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キミのとなりの青春事情  作者: 乾 碧
Episode01~千都恋~
9/19

ぬけがけ


 「お……」


 ……良さそう……。


 (かず)は、一つの掛け時計に目をつけた。


 「千都(せんと)先輩、これ、どうですか? 」


 隣を歩く(れん)に声を。視線を同じ方向に向けさせる。


 「ほぅ……………………」


 形は四角形。そこに、数字が十二個。数字が浮き出ていて、立体性を持って配置されている。基調は赤。数字の色は白。長針と短針が数字の下をくぐっていく。数字の前には来ない。見る場所によっては若干見にくいところがあるかもしれない。が、和はこれを選ぶことにする。


 「良いじゃないか。少しオシャレだしな」

 「これにします? 」

 「そうだな……………………。候補の一つにしよう。決めるのはまだ早い気がする」

 「分かりました」


 恋の言う通り。全部を見たわけではない。もっと良いのが見つかるかもしれない。もっと可愛くて、良いものがあるかもしれない。


 「んー………………」


 唸り声。悩んでる様子が伺える。そこに、凛とした、テキパキしている恋の姿はない。会長という表現を通して見ないのであれば、恋は、なんてことない、普通の先輩、普通の女の子なのかもしれない。


 ……さてと……。


 続き、続き。あまり急ぐ必要はないけれど、のんびりする必要もない。


 和も恋も、時間は余っている。





 「気になるなぁ………………………………」


 真李(まり)は集中出来ないでいた。気になってしまう。和のことが。いつも以上に。


 ……なんでかな……。


 疑問。だが、自分の中で答えはでている。疑問は、その答えに対してだ。


 恋愛部。その影響がある。より、近くにいられるようになった。和が、いつもより自分の近くにいてくれる。それが、たまらなく嬉しい。だから、なのだろう。距離が縮まってしまったから、この程度のことで思ってしまう。


 「好き、なのかな………………………………? 」


 一つの感情。それは疑問の解消にはならない。全く。期間が短すぎる。そしてそれは、こちら側の一方通行だ。歩み寄ってるといっても、そのほとんどはこちらからしかけている。和は何も変わっていない。態度に変化などないのだ。変わってるのは真李だけだ。


 「それは違うよね、やっぱり」


 否定。そんな感情を、今持つ必要はない。いらないのだ。


 「……………………………………あれ……? 」


 レジ打ちを終え、休憩室へ向かおうとしたその時、真李から見えなくなる位置に消えていったその後ろ姿に、真李は見覚えがあった。


 「和先輩だ」


 追いかけはしない。こちらはバイトをしているのだ。仕事をしているのだ。だから、店員とお客の関係。不必要に客に接客はしてはいけない。そこに私情があるならなおさらだ。


 ……でも……。


 どうして、ここに、真李がバイトをしているホームセンターに、和はいるのだろう。何を目的としているのだろう。


  「んー? 」


 単純に、お買い物。それはそうなのだけれども、電車を使ってのお買い物。そんなのを、和がするだろうか。


 ……誰かに付き合っている……?


 もう一つの選択肢がでてくる。本人の意思ではなく、別の意志がある可能性。それなら大いにある。和の性格からして。和を知ってからの時間はまだまだ短いが、それくらいのことは分かる。


 ……誰と……?


 次の疑問が出てきてしまった。


 「んぬー……………………。はぁ……………………」


 やめておこう。これ以上和のことを考えるのは。バイトに支障が出てしまいそうだ。後で聞けばいい。





 「ふぅ……」

 「助かった。涼風(すすかぜ)

 「いえ」


 和が選んでくれたものを候補としつつ、見て回ること一時間。結局、和が選んだ掛け時計を買うことにした。恋もそのデザイン性に惹かれた。


 「部費で、おりるんですよね…………? 」

 「そうだと何度も言っているだろう? 」


 少々高い買い物ではあった。五千円を超えた。部屋に飾るだけ。それほどまでの出費はしなくてもよかったかもしれない。だが、部費だ。ポケットマネーではない。だから、気にしない。うん。それでいい。


 精算を済ませ、入り口近くのベンチに腰を下ろす。本日の予定が終了した。


 「解散にしますか? 」

 「そうだな……」


 予定通り、時間はお昼になったくらい。休日はまだ半分残っている。


 「このあとは……、何もないんだったな? キミは」

 「そう、ですね。暇になっちゃいますね」


 ……うーむ……。


 同じだ。恋もそう。なら、わざわざ解散する必要はないだろう。


 「昼ご飯、一緒に食べないか? なんか寂しいだろう? このまま帰るというのも」

 「………………………………それもそうですね」

 「なら、決定だ。一緒に行こう」


 ……簡単、だったな……。


 ちょっとだけ、断られると思っていた。少しの間はあったが、了承してくれた。関係が進展したか。嬉しいことだ。同じ恋愛部のメンバーとして、最低限の付き合いは必要である。

 

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