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第24話「マスター、ミルクをジョッキで。」

 気が付けば俺は酒場の前に立っていた。


 周りを見ても全く見覚えのない町並み。


 衣服の乱れは無い。パンツも脱いでない。


 俺は・・・助かったのか?


 エリックサンの姿も見当たらないが、どうなってんだこれ?


 ひとまず落ち着いて、今後どう動くか考えなければ。


 酒場の前に居るってことは、ここで何かしらイベントがあるのかもしれない、そう思い酒場へと足を踏み入れた。


 カウンターにはエリックサンそっくりのマスターが、グラスをキュッキュッしていたが、きちんと服を着ているので別人だろう。


 「マスター、ミルクをジョッキで。」


 「ミルクだぁ?ミルクはヒトヅマーンのしかないが、それでいいか?」


 えっ?人妻のミルク?


 落ち着くんだ、俺。聞き間違いかもしれない。


 「人妻のミルクですか?もちろん問題ないですよ!」


 「わかった。搾ってくるから少し待ってろ。」


 うむ。間違いない。しかも搾りたてだと?!


 裏に人妻待機してんのか?

 今から搾るとなると、裏ではマスターと人妻がチョメチョメすんのか?!

 俺も手伝った方がいいんではなかろうか?

 そうに決まっている!


 「マスター、俺も手伝う『ぎゃはは、ミルクなんて頼む奴がいるとはな!あれか、お前童貞か?!』・・・あぁ?」


 後ろのテーブル席で飲んでた4人組の一人がケンカ売って来たようだ。

 酒場によくあるあれだな。しかも俺の事を童貞と言いやがった。

 これはもう遠慮する必要は無いな!


 「誰が童貞だって?」


 「お前だよ、ミルク野郎!童貞は大人しく自分のミルクでも飲んでやがれ!」


 あぁぁん?!


 「俺が童貞だと?!ふざけんなよ!これでも・・・」


 あれ?女の子とチョメチョメした記憶が無い、だと・・・?


 これは・・・あれか?

 名前が思い出せなかったように、記憶がいじられてるのか?


 ジーザス!!いや、ビーナス!!


 記憶が無いという事は・・・俺は・・・童貞なのか?!


 「どうした、童貞?何か言い返すんじゃねーのか?ビビってんのかよ、童貞が!」


 「おい、ジョニー!やめないか!」


 4人組の内、唯一の女性が止めるが、聞く耳持ってないよなこいつ。


 「・・・なぁ、ジョニーと言ったか?」


 「んぁ?あぁ俺は『波乗り』のジョルニード様だ!気易くジョニーって呼ぶんじゃねー!ビビっちまったんなら、おとなしく帰んな!」


 「・・・ジョニー、俺は・・・童貞なのか?!」


 「だからジョニーと呼ぶな・・・はっ?何言ってんだお前。そんなの自分でわかるだろうが!」


 「そうだよな、ジョニー。


 ・・・俺は確かに女の子とチョメチョメしたはずなんだ!


 でも思い出せないんだよ!

 俺のようなナイスガイを女の子達が放っておくはずが無いし、女の子大好きな俺がおとなしく『ちょっ、おまっ』童貞でいるはずも無いんだ!


 美しい女性を見れば所構わずいきり立つ息子も健在だし、どんなにいい男が居たってちょっと見とれるぐらいで抱いて欲しいなんて思わないから『おい、分かったから揺らすなって』ノーマルなんだ!


 いや、でも少し興味も・・・いや、そうじゃない。


 女の子達に並々ならぬ興味を持ち、日々妄想に明け暮れる。間違いなく俺は『辞めろってヴァ、気持ち悪ぃ』ノーマルなんだ!


 しかし、記憶が無いんだ・・・なぁジョニー、俺は童貞なのか?」


 「もう駄目・・・オロロロォォォ」


 ジョニーの両肩に手を置き、つい興奮しながら話してしまった。


 揺らしすぎてちょっと気持ち悪くなったようで、リバースしてるがそんなの関係ない。


 「ジョニー、しっかりしろ!死ぬんじゃない!」


 「死なねーよ!ってかお前のせいだろうが!もうお前は童貞だ!間違いない!よし、じゃあな!」


 ジョニーは回れ右して去ろうとするが、そうはいかない。


 「待ってくれジョニー、確かに俺が童貞の可能性は否定できない。


 だが記憶が無いだけで、本当はもうハッスルしちゃってるかもしれないだろ?このままではこれから出会う女の子達にどんな気持ちで接したらいいか分からないじゃないか!


