にかいめ #4
「紹介するね。和お兄ちゃん。松原莉依渚ちゃんだよ」
「どうもー。ご紹介に預かりました、松原莉依渚でーす……………………っととととと」
「大丈夫か!!!? 」
……あぶねぇ……。
足が絡まってしまったのか、愛に紹介を受けこちらに走ってきた莉依渚が前にバランスを崩してしまう。
その先に、丁度和がいた。和が支える形になる。
……やわらけ……。
抑える、抑える。危ない。和は気持ちを落ち着ける。ゆっくりと。いつものように。
「…………………………………………ふぇぇ…………………………………………」
……え……?
莉依渚が顔をあげ、こちらに視線を。その目尻には少しだけ涙が浮かんでいた。
「だ、大丈夫っすか? 莉依渚」
「大丈夫…………かな? り、莉依渚ちゃん」
「うん。大丈夫だよー」
パッと笑顔を浮かべ、和から離れていく。
「莉依渚を助けてくれてありがと。和くん先輩」
「おう」
……ん……?
その口調に少し引っかかる。気にならない程度ではあるが。和くん先輩。新鮮な呼び方である。これまでになかったものだ。"先輩"と読んでくれるのは自分より年下の生徒だけ。そこに"くん"がつく。なかなかないものだろう。
「で、わざわざどうしたんだ? 愛」
「いやー。特に深い理由はないっす。莉依渚を紹介して、そのまま部室に行きたかっただけっすよ」
「そうか………………。って、松原さんも恋愛部のメンバーなのか? 」
「莉依渚って呼んでよ。和くん先輩」
「……………………莉依渚もなのか? 」
「そうだねー。莉依渚もみたい。昨日だったかな、また封筒が届いていて」
「また? 」
「うん。また」
また、ということは、恋が二回目の連絡を行ったということになる。当然のことだろう。集まっていないのだから。これが、最善の策といえるだろう。会って直接呼びつけるという手もあるだろうが、そんな手段を恋が取るようには思えない。あくまで、手紙を使っての通達に拘っている。しかも、一回目とは違い、少しだけ封筒のデザインが変えられている。可愛くなっている。
「よろしくね」
「こちらこそ」
〇
……ひぇー……。
危なかった。不意。全く予想していなかった。コケてしまうなんて。和にもたれかかってしまうような形になってしまい、もう少しでバレてしまうところだった。
「莉依渚、莉依渚」
「何? 愛ちゃん」
「真李ちゃんとどっちが大きいって……。聞くまでもなかったっすね」
……はは……。
「んもー、愛ちゃんってば。自分がないからって」
「あーー、それは言っちゃいけないっすよー。げきおこになるっすよ? 」
「別にいいもん。愛ちゃんが怒っても怖くないし」
「このやろーーーーっ!! 」
……楽しそうだねー……。
仲の良い二人。聞いてみたところ、昔からの付き合いではないらしい。自分と同じ、高校からのお友達。それでここまで仲良く、他者からそう思われることが出来るのだ。すごい。莉依渚は純粋にそう感じた。
「莉依渚も混ぜてー」
〇
「ごちゃごちゃうるさいな……………………」
和と、その後輩達が、教室の入口近くで騒いでいる。教室内に残っている生徒のほとんどの視線は、その四人に向いておる。
「はぁ……」
ため息をつき、詩愛は机に顔を伏せる。自分が和を連れていこうとしたのに。沙織にとられ、そして、後輩に取られた。やってられない。
「行かなくていいか……………………」
毎日行く必要はない。誰もいない、という状態は避けないといけないから事前に連絡取り合う必要はあるものの。たまには行かなくてもいいだろう。今日出向いてしまえば、三日連続で恋愛部に顔を出していることになってしまう。
なんか嫌だ。それは困る。詩愛が恋愛部に固執しているかのように映ってしまう。そんなのはごめんだ。
〇
「…………………………………………」
恋は少しムスッとする。新しい子が来た。もう一度連絡を行った効果があったということが分かり嬉しいが、和や愛が連れてきたその娘は。
……まーた大きい……。
真李と同じタイプだ。身長はあまりなく、一部だけ成長している。わけろわけろ。
……はぁ……。
ここまでにしておこう。気にしていても仕方ない。後回しにする。
「どーも。松原莉依渚です。えとえとー、愛ちゃんと」
莉依渚の視線が愛に。
「真李ちゃんのお友達です。今回は遅れてしまって」
「気にするな。こうして来てくれたのだからな。私にも悪かったところがある」
「ありがとーございます」
落ち度はこちらにもある。むしろ、こちらの割合が大きい。




