約束事
……どうするっすかねぇ……。
和から恋に視線を移す。そして、愛は、この恋愛部の部室にいるもう一人の方に足を運ぶ。
「真李ちゃんもいるんっすね」
……これは大変っす……。
「小さい小さい愛ちゃんじゃないですか」
……む……。
舐めている。確実に、真李は愛を舐めている。愛より自分の方が和の隣にいるべきだと思っている。許し難い。
「あたしより身長の小さい真李ちゃんに言われたくはないっすよ」
「他は勝ってるからいいもんね」
「冗談はやめてほしいっす。嘘をつくのは」
「嘘じゃないもん」
「和お兄ちゃんと一緒にいる時間は、どう考えてもあたしの方が長いっすよ? ここも、あたしの勝ちっす」
「そんな昔のことは気にしないもん。昔より今、だよ? 愛ちゃん」
「その昔がなかったら、今は成立しないんすよ? 真李ちゃん」
〇
……微笑ましいというかなんというか……。
恋と和のことをお構い無しに、真李と愛の二人はもう自分達の世界に入ってしまっている。
「好かれているんだな、キミは」
「愛とは幼馴染みですからね。昔からずっといるわけですし」
……ほぅ……。
「ということは、キミを追いかけてここを受験した、という可能性もあるわけだ? 」
「そう、ですね」
愛にとって和は、そういう存在なのだろう。追いかけるべき存在。ずっと一緒にいたいと思える存在。もちろん、恋には、そこまで執着できる、されている相手はいない。
……必要はないだろうな……。
重要なことだとは思わない。あって困るものではないだろうが、無くて困るものでもない。恋の認識としてはその程度のものだ。
「あいつ、結構頑張ってたんですよ」
「勉強を、か? 」
「はい。そこまで出来るわけではなかったので。かなり手伝いましたが」
和がいたから頑張れたのだろう。そして、頑張れば、頑張って勉強をすれば、和と同じ高校に行ける。それは愛にとって、凄く原動力になったと思われる。
「キミは成績が良い方なのか? 」
「人並みには。でも、沙織のほうが出来ますよ」
……沙織……?
「あぁ、あの時の子か」
女の子みたいに可愛らしかった男の子。和と同じ名前の。
……女装させたらどうなるのだろうか……。
ちょっとだけ気になる。機会があったらやってみたいと思う。嫌がられそうだが。
〇
二人の言い争いを尻目に、和は、恋の隣へ移動する。恋が話しかけてくれたおかげだ。ゆっくりと。気付かれない。
「あれ、この部屋、時計ないですよね? 」
今の時間を確認しようと視線を上に向け見渡して見たが見つからない。腕時計は持ってきていない。基本的には部屋にそれぞれ一つあるものだし、和は持ってくる必要を感じない。
「あ? 買ってくる」
「買ってくる? 学校のどこかに、あまりがあったりするんじゃないんですか? 」
「あるが………………………………、そんな質素なものでいいのか? ここに合うような、そういう物が必要だろう? 」
「それはそうですが…………、お金は? 部費とかおりないでしょう? 」
「何を言っているんだ? 私をなんだと思っている? 」
「え…………………………………………? 」
「生徒会長だぞ? 権限は私にある」
……なんてこったい……。
ここは、さすが生徒会長、と言うべきなのだろうか。いや、違うだろう。権力の乱用というか、生徒会長がそこまで決めることが出来るのだろうか。あまり興味がないから、和には分からないが。
「一緒に行くか? 」
「え? 」
「嫌か? 」
「そういう聞き方はズルいですって」
嫌、という感情がここで出てくるわけがない。誘導しているのだろう。それに、まんまと釣られてしまう。仕方ない。
「なら、一緒に来てくれるのだな? 」
「まぁ、行きますよ…………………………」
「助かる。他人の意見も聞きたいからな」
「いつですか? 」
いつもいつも暇なわけではない。それは恋だって同じだろう。生徒会長なのだ。和より時間がないだろう。
「今日はどうだ? 」
「これから、ですか? 」
「これから、というか、六時回ってからになるが」
「流石にそれはやめましょうよ。遅いです」
「そうか? 涼風はいつがいいんだ? 」
「そうですねぇ……………………」
週の中日。後は、木曜日と金曜日。今日みたいに特別な時間割ではないから、いつも通り授業がある。その後には、今日みたいに、ここに集まることになるのだろう。
そうであるのなら。
「週末、土曜日か日曜日のどちらか、でどうですか? 」
「なら、日曜日にしよう。問題ないな? 」
「はい。大丈夫です」
決まった。
「時間は前日にでも連絡する」
「了解です」
たまには気分転換も必要だ。休みだからといって、家に引きこもっているのは、あまりよろしくない。