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キミのとなりの青春事情  作者: 乾 碧
Prologue〜恋愛部〜
3/19

関係性


 「千都(せんと)先輩」

 「どうしたんだ? 」

 「帰っても……、いいですか? 」

 「駄目だ」


 一瞬だった。一瞬で、否定された。だが、(かず)は引かない。引く理由が見当たらない。


 「暇じゃないですか」

 「そうだな」

 「じゃぁ、良いじゃないですか」

 「駄目だ」


 二度目の問。返ってくるのも同じ否定だ。


 (れん)に起こされて、ここに。


 この部室に時計はない。和も今日は時計を持ってきていない。だから、どれだけ時間が経ったのか、その正確な時間は分からない。


 ……はぁ……。


 部活を行える最長時間は六時まで。長い。授業があれば六時までという時間は短く感じられるが、今はそうではない。時間を計る術がない和には、余計長く感じてしまう。


 「なぁ、涼風(すずかぜ)

 「なんですか? 」

 「一回、私のことを、名前で呼んでみてはくれないか? 」

 「は…………………………………………? 」





 知りたい。恋はそう思った。女の子からではなく、異性から名前を呼ばれた時、自分はどういう感覚を得ることが出来るのか。


 ふと気になった。気になってしまった。丁度いい相手もいることだ。試すべき。


 「聞こえなかったっか? 」

 「いや………………大丈夫ですけど…………」

 「なら、はやくしてくれ」

 「いやいやいやいや」


 ……困ったものだ……。


 従ってくれないと困る。


 「何故、拒否する? 」

 「それは……………………」

 「頼む。一回だけで良いと、言っているだろう? 」


 なにも、これからずっと名前で呼べ、なんてことは言っていない。呼ばせるつもりもない。出会ったばかり。まだはやい。


 「……………………」

 「恥ずかしいのか? 」

 「そういうわけではないですが……」

 「ならいいではないか」


 断る理由が見つからない。


 「れ…………………………恋…………先輩……………………」

 「ふむ……………………」

 「満足、ですか? 」

 「あぁ、感謝する」


 ……ふむふむ……。


 少しこそばゆい。初めての経験だからだろう。慣れていこうと思う。なんとなく、そう思う。


 「下の名前、和、だったな」

 「えぇ」


 恋は、あまり他人のことを名前で呼びはしない。苗字で呼ぶか、君、などといった呼称で呼ぶか。半々くらい。


 「和……………………。和君…………」

 「なんですか? 急に」

 「なんでもない。気にしなくていい」

 「……………………はぁ……」


 コンコンコン。


 「おや……………………? 」


 ノックの音が聞こえる。控えめな音だ。話が終わってなければ、恋の耳には届いてなかったかもしれない。


 相談者第一号か。それとも、これから同じ部活で活動することになるメンバーか。


 ……さぁ……。





 「ここだよね」


 即席の看板が掛けられている。それでも、小さい看板ではあったが、ここが恋愛部の部室だということを、周りに知らせていた。


 「すぅ………………………………はぁ………………………………」


 真李(まり)は大きく深呼吸をする。緊張してしまう。気分も高ぶってきている。


 コンコンコン。





 「こ、こんにちは」

 「ふむ……………………」


 扉を開ける。そこにいたのは一人の女生徒。


 ……一年生か……。


 制服のリボンで色が分かれている。一年生は青色。二年生は赤色。三年生は水色。きちんと区別ができるようになっている。


 「御神楽(みかぐら)真李、ですっ!」


 ぺこり、と可愛らしいお辞儀をしてくれる。


 ……御神楽、御神楽……。


 「入りたまえ」


 相談者ではなかった。メンバーの内の一人だ。


 「ありがとうございます」


 真李を中に招き入れる。


 これで三人。手紙で、それぞれに通達はしてある。後何人来るだろう。今日の間に。全員の顔合わせくらいはしたいものだ。そのための時間もたっぷりとある。


 「あれ………………………………? 和先輩じゃないですかっ!!!!!!!! 」


 ……知り合いか……?


 物凄い勢いで恋の横を通り過ぎ、和に向かって一直線に走る真李。


 「おいこら、やめろ」


 真正面から和に抱きつく真李。


 そんな光景を、恋は見てしまった。見せられてしまった。





 むにゅぅぅぅぅぅぅぅぅ。


 ……和先輩和先輩和先輩和先輩和先輩和先輩和先輩……!!


 和を捉えた真李のテンションは、一気に最高潮まで駆け上がる。単純だなぁ、と自分でも思っているが、どうしようもない。そうなってしまうのだから。


 「やめろって」


 抱きついている真李を離そうと押し返してくる和。その力より強く、強く。和と密着することをやめない真李。和成分を補給しないと。


 「はぁ、二人は知り合いか? 」


 ため息混じりに、後ろから声が聞こえてくる。


 「はいっ! 寮が一緒なんです。それも、隣同士、なんですよっ! 」


 出会って数週間だ。出会って数週間で、これだ。後から怒られたりもするが、和はなんでも許してくれる。もっと深めることができたら、何ができるだろう。この位置を失いたくはない。


 「ほぅほぅ」

 「千都先輩、そんなとこで見てないで手伝ってくれませんか? 」

 「断る。嬉しそうな顔をしているじゃないか」


 ……えへへへ……。


 和は嫌な顔一つしない。受け入れてくれる。和が隣にいてよかったと、真李は心からそう思う。

 

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