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キミのとなりの青春事情  作者: 乾 碧
Prologue〜恋愛部〜
2/19

恋愛部

 「…………………………」

 「ふふふ」


 (かず)は部室にいた。もちろん、恋愛部の部室だ。


 思蓮しれん学園には無数の部活が存在する。何故なら、最低二人揃えば、部活として認定してもらえるからだ。これは生徒手帳に記されている事柄であり、知らない人はあまりいない。


 だが、その全てに、部費がおりるわけではない。他ではサークル程度のものでもこの学園では部活になってしまうため、そんなものにまで全て部費を与えていたら、学園は破綻してしまう。


 なので、活動人数五人、そして顧問がいることが、部費がおりる最低条件となっている。部室も、その条件をクリアした部活にのみ与えられる。


 「何してるんですか? 千都(せんと)先輩」

 「読書だ」


 ……それは見れば分かる……。


 和が聞きたいのは、そんなことではない。


 「そうじゃなくてですねぇ……………………」


 ペースが狂う。(れん)のペースに引き込まれてしまう。流されてしまう。


 「そうか」


 あぁ、もう。


 ……あと三人……。


 今日来るかどうかは分からないが、最低でも、この恋愛部に、自分と恋の他に、あと三人はいる。恋は先程和を誘う時に人数がなどと言っていたが、それは口実であった。上手くのせられたのだ。


 一応、同じ部活のメンバー。仲間、ということになる。接しやすい方がいい。和はそう思う。楽な方がいい。





 ……ふぅ……。


 時間を潰すために図書館から借りてきた本。その目的は達成された。ある程度の時間は消費できた。


 「読むか?」


 同じ部屋にいる、少し距離をおいて座っている和に、恋は声をかけてみる。


 「読みません」


 (なんと)


 「そうか」


 個人的には面白かったと思う。これからの活動に生かせそうな本であった。だから、ちょっとくらいは和にも読んでみてほしかったのだけれども。


 「ほんとに、読まないのか?」


 無理矢理だが、和だって恋愛部の一員なのだ。


 「……。今はそういう気分では」

 「そうか」


 残念。


 (まぁ)


 今読ませる必要はないかもしれない。気が向いた時でいい。その時にでも。


 「そもそも、恋愛部って、なんなんですか?」

 「名前の通りだが?」


 恋愛部。人の恋を応援し、成就まで導く。それが、恋の目的だ。


 友達に相談ではなく、わざわざ第三者に話をする者がいるかは分からない。


 (そういうことを考えたら、存在意義がなくなってしまうからな)


 やめておこう。


 「そうですか」

 「時に……君は」


 距離をつめよう。お話をする。その時に間が開いていたらやりにくい。話し辛い。


 「な、なんですか?」

 「恋を、したことがあるか?」





 恋との距離は、数十センチ。


 威圧感というか、なんというか。ここまで詰められることを、和は良しとはしない。身体を少し後ろに仰け反らせ、距離を保つ。


 「恋愛、ですか?」

 「あぁ、そうだ」

 「ない、ですかね」


 あまり、そういう感情とは縁がなかった。仲の良い女子がいなかった、とかではない。それなりに、交友関係は広いつもりでいる。その先に進むことがなかった。それだけのことだ。


 「ないのか」

 「はい。逆に、千都先輩はどうなんですか?」


 同じ質問を返す。


 「私もないぞ。だからこそだ」

 「へ………………………………………?」

 「だから作ったのだよ。私はね」

 「恋愛部を、ってことですか…………?」

 「あぁ」


 恋愛をしたことがない。それについては、和は口を出すことができない。


 「そろそろ触れてみたいと思ってな。恋愛というものに」

 「それが………………、この部活を作った理由ですか……?」

 「そうだ。男の部員も欲しかったからな。君はちょうど良かった」

 「ん? 俺だけ、ですか?」

 「本当は、半分半分にする予定だったんだが、名簿を見て部員を決めたらあらびっくり。そこに男がいなくてな」


 おそらく、あの集会の時も、男のメンバーをどうしようかと考えていたのだろう。そんな時に、和はタイミングよく寝てしまっていた。そして、恋に見つかってしまった。


 (雑すぎるだろ…………)


 「雑だ、と言いたいか?」

 「う……………………」

 「分かっているさ。自分でもな。だが、この方が楽しそうじゃないか」


 (楽しい?)


 人との触れ合い、交友を持つことが、きっと、恋は好きなのだろう。だが、恋は生徒会長だ。それなりに、顔は広いはずだ。もっと、ということなのだろう。


 分からなくはない。





 御神楽(みかぐら)真李(まり)は迷っていた。


 「ダメダメ」


 落ち込むことはよくないことだ。物事が悪い方向に進んでしまうから。だから、前向きに、ポジティブに。足を進めよう。


 「頑張らなくちゃ」


 視線を手元におとす。握られているのは、一つの封筒。前面には、大きな文字で、恋愛部、と書かれている。


 封筒を受け取ったのは登校時。受け取ったというか、上履きの下に挟まれていた。


 (あの恋愛部だよね…………)


 一時間ほど前の集会。生徒会長を決めるための集会。一年生である真李にはあまり関係のないことであり、少々退屈だった。


 「どんなことが書いてあるんだろ」


 まさか、中に何も入ってないなんてことはないだろう。どこどこに、何時までに、程度のものがあるはずだ。


 「ふむふむ……………………」


 一枚。ルーズリーフの切れ端が入っていた。


 そこに記されいるのは、予想通りのもの。恋愛部の部室が部活棟の三階にある、ということが、書かれていた。


 「行こっかな」


 招待を受けたからにはいかないと。強制されてるようなものだけど。


 何せ、相手は生徒会長である。あの場所で、全校生徒に向かって、あんなことを言い出す生徒会長である。


 行かなかったらどうなるか。考えたくもない。




 

 

 


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