 だからお願いだ、ジョニー。お前の初体験の話を聞かせてくれ!何かのきっかけで思い出すかもしれないだろ!」


 去ろうとするジョニーの肩をしっかりホールドして訴えかける。


 「嫌だよ!何で俺が初体験の話をしなきゃいけねーんだよ!もう童貞で良いじゃねーか!ピュアな心で楽しめばいいだろうが!」


 「ジョニー、もしかしてお前も・・・童『童貞ちゃうわ!』」


 「じゃあ話してくれてもいいじゃないか。減るもんでもないし、なっ?一杯奢るからさ。あ、おねーさんお酒4つね。おつまみも適当によろしく~」


 ジョニーを席まで引っ張っていき座らせて、ついでに体格の良いおねーさんに注文だ。残念ながら守備範囲から外れていたが、今はジョニーの初体験が大事だ。


 「こんな奴に絡むんじゃなかったぜっ、ったく。」


 「元はと言えばお前が悪いんだジョニー。話してやれよ。お前の初体験を(笑)」


 あ、そういえば人妻のミルクまだっすか?


◆◇◆


 「わ、私は興味無いから男だけで好きに話しなよ!」


 どうもこの女性がジョニーを見る目は恋する乙女のようだな。


 他人の恋愛にはどうもビンビン・・・いや、敏感になっているようだ。

 まぁそれは後でのお楽しみに取って置くとして、今はジョニーだ。


 「もう10年以上前になるが、俺がまだ傭兵になったばかりの頃だ。


 初めて魔物を倒して男として認められた俺は、兄貴分に娼館へ連れて行ってもらったんだ。


 その時の女性がクリスティーナって子なんだが、その日入ったばかりの新人でよ。俺としちゃぁ年上の女性に色々と教えてもらおうとか思っていたんだが、彼女を見た瞬間惚れちまったんだ。


 兄貴達にも最初は御姉様に手解きしてもらえって言われたんだが、俺がどうしてもって言ってよ。


 んでもって初めて同士でお互いぎこちなかったが、俺にとっては充実した時間だった。


 女を知りこれで俺も一人前だってのもあったが、それ以上に俺が守ってやりたいと幼いながらに思ったもんさ。」


 皆茶化すことなくおとなしく聴いている。

 俺の記憶は相変わらずだが、なんか胸がドキドキするわ。


 「それで、それで?告白した?どうなんだよ、ジョニー!」


 もちろん俺はおとなしくないがな!

 なぜかビンビンだしな!


 「童貞は黙って聞いてろっ!


 まぁ~あれだ、俺も男だし、もちろん告白したさ。


 『今はまだガキで金も力も無いが、必ず強くなってお前の身請け金を準備してくる。だから待っていてくれないか?』ってな。」


 おぉ、ジョニー男だね!


 「それで、それで?返事はなんて?どうなんだジョニー?!」


 「お前はもうちょっとこう・・・言うだけ無駄か。

 

 返事は、『期待しないで待ってる』と泣きながら言ってくれた。


 だから俺は、必死で傭兵をやってきた。無茶な仕事で何度も死にかけたが、彼女の事を思いこうして生き残った。


 そして俺はランクが赤になり、金も準備出来た。それが3年前だ。」


 ランク赤って、傭兵ランクの一番上じゃなかったっけ?ジョニー意外とすげーんだな。


 初恋の相手にそこまで頑張れるってのは、よっぽど好きだったんだな。お前は男の中の男だ、ジョニー!


 「すげーよ、ジョニー!童貞じゃない奴は違うな!それで迎えに行ったんだろ?」


 「お前とは違うんだよ!


