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第16話「感謝」

 これはヤバイ。

 フムスさんの目はマジだ。

 しかも腰布の前がなぜか盛り上がっているではないか。


 ・・・ごくっ!


 いや、違うからな。

 期待してなんかいないんだからな。

 何をって?

 そんなの俺の口から言わせないで!


 「アルバさん、他の皆さんはどうされたんですか?」


 「あ~皆は先を急いでましたので、もう出発しましたよ。ご飯美味しかったと皆とても感謝しておりました。では、私もこれで失礼しますね!」


 すばやく気をつけの姿勢をとる。

 直立の姿勢で胸を張り、視線は真正面に固定。

 両手は握りこぶしで体に付け、両足は踵をつけてつま先は45度の角度で開く。

 ここまでくれば次はわかるな?


 そう、回れ右だ!

 体育の授業で鍛えられた、俺の美しい回れ右は音を置き去りにする。

 しないか。

 初心者の俺が敵う訳ないし、ここは逃げましょう。そうしましょう。


 え?囮になるとか自分から言ってた?

 んなこたぁ~わかってるさ。

 だから俺は北に逃げる。

 そう思ってた時もありました。


 出口無いんですけど・・・


 「あ、せっかく二人きりになれたんですから出入り口塞いでおきましたよ。これで誰にも邪魔されませんから、いっぱい楽しみましょうね。」


 「い、いつのまに・・・これは魔法ですか?」


 「そうですよ。この姿になってから精霊達の加護も強くなったきがします。イメージ通りすばやく魔法が行使できるんですよ。これもアルバさんが名前を付けてくれたおかげですし、いっぱい御礼しますからね。」


 「そ、それはよかったですね。」


 いや、よくないだろ俺。

 これはあれか。

 土魔法で拘束されて、間違いなくアーッ!ってなる流れか?

 いやでも自分でノーマルですって言ってたし、尻は大丈夫なのか?


 まずは時間を稼がなければ・・・


 「と、ところでフムスさん。名前を付ける事の意味を知ってて、俺に名づけを依頼したんですか?」


 「意味?いえ、単に貴方と仲良くなりたかっただけですよ。」


 なるほろ。

 まぁ自分から眷属になりたいって人もそういないだろう。


 「ではなぜ、さっきから俺に殺気を?」


 ぷぷっ、笑えるわぁ~

 あっ、ち、違うんだからね。偶然なんだからね。


 「そうですね~本能、だと思いますよ。だから私と全力で戦ってください!」


 やばいっ、フムスさんの周りにオーラがっ!

 見えないけど、たぶん、こう、もわもわって感じがするような、しないような。

 嫌だ!俺はまだ死にたくない!

 俺のことを待っている女の子達が大勢いるんだ!たぶん・・・


 落ち着くんだ、俺。

 こういう時は、手のひらに【女】と書いて飲み込むといいって聞いたな。

 ・・・なんかエロいな。


 いや、そうではなくて。

 よし、ここは頭脳戦だ!

 ・・・俺にそんないい脳みそ搭載されてない!


 「わかりました。ですが勝負の方法は私が決めさせてもらいますよ。」


 「・・・まずは聞かせて頂きましょうか。」


 「フムスさんは本能が戦えと、それも全力でと希望されてますからね。お互いの全力を出し切る勝負となれば、ひとつしかありません。」


 「・・・ほう?私は命を賭けた殺し合いでもいいのですが。」


 俺が嫌なんです。まだ漏らしてないからね!


 「それでは勝負になりませんからね。(俺が負けるからね!)」


 「そこまで言いますか!つまらない事だった場合は、問答無用で殺しますよ?」


 あ、やべ。ちょっともれ・・・てない!まだ大丈夫!


 「まあまあ、落ち着いて下さい。俺達に相応しい勝負。それは【精霊達への感謝】です!」


 「【精霊達への感謝】?ふざけているのですか?感謝の気持ちを述べろと?」


 「いえ、形にします。お互い精霊の像を作りましょう。」


 「それで誰が優劣を決めるのですか?まさか精霊に決めてもらうとでも?」


 「そのまさかですよ。」


 「・・・話になりませんね。いい加減に武器を取ったらどうです?」


 「いえ、今の俺達には武器は必要ありません。

 フムスさん、貴方は今まで土の精霊達の力を借りて生きてきたはずです。里から追放され、独りになったあなたの側でずっと力を貸してくれている精霊達に感謝もしているでしょう。


 ですが今貴方のやろうとしている、武器を手に取り命を賭ける戦いを精霊達は望んでいるでしょうか?そんなはずはありません!独りになった貴方に力を貸し続けていたのは、生きてほしいからですよ!


 私もこれまで多くの自然に感謝して生きてきました。北風さんがスカートをめくってくれて下着を目にした時も、太陽さんがその身を焦がして女の子達の上着を脱がし、汗で透けた下着を目にした時もその気持ちに嘘はありませんでした!

 ありがとう、と。


 だから、フムスさん。

 貴方にも自分に嘘はつかないでほしいのです。私達を雨宿りさせて食事まで用意してくれる貴方は、本当にやさしいゴブリンなんです!


 本能がとか適当な事言ってないで、自分で考えて下さい!もし私が本能のままに行動していたら、それはもうすんごい事になってしまうんですよ!

 (タイホー!)


 だから二人で精霊達に感謝の気持ちを表しましょう?」


 何がどうなって、だからになるんだ?

 意味がわからん。

 勢いだけで話してみたが、自分でも何言ってんのかよくわからん。


 「アルバさん・・・あなたの言う通りだ。私は精霊達の思いを理解していなかったのですね。こんな状態では勝負になるはずもない・・・私の負けです。」


 えっ?なんで?

 いや、戦いたくないからいいんだけどね。


 フムスさんは、orzの姿勢で泣き出してしまった。

 俺そんなに良い事言ったのか?


 「フムスさん、二人で精霊の像を作りましょう。それと・・・俺と友達になってくれませんか?」


 涙目のイケメンの顔も様になるなと思いつつお友達ルートで戦闘回避を目指し、右手を差し出す。


 「・・・はいっ!」


 「えっ、ちょっ!力込めすぎだから!ゆる・・・アーッ!!」


 繋がれた手の握力に耐え切れず、俺の右手は砕かれた。

 

 

ユニークが「999」になってて、なぜかニヤニヤしてました。

ブックマーク登録も少しずつ増えてきて嬉しいです。ありがとうございます。

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