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第12話「男爵と信用」

時はちょびっと遡り、傭兵ギルドでの出来事。

登録を終えてギルドを出ようとした時だった。

歴戦の戦士を思わせる風貌の男達がギルドに駆け込んできた。


「だ、男爵がでた!姐さんはいるか?!」


男爵?姐さん?なんのこっちゃ?

そう思っていたらギルド中から驚愕の叫びが聞こえてきた。


「も、もう田舎に帰るー!」

「し、尻を守れー!男達全員に急ぎ尻プロテクターを装備させろ!」

「あ、姐さんは?姐さんは?」


屈強な男達が尻を押さえて震えているではないか。

一体何なのかわからず惚けていると、ゼルバさんの妹さんが話してくれた。


「男爵っていうのはね、危険度最高ランクのモンスターなの…」


なるほど。それならこの騒ぎも仕方ないのか。


「でも、なぜ男達だけが尻を押さえて騒いでいるのですか?俺にも関係します?」


「それはね…掘られるからよ…」


「…えっ?」


掘られるってあれですかね?アーッ!ですかね?


「そのモンスターは《ゴブリン男爵》と言ってね、男達の天敵なのよ。【男祭り】というスキルを持ち、敵味方の雄の数だけ能力値上昇するから対応できるのは女性のみ。そして万が一ゴブリン男爵に掘られた男達は…ゴブリンになってしまうの…」


それはやばいです。逢いたくないです。

俺もお尻がキュッとなりながら話を聞いていると、奥から可愛らしい少女が出てきた。

エルフじゃん!もちろん守備範囲ですよ!

綺麗な金髪にエメラルドグリーンの瞳、見た目は10代中盤ぐらいかな。

え?ロリコン?

やだな〜エルフだからきっと歳食って…

ヒィ〜睨まれた!心読まれた?


「落ち着け!グスタフ、詳細を!」


可愛らしい声がギルドに響くと皆の視線が少女に集まる。


「へ、へい姐さん。ここから北西へ1日ほど行った森で男爵の一団を発見。規模は約100。北東へ進んでました。指揮官と思われるゴブリンの装備は黒のシルクハットに黒の全身タイツ、モノクルと男爵装備だったので間違いないかと。指揮官は3メートル級、部下は2メートル級でした。」


なっ、男爵ただの変態じゃねーか!


「よく生きて帰った!ギザロフに使いを出し、国外哨戒中の部隊を避難させろ。傭兵各員には緊急連絡。討伐には私と戦乙女で当たる。男共は尻を守ってろ!」


皆が一斉に動き出した。俺はひとまず退散しておこう。関わりたくないや。

そう思い傭兵ギルドを後にした。




「っていう事があったので、さっきは掘られるんじゃないかと思って焦っちゃいましたよ〜」


ゴブリンさんが運んできてくれた料理を食べながら、俺は男爵の話をしていた。


「(やだな〜同じゴブリンでも男爵は別格ですよ。私はノーマルですから安心してください。)」


それなら安心だね。俺も今のところはノーマルだよ。本当だよ。

しかしゴブリンさん、料理が美味い!

鶏肉のようなお肉の入ったシチューとクルミみたいな木の実が練りこんであるパン。

シンプルだけとホッとするお袋の味。

うまく言えないがそんな感じ。


「ハハハッ〜それなら安心ですね。料理も美味いし最高ですよ。そういえば自己紹介まだでしたね。私はアルバ、傭兵です。雨宿りだけではなく美味しい食事まで用意して頂き、本当にありがとうございます。」


「(いえいえ〜長いこと1人きりだったので、久しぶりに楽しい話ができて感謝しております。あ、私達ゴブリンって特に名前無いんですよ。こうして出逢えたのも何かの縁ですし、よかったらアルバさんが名前付けてくれませんか?)」


「えっ?急に言われてもなぁ〜少し考える時間を下さいよ。」


「(了解です。いい名前期待してますからね。)」


ん〜真面目に考えよう。

急に言われてもゴブ吉とかしか出てこないわ。

それより相変わらず警戒したままの共和国組はどうしたものかね。


「シェーネスさん達も一緒に食べましょうよ。美味しいですよ。」


俺だけバクバク食べてるのも申し訳ないし、作ってくれたゴブリンさんにも悪いし。


「いや、だがな。ゴブリンとは村や旅人を襲うのは当たり前、女性を攫っては子を孕ませたりとかなりの被害が出ている。アルバ殿は普通に会話しているが、どうしても信用しきれなくてな…」


ん〜気持ちはわかるよ。俺が世間知らずなだけだし。

でもな〜ゴブリンだから悪って訳じゃないと思うんだよね。

実際このゴブリンさんはいいゴブリンだし。

無理言っても仕方ないので話題を変えましょ。


「わかりました。では改めて自己紹介させて下さい。私も皆さんにとっては信用できない他人でしょうから。

私は傭兵のアルバといいます。昨日ヴュステにて傭兵ギルド登録したばかりの新人です。宿屋で休んでいたら爆発音が聞こえて、外に出るとモンスターに襲われたので迎撃。ギルドで状況確認しようと向かっていたら皆さんが闘っているのを見かけ、劣勢だった為参戦致しました。」


天使悪魔の事を言う訳にもいかないもんね。


「シェーネスさんから聞いた限りでは状況は厳しいと思いますが、私は自身の行動については後悔していませんので。信用できないと言われたら私は去りますし、ヴュステや帝国に情報を流すと思われるのでしたら大人しく拘束されますよ。殺さないで貰えると嬉しいんですが…」


今更だが敵じゃないですアピールをしておかないとね。

こういう場面で上手く駆け引きできる人って凄いよね。

俺は考えなしに喋る事があるからちょっと不安。余計な事言ってないよね?


「アルバ殿のおかげで助かった事は事実ですし、本当に感謝しておりますよ。アルバ殿さえよければ我々が共和国に帰国するまで力を貸して頂けると助かります。もちろん報酬も約束いたします。」


いや〜よかったね。拘束プレイじゃなくて安心だね。

まぁ心から信用してないのはお互い様だし、そこは今後の展開次第かな。


「アルバ殿に1つ質問なのですが、何故我々に助太刀を?」


やっぱりそこ突っ込まれますよね〜嘘ついても仕方ないので正直が一番。


「女性陣が可愛かったので!」


皆さんがアホかコイツって顔で見てくるんですけど〜


「えっと…確かに容姿は良いと思いますが、それだけの理由で?下手したら死んでた訳ですよ?」


ここははっきり言ってやらんとな。


「もちろんそれだけです!あ、ちなみに彼氏います?」



皆さん固まっちゃったよ。なんか不味かったかな?




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