 ・・・もちろん迎えに行ったさ。


 彼女の住む街が見えた時、街は魔物達の襲撃を受けていた。


 魔物の数が多すぎて、警備隊もやられてしまってたようで街は壊滅状態。それでも俺は全力で魔物を蹴散らし、彼女の元へ向かったさ。


 でもその時俺は一人だった。助けを呼ぶ声がそこらじゅうから聞こえたが、とてもそんな余裕は無かった。今でもその声は夢に出てくるが、俺の罪だ。背負って生きるさ。


 娼館に着いて彼女を見つけた時には、なんとか息はあったが眼も見えてなくてな・・・手遅れだった。回復魔法も使えない、回復薬も使いきって何も出来なかった。


 それでも彼女は俺の声を聞くと『おかえり、ジョニー』と言ってくれた。


 くっ、すまねぇ・・・」


 ジョニーは泣いていた。

 どれだけ彼女を愛していたか、こんな俺でもわかる。


 「ジョニー・・・話してくれてありがとな。それと辛い事を思い出させてしまって、すまなかった!」


 俺は立ち上がり頭を下げた。


 「気にすんな、童貞。俺が勝手に話しただけだ。


 彼女との約束を守るためにも、俺が前に進む為にも、な。」



 『私の為にありがとう。できれば私の事忘れないで欲しいなぁ。


 あ、でも好きな人が出来たらちゃんと告白して、幸せにしてあげてね。』


 頭の中に優しい声が響いてきた。

 これはクリスティーナさんの残留思念的な?吸魂師のおかげなのか?


 「ジョニー・・・だからレイラとの事も・・・」


 ジョニーの仲間の一人が呟いた。

 レイラってどちら様ですかね?


 「レイラって?」


 「さっきまで居た彼女だよ。ジョニーに惚れててずっとアタックしてたんだが・・・そういう事だったんだな。」


 なるほどね。


 「なぁジョニー、童貞の俺が言うのもなんだがレイラさんの事、好きなんだろ?」


 彼女を見る眼は間違いなく好意がある。童貞の俺には分かる。

 あ、もう俺童貞でいいや。


 「ようやく童貞だと認めたか・・・そうだな、俺はレイラに惚れている。だがクリスティーナの事を考えると、この気持ちは言うべきでは『ばっきゃろぉーー!』」


 思わずジョニーを殴ってしまったじゃないか!


 「な、なにすんだよ童貞!」


 「なにふざけたこと言ってやがる!お互い好きなんだろ!だったらお前はちゃんと告白して、レイラさんを幸せにしてあげるべきだろうがぁ!


 クリスティーナさんの事は残念だが、お前は生きてる!もちろんクリスティーナさんの事は忘れちゃいけない、だがそれを理由にしちゃいけない!


 ジョニーも前に進むんだろ?クリスティーナさんとの約束が何なのかは知らないし、俺が聞くべきことではないだろう。だがジョニーがそこまで愛した人なら、彼女もまたジョニーの事を愛し幸せになってほしいと願っているんじゃないのか?!」


 「・・・童貞・・・そうか、そうだよな。俺は彼女達の気持から逃げてただけなんだよな。わかったぜ、童貞!俺はレイラにプロポーズするぜ!」


 「それでこそ波乗りジョニーだ!よし、今日するんだぞ。急いで準備だ!」


 「ちょっ、待てよ童貞。早漏すぎんだろ。」


 「いや、今の気持ちをぶっかけ・・・じゃない、ぶつければ大丈夫だ!」


 俺は立ち上がり、酒場中に聞こえるよう声を上げる。


 「聞いてくれ、ブラザー!今日ジョニーがプロポーズする!それを皆で手伝ってほしい!」


 ガヤガヤしていた酒場が少し静かになる。


 「あぁ?うるせぇぞ童貞、他人のプロポーズなんてしるかよ!」

 「お前が童貞卒業したら手伝ってやるぜ~」

 「なんだぁ~俺が掘ってやろうか?」


 ブラザー達はあまり協力的ではなかったか・・・ノリでいけるかなって思ったんだけど。

 ならば・・・


 「今日は俺の奢りだぁー!手伝ってくれたブラザー達には好きなだけ奢っちゃるわ!」


 「水くせーじゃねーか童貞、もちろん手伝うぜ!」

 「よっしゃー!気合入れていくぞおまえらぁ!」

 「おう童貞、俺の尻使うか?」


 なんか一人ヤバイ感じのヤツが居るが無視しておこう。


 「さすがだぜ、お前ら!よし、マスターこの金で酒や料理を可能な限り準備してくれ。材料足りなければ、ブラザー達で狩ってきてくれ。美しい女性陣は飾りつけを。ジョニー、お前はレイラさんに贈る指輪買ってこい!マイケルはレイラさんを上手く誘導して、日が暮れたら酒場に戻ってくるんだ。よし、時間がないぞ、みんなよろしく頼む!」


 おぉぉぉぉ~!と叫びながら皆動き出した。


 「んで、童貞は何するんだ?」


 「決まってるだろ、人妻のミルク飲んでまったりするんだよ。」

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