第3話「薬草は装備できますか?」
気がついた時にはもう女神様はいなかった。
あの女神様に、ただの左ストレートで気絶するほどの威力が出せるとは思えないし、魔法か何か使いやがったな。
いきなり「餞別」を貰ってしまったが、もっと聞きたいことがあったんだけどなぁ…吸魂師の具体的な仕事方法とか教えて欲しかったんだが。
まぁ基本はゲームと同じって言ってたから、まずは状況確認だな。
目の前には広大な海。
白い砂浜は無く、桟橋に倒れていたようだ。近くに大きな木箱が積み重なっており、どうやら港の資材置場なのだろう。
この【アライブ】の世界、ゲームとしての宣伝では3カ国の何処かに所属し、国家間の戦闘へ参加したり、邪神や魔族と呼ばれる存在と戦い、最終的には平和を目指せって言ってたな。
女神様もその辺は何も言って無かったから、まずは国の確認からだよな。
でも俺、選んだ覚えないのにアライブの世界に来てるって事は、女神様がハーレムエンドに近い国を選んでくれたに違いない!そう思っておこう。
『お気楽じゃの〜お主は』
作業員がいたのか?急に声が聞こえたので、姿勢を低くして周囲を警戒する。腰には某冒険家モデルのサバイバルナイフは装備されていたので、いつでも使えるように手を掛けておく。現状俺の所属国もわからないし、敵対関係国の可能性もある。
…誰もいないんですけど。
『お主〈吸魂師〉じゃよな?目の前を【見る】事に意識を集中させてみ』
再度声が聞こえ、言われた通りにするとうっすらと裸の男の姿が見えてきた。
「どなたか知りませんが、いい身体してますね。でもなんで全裸なんですか?」
ムキムキなおじ様が全裸で立っている。いやあっちは立ってないよ。でも幽霊みたいな感じで透けてるんだよね。
『あ〜すまんな。ワシは憑代志願者のゼルバってもんじゃ。ついに憑代としての出番だって事で女神の祭壇に召喚されたんだが、死んじまったみたいでな。死因は分からん!』
ガハハッと腰に手を当てて笑い、全く死の後悔を感じさせない人だ。
俺がキャラクターを《削除》して殺した人の一人なのだろう。そう思うと申し訳ない気持ちになってきた。全裸だけど。
「死んだ原因は俺だと思います…俺が自己満足の為にあなた方を《削除》したせいなんです。申し訳ありません!」
言うべきか迷ったが、きちんと謝りたかった。知らなかったとはいえ俺は30人を殺している。自分の罪の意識を少しでも和らげたい、そんな気持ちもあっただろう。
『なぜお主が謝罪する?女神様から話も聞いておる。ワシら憑代志願者は死を覚悟の上で、異世界から神の加護を受けて降り立つ勇者たちの憑代となったのじゃ。原因は分からず死んだとも、こうして目の前に〈吸魂師〉の勇者がおる。後悔よりお主をここに導いたと誇るべき事であるとワシは思うておる。』
そう言われて俺は少し心が軽くなった様な気がしていた。
もっと責められると思っていたからな。
「ありがとう…ございます…」
自然と感謝の言葉が出ていた。
『感謝するのはワシの方じゃ。アライブへ来てくれたことを心からありがたく思うておるぞ。勇者殿。』
勇者殿って。
まぁ普通のプレイヤーは数時間だけプレイするだけだが、俺はもうこっちの世界在住の一人だもんな。
気持ちを切り替えゼルバさんに色々聞いてみた。
『なぬ?この世界の事を教えて欲しいだと?ワシの知る限りお伝えしましょうぞ!』
まず今いるこの場所は【中立貿易国ヴュステ】
他国との直接戦闘は無く、他の2カ国と貿易や傭兵事業によって成り立っているらしい。俺の所属国もステータス画面で確認できて、ヴュステだった。
ただ中立といっても他国の領土に勝手に入れば当然罰則もあるらしいので、まずは傭兵登録してはどうか?との事だった。
『ワシもこの国出身じゃからな。案内しますぞ!ワシの姿はお主にしか見えぬので心配する事はないぞ!』
とりあえず、全裸のゼルバさんにはアイテムから薬草を1枚渡して前を隠してもらおうと思ったんだが、魂だけの存在だから装備出来なかった。