第21話「あぁ髪の毛よ。また会おうぞ。」
俺は叫び声のする方へ走り出す。
声が可愛らしかったのだ。素敵な女性が困っているに違いない!
「テン、デビ、早速だけど力を貸して!」
『ん~私たちは良いけど、これ以上魔法使ったらまた禿げるよ?』
「・・・え?何で?」
『さっき毛魔法使ったでしょ~しばらくはアルバの意識容量余裕無いと思うよ。無理して使ったら自我も毛も無くなっちゃうかも。』
「くっ・・・自我はともかく、ここでふさふさを失うわけにはいかないか・・・フムスさん、甘えてもいいですか?アリシアちゃん、ごめんね。ちょっと寄り道させてね!」
「もちろんですよ!急ぎましょう!」
『困ってる人は助けなきゃ!』
最高だぜ!二人とも!
見えてきたのは馬車に群がる豚達だった。
「あれは?豚?オーク?」
「あいつらはオーポーク族ですね。他の種族とは常に争ってる奴らですから遠慮はいりません!殲滅しましょう!」
おぉ豚肉!
「あいつらって食用ですかね?」
「ん〜私は食べた事ありませんが、美味しいらしいですよ。」
よっしゃ、豚肉ゲットだぜ!
来いや、弓!
「アルバさん、私が突っ込みますから弓で援護をお願いします!」
「了解です!フムスさんも無理しないで下さいね!」
走りながら弓を射るなんて芸当は出来ないので、遠的ぐらいの距離まで近づいて構える。
豚肉はいっぱい居るし、適当に射ても当たるだろう。
フムスさんはそのまま棒を構えて突っ込んで行く。
こんな時、矢が雨のように降り注ぐ技とかあればカッコいいんだけどな〜そのうち使えるようにならないかな。
そんな邪念を抱いたままでも矢は豚肉の頭部に命中!
豚肉達がこちらを向いた時には、フムスさんがすぐそこ迄迫っていた。
◆-◆
『フムス、頑張って良いところ見せないとね!』
「そうだね、アルバさんの役に立てるなら死ぬ気で頑張れるよ。」
『死んだらそこまでだよ〜生きて支え続けたほうがいいと思うよ?』
「それもそうだね。こうして君と話せるようになったのもアルバさんのおかげだし、無駄に死にはしないよ。そうだ、君の名前を教えてくれる?」
『私も話せるようになって嬉しいわ♪私の名は《ノエル》よ。』
「ノエル…今まで一緒に居てくれてありがとう…君のおかげで今まで生きてこれたよ。これからも力を貸してくれるかい?」
『もちろんよ、フムス。死が二人を分かつまで一緒に居るわ。』
「ありがとう、ノエル…さぁ、あの豚どもを殲滅しよう!」
◆-◆
《思い描くは幾千の串》
Thinking thousands of skewers
《食用豚に慈悲は無く》
Edible pigs have no mercy
《幾たびの食卓でトンカツは不敗》
With lots of dining tables tonkatsu is undefeated
《ただ一度のお残しもなく、》
There is no leaving of just one time,
《ただ一度の満腹もなし》
There is no single full stomach
《そうだ、串カツにしよう》
Yes, let's skewered it
《下味は塩を一振り》
One piece of salt with a flavor
《ならばタレにも意味は有り》
If so, the sauce also has meaning
《そう、それは》
Yes, it is
《無数の串で刺していた》
I was stabbing with countless skewers
※注)アルバの勝手なイメージによる、意味の分からない、必要のない、中二病を拗らせた魔法の詠唱です。
何故こんな詠唱を思い付いたかだっで?
そりゃ〜目の前で豚の串刺しが一瞬で出来ちまったんだべ!
オラは一射しただけで、その後フムスさんが一瞬で仕留めちまったださ。
つまりそういう事だべさ。
…はっ!俺としたことが、驚きのあまりおかしくなっていたようだ。
おかわりいただけただろうか?
違う!何のおかわりじゃ!豚肉祭りはまだじゃ!
おわかりいただけただろうか?
フムスさんが土魔法で作った串で豚肉達を串刺し。全部ですよ、奥さん!
俺が正気に戻りフムスさんの元へ着いた時には、素敵な笑顔で迎えてくれました。素敵!抱いてっ!
