第1話「吸魂師」
「何か言う事があるのでは?」
涙目で引きつった笑顔を向けてくる女神様は置いといて、状況を確認していこう。
俺が立っているのは、先ほどから何度も見ていた【アライブ】のキャラクターメイキング画面だ。
服装は普段から着ているジャージに右手にはナイフ。某冒険家モデルのサバイバルナイフはアウトドア用に買ったものだからセーフだよ。
目の前には宙に浮き右手に包帯の巻かれた、美しい女神様。その足元には…死体が横たわっていた。動かないからそう思っただけなんだけど。
「早めに自首した方がいいと思いますよ。」
その一言で女神様の作り笑顔は無くなった。
「これはあなたが《消去》した人達ですよ。見覚えがあるでしょう?」
よく見てみると確かに俺が先ほどから《消去》していたキャラクター達だった。30人が外傷も無く、初期装備のまま横たわっている。
「えっと…ナイフで刺して申し訳ありません。私が犯した罪について、教えていただけますでしょうか?」
俺に対して冗談ではない威圧感放つ女神様を前に、まずはきちんと話そうと思った。
「ナイフの件は後ほど…まず、この者達は地球の人達がアライブの世界に立つための憑代なのです。」
やはりナイフで刺したのはマズかったか。
【アライブ】は従来のコントローラでやるようなゲームではなく、自身の意識をゲームの世界へ投影して現実世界と変わらない!っとかシゲルは言ってたけど流石にこれは違うよな。あ、シゲルは俺の親友。彼は同性愛者だけど、肉体関係はありません。
「あなたはたかがゲームのキャラクターと思っていたでしょうが、彼等はアライブの世界で貴方達地球の人達と同じように生きていたのです。」
女神様の説明によると、地球からログインした際にアライブの人達の身体に乗り移ってゲームをプレイ。
万が一ゲーム中に死亡してしまうと、アライブの人達は本当に死亡してしまうが、地球のプレイヤーは再度キャラクターを作って始める事が出来るので、地球のプレイヤーには死の危険は無いそうだ。
「キャラクターメイキング画面で《消去》しても、アライブの人達は亡くなるという事なんですよね?でも俺以外のプレイヤーも何度も作り直してるはずですよ?何で俺だけ拉致されたんですか?そもそもアライブの人達の命を使ってますとか注意事項も無かったですし…」
正直ゲームとしか思ってなかったのに、あなたは30人殺しましたって言われても…それが本当なら確かに俺は殺人を犯した事になるけど、俺だけじゃないだろう。
「普通はキャラクターメイキング画面で《消去》しても、アライブの人達が死ぬ事はありません。
アライブの人達は死を承知で【アライブ】の平和の為に自ら志願して憑代となっているので、地球のプレイヤーに責任を追求したりは普通はしません。
ですが、貴方だけは《消去》する度にアライブの人達が死んでいったのです。ですから多少強引ではありましたがこちらに来ていただきました。」
俺が知らなかった、普通はありえなかったとしてもキャラクターメイキングで30人を殺害した事は、女神様が言ってるので間違いないのだろう。
異世界ものなど色々な小説を読んできて、多少なりとも憧れていたが、殺人犯として呼び出されてはとても楽しい雰囲気にはならないな。
「あの…俺は普通にゲームやってる感覚しか無くて…
でも、実際には30人の命を奪ってて…
でも、元々危険を承知で志願した人達なら…
でも、無意識でも俺の責任もある訳で…」
ブツブツと呟く俺に対して女神様は、
「何が原因なのかは今はわかりませんし、責任を取れともいいません。アライブの人達の事を知った後では難しいかも知れませんがゲームとしてプレイして頂く分には問題ありません。
ただ、これ以上《消去》はしないで下さいね。」
そう言って女神様は本来の神々しい笑顔を向けてくれた。
その時俺は、話したこともないアライブの憑代志願者30人に対して、平和の為にという志をボタン一つで無にした事に後悔と混乱の気持ちでいっぱいだった。
「あの!俺に…アライブの為に何かできる事はありませんか?!」
女神様は少し驚いた様な表情をした後、優しく、
「では、30人の魂を引き継いで【吸魂師】としてアライブに平和をもたらしてくれますか?」