはいたけどさ。
どちらに非があるかも分からずに俺は何やってんだろ...
『あれ?撃たないのか~?』
ん?見つかったのか?
辺りを見渡すが誰も居ない。が、何かおかしい。
橋で戦闘を繰り広げていた兵士達が全く動いていない。
すると上空から見るからに天使と悪魔の姿をした2人が降りてきた。手の平サイズで可愛らしい。
『俺は問答無用で撃つ方に賭けてたんだけどな~下心満載だったし。』
『怖気づく方に賭けた私の勝ちだね~』
なんか目の前でお金のやり取りしだしたよ。
「あの~どちら様でしょうか?」
一応訊ねてみる。あんまり関わりたくないんだけど。
『俺は下半身で物事を考える悪魔、デビだぞ』
『私は煩悩の塊から生まれた天使、テンだよ』
うわ~やっぱ関わりたくないや。
悪魔はまぁいいとして、天使はダメだろ。それ。
よし、早めに別れよう。
「デビさんとテンさんは何故私の前に現れたのでしょう?あ、賭けをされてたのは分かったんですけど。」
女神様が居るのだから天使と悪魔が居るのは自然な事なんだろうけど、適当に相手をする訳にもいかないからな。
『いや~面白そうな魂を感じたから来てみれば、あんたが居たからさ。どう行動するか賭けて、そいでちょっと話してみようかな~って感じだな』
『で、ゆっくりお話しするために時間を止めてるの。あなた憑代の勇者とはちょっと違うみたいだし気になってね。』
逆らっても俺じゃあ勝てないだろうし争う必要もないだろうから、簡単に今までの経緯を説明してみた。
『ふ~ん、そういう事なら少しアドバイスしてあげるわ。』
と天使が説明してくれるようだ。
戦っている共和国兵の中央で守られているのは、共和国の代表のお嬢様。可愛い。
最近活発になってきている魔族に対抗するため、3カ国で共闘しようという会議をヴュステでやっていたそうだ。
そして今夜モンスター達の襲撃があり、さらに港での爆発騒ぎ。
騒ぎに乗じて会議の為に駐留していた帝国軍の王子が一人誘拐され、王子の近衛兵が死ぬ間際に報告した犯人が共和国兵だったらしい。
なるほど。
それならば手を貸すべきはヴュステの方にするべきか?
でも目の前で戦ってる中には誘拐されたであろう王子様もいない。
別ルートで連れ去った可能性もあるが...
普通誘拐するなら犯人特定できるような自国の鎧とか着ないだろうし、目撃者は確実に殺すだろう。
俺ならそうする。
「あの~テンさん。真犯人は別にいるように思うのですが、その辺もご存じなのではないですか?」
『おまえに教えてやれるのはここまでだぜ。あとは自分で考えて行動しな。また賭けしながら見ていてやるからよ!』
と、これ以上は情報貰えないらしい。
でも全く情報がなかった時より判断しやすくなったからありがたいな。
「教えて頂きありがとうございます。ちなみに天使と悪魔って敵同士じゃないんですか?」
・・・
あれ聞いちゃいけなかったかな?
『んとね~本当は敵同士だよ。ただ私とデビは~』
『テンは俺の嫁だ!』
デビがはっきりと告げ、テンが恥ずかしそうにモジモジしている。
あ~あれか。
愛の逃避行か。駆け落ちか。やるな煩悩天使にエロ悪魔。
「お似合いですね~羨ましい限りです。」
テンとデビはイチャイチャしているので、今のうちに考えをまとめておこう。
お嬢様は可愛い=正義。
なんか共和国が嵌められてるような感じだし、ここはいったん共和国側を助けて確認してみるか。
モンスターを操っているのなら魔族が関わっているだろうし、同盟を組まれて一番嫌なのも魔族だろう。
よし、やるか!頼むぞ【蛮勇】!
「ラブラブのところ申し訳ないのですが、そろそろ元に戻していただけますか?私は共和国側に助太刀しようと思いますので。」
今夜は寝かさないぞ~とか言ってたのは聞かなかった事にして声をかけると、
『お、おう。それじゃまたなっ!』
そう言って目の前から2人の姿が消えると、止まっていた時間が動き出し、また金属のぶつかり合う音が聞こえてきた。
心を落ち着け、弓を構える。
ヴュステ兵の配置は共和国兵の前方に槍兵12名、取り囲むように槍兵8名。後方に魔道師が1名に、僧侶が1名か。
共和国兵は槍兵1名、剣士1名、斧兵1名、魔道師1名、僧侶1名、とお嬢様。
まずは僧侶、次に魔道師を片付けよう。
回復と遠距離攻撃は先に潰さないとね。
距離は50~60メートルってとこかな。遠的の感じでやれば大丈夫だろう。
さっきのハーピィを狙うのとは違う。
人を殺すのだ。
それでも俺は、自分が正しいと思うから行動するのみ。
矢をつがえ、ゆっくりと狙いを定める。
システムのサポートなのか、自然と〈ここだっ〉という感覚があるのでそれに 従って矢を放った。
グサッと僧侶の頭に刺され、崩れ落ちた。
横にいた魔道師は一瞬何が起こったのかわからず呆けていたが、すぐに叫ぶ。
「弓兵が潜んでいるぞ!3名は弓兵を探して始末しろ!」
げっ!3名は多くないですかね。良い判断だと思いますけど。
魔道師がリーダーっぽいし、もう一射して仕留めておきたい。
姿は見られていないみたいだし、俺が居るのは戦闘中の橋から1段上に登った所にあるので一射ぐらいの時間はある。
その後の事はその時考えよう。3名相手は死ぬかも...
再度矢をつがえて、魔道師に狙いを定める。
くそっ!警戒して盾に隠れやがったか。
場所は分からなくても矢が飛んできた方向を元に判断したのか、丁度死角に入りやがった。
ならば俺を探している3名を狙おうとするが、きっちり盾を構えて身を守りながら俺の居る方へ向かって来ている。
次に射たら間違いなく見つかるな。
ここは共和国兵を囲んでいる奴を狙い援護しよう。
僧侶がいないヴュステ兵ならば共和国兵が押し切る事もできるはずだ。
共和国の斧兵へ一撃入れようとしていた奴を、背後から金属の鎧を貫いて絶命させた。
すげー威力だな、この弓矢。ありがとう女神様!
これなら盾とか関係ないんじゃね?
「あそこだ!殺せ!」
あ~やっぱり見つかったね。
3名相手にしなきゃいけないけど、距離的にあと一射か。
今の俺ならやれそうな気がする!ハーレムのために俺は生きる!
遠的:弓道競技種目の一種。60mが一般的。