デート #2
「あ……………………」
見つけた。会長だ。|恋だ。
……制、服……?
駅の方向からではなく、喫茶店から出てきた恋。ちょっとだけ期待をしていた和は裏切られた気分だ。
どうして制服なのだろうか。学校があるわけではない。日曜日だ。いくら生徒会長といえ、学園の顔といえども、休日に、わざわざ制服を着る必要はどこにもない。無意味だ。
「遅れました」
時間的に問題はない。だが、恋を待たせてしまった、先輩を待たせてしまったというそれは、謝らないといけないことだ。
「大丈夫だ。まだ時間には早いからな」
「いつからいたんですか? 」
「九時だ」
「………………………………はやく、ないですか? 」
和の予想をはるかに超えていた。一時間前。
「こんなにはやく着くつもりは、全くなかったんだがな」
「さすがにびっくりですよ」
和と恋の間に、笑いが生まれる。
「一つ、質問いいですか? 」
モヤモヤ。疑問は解消しておかないと。
「どうしたんだ? 」
「なんで、制服なんですか? 」
「特に理由はないぞ」
「………………………………」
「まぁ、強いて一つ挙げるなら」
……なら……?
「これが楽だからだ」
「それはそうですけど」
楽。それは正しい。どんな服を着ていこうか、という風に、頭を悩ませる必要がない。和はあんまり服装に気にしないが、女子ならば、そうはいかないだろう。ある程度の身なりをしたいと思うものではないだろうか。男子である和には分からないが。
「もう行きますか? 」
恋に任せる。
「そうだな。そうしようか」
出発だ。和は恋の隣へ。並んでみる。
〇
……ふむ……。
目的地に向かって足を前に。隣は和がいる。恋愛部の、同じメンバーである。後輩である。
だが、知り合ったのは、数日前だ。それなのに、今、恋の隣に和がいる。一緒にこうして出掛けている。
……不思議だな……。
他人と出掛ける。昔を思い出してみても、恋の記憶の中にはあまりない。一人か好きだったからだ。
「なぁ、涼風」
「はい? 」
「今日、キミの予定はこれだけか? 」
「えぇ、まぁ……………………」
「そうか」
……ならば……。
ある程度、和を拘束することが可能だ。特に意味はない。時間があることにこしたことはない。だから、確認したのだ。それだけのことだ。
「それだけですか? 」
「あぁ」
恋の予定も、今日はこれだけだ。時計を買いに行くだけ。おそらく、一時間か、二時間。それくらいの時間で終わってしまうだろう。
……今はいいか……。
恋は考えることをやめる。今する必要はない。その時でいいだろう。
〇
愛は、携帯を取り出しコールする。画面に映し出されている電話相手の名前は、もちろん和だ。確認。確認。
ワンコール。繋がった。起きている。寝てるわけではなかった。
「もしもし、愛っす」
「なんだ? 」
「今、和お兄ちゃんの家の前にいるんすけど…………………………………………」
「悪い、外だ」
「そうっすか……」
電話が繋がった時点で、うすうす気付いていた。残念。せっかく遊ぼうと思ったのに。
「なんか用事か? 」
「いや、いつも通りっすよ。暇つぶしっす」
一人でいるより、和といたい。昔みたいに。そこに理由なんてない。いたい。それだけ。
「悪いな」
「全然大丈夫っすよ」
そういう時だってある。一々落ち込んでいたらキリがない。
「誰からの電話だ? 」
……あれ……?
和とは違う声が聞こえてくる。
「愛ですよ」
「そうか」
恋だ。
……なんで会長といるんっすか? 和お兄ちゃん……。
不意だった。まさか、和と恋が一緒にいるとは思っていなかった。
いつ? その約束がされたのはいつだ? 愛は分からない。記憶にない。
……自分が部室に行く前っすか……?
「真李ちゃんは、そこにいるっすか? 」
「いないぞ? どうしてだ? 」
「いや、なんでもないっす。気にしないでほしいっす」
……ということは……。
真李が来る前、になるだろうか。もし、真李がいる時に、自分がいる時にその話がされていたなら、気付かないわけがないのだ。同じ部屋にいたのだから。
「それじゃ、戻ってきたら連絡してもらっていいっすか? 和お兄ちゃん」
「あぁ、分かった」
「お願いするっす」
……ふぅ、はぁ……。
ちょっとショック。その場所に自分がいないことに。愛も行きたかった。どこに、何の用事ででかけたのかは知らないが、誘ってくれても良かったのではないか。
……後であたしとも遊んでもらうっすからね……。
これは罰だ。愛ではなく恋を選んだ罰。幼馴染みをないがしろにした罰なのだ。拒否権はない。もう決めたこと。