デート #1
「おっと……」
そろそろ時間。ゆっくりとしている場合ではない。
生徒会長を、恋を待たせるわけにはいかない。寝ていただけで部活に入れさせられてしまったのだ。もし、遅刻なんてしてしまったら。どんな罰が待っているのだろう。怖い。
「もしかして……ただ時間に間に合わせるだけじゃダメか? 」
ふと、そんなことを思ってしまった。
恋が遅れてくることは、まず考えられない。時間を決めたのは恋だ。その本人が遅れるなんてことがあってはならない。
早めに着くことが予想される。ということは、和はそれよりも早く、集合場所に着いておく必要がある。
「仕方ない……」
何せ、相手は生徒会長である。恋である。
〇
「ふむ……………………」
予定していた時刻。それは、十時。だがしかし、集合場所とした駅前、その駅の正面に設置されている大時計、そして、恋が身につけている腕時計の針は、丁度九時を指したところである。
どう考えてもはやい。はやすぎる。
「思いのほか、はやく着いてしまった」
どうしようか。することがない。当然、和はまだ来ていない。話し相手もいない。一時間待ちぼうけ。和を待つことしかすることがない。
週末。日曜日。指定したのは恋だ。だが、提案をしたのは和。いい感じ。平等さがある。
……とりあえず……。
時間を潰すことを考えないと。外で待っているのも、少し辛い。春になってもう四月の半ばといえ、風が吹けばまだ寒さが残っている。もうちょっと、暖かくなってほしい。寒いのはあまり好きではない。
「連絡しておくか……………………」
もう着いてしまったということを。そうすれば、早めに来てくれる可能性がある。遠回しに言えば。和なら、あるかもしれない。
「あ………………………………………………」
……なんてこった……。
知らない。和の電話番号を。メールアドレスを。
これでは連絡する手段がない。
「困った……………………」
〇
一段飛ばし、二弾飛ばしで、階段を駆け上がる。その先には、和の部屋がある。
同じ寮が良かった。もっと近くにいたかった。でも、無理だった。だから、こうして、時間をみて和の部屋に。
「ついたぁっ! 」
最後の一段。愛は跳躍する。
今日は日曜日。休みの日。和の部屋に行くしかない。自分の部屋にいても暇だ。それではいけない。
「和お兄ちゃん、まだ寝てるんすかねぇ」
どうだろう。基本的に、早起きではない。幼馴染みなのだから、それくらいのことは分かっている。が、一年のブランクがあった。その差。この一年で、和は変わっているかもしれない。
「昔みたいにしたいっす」
追いかけた意味。何のために和と同じ、この思蓮学園にやってきたのか。忘れてはいけない。
「あれ……? 本当に寝てるっすか? 」
チャイムを鳴らして見た。反応が帰ってこない。いつもなら、すぐに出てきてくれる。一向に、和は姿を現さない。物音一つ聞こえない。
「んー………………………………」
困った。寝ているのならそれでいい。起きるまで待てばいい話だ。
もし、違ったら? 部屋にいなかったら?
……確認するっす……。
電話をかけよう。
〇
「ついた……………………」
予定より十五分は早い到着。乗り換えに、少々時間を使ってしまった。だが、和は、はやく着くことが出来た。
「会長どこだ? 」
この辺の地理に詳しくはない。この場所に決めたのは恋だ。和はそれに従ったまで。恋がいないとどうにもならない。
「メアド知らないしなぁ……………………」
……失態だった……。
電話番号も知らない。これでは、恋と連絡を取ることができない。聞いておくのをすっかり忘れてしまっていた。
「時計の前っていってもいないし……………………」
まだ来てない。その確率はかなり低いと、和は思う。恋のことを何も知らないに等しいが。
どこかで時間を潰しているのかもしれない。
……どうしようか……。
特段、慌てるようなことでもないだろう。もう少しだけ待ってみようと思う。
〇
「あったまる……」
コーヒーを一杯。甘くはなく苦い。恋はブラックを好む。
「そろそろか」
十時前。コーヒーも飲み終わった。喫茶店で時間を潰す理由がなくなった。集合場所に戻ろう。そろそろ和も来ている頃だろう。連絡先を知っていれば逐一聞くことが出来るが、知らないので、そういうことも出来ない。
……遅れたりはしないだろうな……。
そういう性格には見えない。あの無茶振りにほとんど文句を言っていないのだ。ルーズではないだろう。
窓際の席。丁度、集合場所の大時計を見ることができる位置。そこに視線を向ける。
もう到着しているかな?
「見つけた」
いた。和だ。十五分前だ。何も問題ない。ばっちりだ。