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キミのとなりの青春事情  作者: 乾 碧
Episode01~千都恋~
8/19

可愛い


 「ここだな」


 歩いて十分くらい。そう遠くない距離に、(れん)の目的地はあった。


 「千都(せんと)先輩は、ここに来たことが? 」

 「いや、ないな」


 ホームセンター。足を運ぶのはこれが初めてだ。


 「近場でどこが良いかと探した時に、このホームセンターがあってな」

 「そういうことですか」


 遠出をする気はなかった。出来る限り近くで。値段は気にしない。部費で落ちる。会長故の特権だ。決して、乱用などではない。そういう決まり。


 「時計、でしたよね」

 「あぁ」


 どういう物がいいだろうか。部屋に合う物。部室の雰囲気に合う物。メンバーに合う物。候補はたくさんあげられる。


 ……どうしようか……。


 とりあえず中に入ろう。実際の物を見てから考えればいいだろう。





 ……はぁ……。


 真李(まり)はため息をもらす。


 折角の休日。それなのに、自分はバイトをしている。お金を稼げるのは良いことではあるが、刹那的に、ちょっとばかり悲しくなってしまう。


 ……あぁ、和先輩、和先輩……。


 休日なのに、和とずっと一緒にいられる休日なのに。バイトをしている。和と会えない。部屋も隣なのに。


 ……何してるのかな……。


 まだお昼にははやい。休憩をもらえるのも、まだ先だ。長い。


 「あー………………………………………………」


 切り替えないと。モチベーションが下がってきてしまった。それではいけない。バイトとはいえ、それは仕事だ。もうお店は開店している。日曜日。人は多い。頑張っていかないと。





 ……何が良いのか分からない……。


 和個人的には、これが良い、という要望はない。そもそも、付いてきているだけ。頼まれたから来ている。そういう表現が合っている。嫌々ではないが。


 「涼風(すずかぜ)

 「なんですか? 」


 前を歩く恋から声が飛んでくる。


 「もっとこっちにこい」

 「へ……………………? 」

 「私と距離を開けるな。 喋りにくいだろう」


 ……まぁ……。


 恋の言う通りである。前後にいれば、声を大きく出すなり、今みたいに恋がこちらを振り返ったりしないといけない。無駄な動作が増えてしまう。隣にいれば楽だ。話しやすいし、そして、内容も伝わりやすい。相手の表情もはっきりと分かるだろう。


 「それでいい」

 「はぁ……………………」


 ……楽しそう……。


 恋の表情を見て、和はそう思った。和を恋愛部に誘った時、部室にいる時、その時と同じ顔をしている。


 先輩であり、生徒会長であり、和を無理矢理恋愛部に誘った恋。面倒事に巻き込まれた感は未だに拭えないが、こういう表情を間近で見られるのであれば、入って良かったと思える。というか、そう思えることがないとやっていけない。何もなしに続けることは出来ないのだ。


 「あ、あったあった」


 隣にいろとそう言った恋が駆け出していく。追いかけないといけない。従わないといけない。


 「このあたりだな」

 「いっぱい……並んでますね……」


 ……ここから選ぶのか……。


 選ぶのは和ではなく恋だ。もう決まったりしているのだろうか。そこに合わせていかないといけない。


 「どうしますか? 」

 「ん? 」

 「別々に、選んでみますか? 」

 「いや、その必要はない。キミは私についてくればいい」

 「分かりました」


 断られた。





 ……何を言っているんだ……。


 恋は、和の提案を一瞬で断った。一体、何を考えているのだろう。和はついてくる。それでいいのだ。他のことはしなくていい。恋の隣にいればいいのだ。


 「可愛いものがいいな」

 「可愛い、ですか…………………………? 」

 「あぁ、そうだ」


 雰囲気に合うかもしれない。自分を含め、恋愛部のメンバーは、和以外、女子だ。なら、可愛く、華やかなものがいいだろう。


 「どうしたんだ? 」

 「いえ……………………。何でもないです」

 「………………………………………………」


 和は何が言いたいのだろうか。恋には分からない。気にしないでおこう。今は、選ぶことに集中しよう。


 ……むむむむむ……。


 可愛いのがいい。そう言った。が、恋自身、そういったものにあまり興味はない。そして、それは和も一緒だろう。だから、ちょっと悩んでしまう。


 「どうしようか……」


 誰かを呼ぶ。そういう選択肢もあるだろうか。


 ……私には無理だがな……。


 呼んですぐ来てくれるような、要望に応えてくれるような友人はいない。そもそも、友人が少ない。恋は自分をそう評価する。


 会長として見てくれる人は多い。もう会長になっているのだから。でも、今、それは必要ない。求めていないものだ。


 「可愛いもの、ですよね? 」

 「あぁ、そうだ」

 「探しましょうか。これだけあるんですから」

 「それもそうだな」


 選択肢はたくさんある。合ったものを選べるかどうか。そこが問題になる。


 出来るかどうか、二人次第だ。

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