いや、違う。まだ早い。
串刺しにされた豚も30匹以上いそうだし、食べきれませんね。
「助太刀には感謝する!だがこれ以上は近づかないで頂きたい!」
護衛のリーダーっぽい男が話しかけてきた。
まぁいきなり助けに来たって味方か分からないし、警戒するのは護衛として正解だと思うよ。
「私は傭兵のアルバ。殲滅してくれたのはフムス。あなた方と敵対する気は今のところ無いですよ。」
「…確かに傭兵の指輪に契約紋無しの中立か。オレ達を殺そうと思えば先ほどの魔法で豚共と一緒に串刺しにすればいいし、警戒するだけ無駄か…
失礼した、アルバ殿。先ほどの戦闘で1人が重傷でな…回復薬程度では治癒出来ない奴が居る。
厚かましい事だが、回復魔法が使えるのであれば、助けてもらえないだろうか?もちろん礼はする!頼む!」
護衛が皆頭を下げてくるが、
「フムスさん、回復魔法使う余裕ありますか?」
「ごめんなさい、アルバさん。さっきの土魔法で意識容量めいいっぱい使ってしまって…」
あれだけの魔法を使ったんだし仕方ないね。
「テン、君の回復魔法で助けれるか?」
『出来ると思うけど…さっきも言った通り、アルバの意識容量は「それはいい。禿げたって構わない。助けるために力を貸してほしい。」・・・わかったわよ。しっかりイメージしてっ!』
倒れている女性を前にした俺は正直吐きそうだった。
左腕は握り潰されており、腹は裂かれてなんかもう色々出てるし、おっぱいはお椀型で綺麗だし…片方無いけど…
昨日は人を殺し、今日は人を助けようとする自分は一体何なんだろうね。
っと今は考えてる場合じゃないか。
人体の構造なんて詳しい訳では無いがテンが居れば大丈夫に決まってる。
天使だからね。煩悩の塊だけど。
だから俺は彼女のスベスベな肌に潤いを、素敵なお椀型おっぱいが元通りの双璧を、全て元に戻るのを願うのみ。
淡い光が彼女を包み込む。
ヒラリと舞い落ちる髪の毛の代わりに、彼女の傷も少しずつ治っていく。
あぁ髪の毛よ。また会おうぞ。
『アルバ、もうちょっと彼女に近付いて。むしろ直接触った方が治しやすいから、ガバッといっちゃって。もちろん何処かは分かってるわよね?』
え…良いの?
いや、今回は助けるために仕方なく触るだけだ。
決してこれを機におっぱいの柔らかさを堪能しようなどとは思っていないぞ。
『まてアルバ。別におっぱいを触る必要ないだろ。怪我してる女性に破廉恥な事するのは変態紳士の風上にもおけんぞ!』
いや、デビよ。お前悪魔じゃん。
ここは後押しする所じゃん。
『デビ、余計な事言わないの。アルバも男なんだから、機会を逃しちゃダメよ。今回は治療の為なんだから胸触っても大丈夫よ。』
テンは…まぁ煩悩から産まれた天使だからね。
欲望には正直に生きたいところだが、今回はお腹に手を触れました。最初のイメージは大事だからね。
これから彼女と良い関係になれるかもしれないからね。
『も〜アルバってばいつもエロい妄想ばっかりしてるのに、こんな時はヘタレなんだから。』
妄想までバレてるの⁈
『お腹もギリギリだぞ、アルバ。俺が触るなら肩にするぞ。』
悪魔の癖に紳士⁈
俺の増えた髪が天に召された時には、彼女はすっかり元通りだった。
「…んっ、あ、あれ?私生きてるの?」
無事に目も覚ましたようで安心したよ。
仲間達も嬉しそうに彼女を囲んでいる。
「無事に治って良かった…テン、ありがとう。髪の毛はまた余裕がある時にお願いします。本当にお願いします!」
『はいはい。私は疲れたからちょっと休むね〜』
そう言ってデビを引き連れて影の中に入って行った。デビから色々搾り取る気なのね。
「…もう大丈夫なのかしら?レンジャイ?」
護衛のリーダーっぽい人は、レンジャイさんって言うのね。
「はっ!豚どもは殲滅され安全です!エリーゼ様!」
放置されていた馬車から、素敵な声の主が降りてきた。
麦わら帽子。イイネ。
ピチピチの白いワンピース。カワイイデザインネ。
はじける二の腕。タクマシイネ。
濃い青髭。アオイネ。
・・・なぜだっ!
声は素敵なのに、オカマじゃねーか!
詠唱の英訳はグーな先生にお願いしたので、あってるのか解りませぬ。




