にかいめ #3
「どこにいるのかな、和先輩は……………………」
「あ、あそこ」
……見つけたっすよ……。
真李とは違って一瞬で見つけた愛。探すまでもなかった。これが差だ。真李と愛の差だ。付き合いの差が出ている。後姿だけでも和を見つけることは簡単だ。何年一緒にいたと思っているのか。
目が合った。
「和お兄ちゃぁーーーーんっ!! 」
大声で。和に、ではない。クラスに残っている和のクラスメイトに自分の存在を気付かせるためだ。こうすれば、和は飛んでくる。
「こら、声が大きいぞ。愛」
「えへへー。わざと、っすよぉ? 」
「まったく……」
「涼風君? 」
……んん……?
和の後を追いかけてくる、一人の男の子。男の子だ。女の子ではない。男の子の友達が、和の右に立つ。
「和先輩…………? そちらの人は……? 」
真李は知らなくて当然だ。だって、愛も知らないのだから。
「涼風沙織だよ。よろしくね」
「沙織……………………さん……? 」
「うん。男だけどね。僕こんなんだから、よく間違われるけど」
「そうだな」
「笑わないでよ? 涼風君。これでも気にしてるんだから」
「すまんすまん」
……良いっすねぇ……。
和も男子として大きい方ではない。そして、もちろん、沙織もだ。愛とそんなに変わらないだろう。想像が膨らむ。
「で、君達は? 名前、教えてくれるかな? 」
「大神愛っす! 」
「御神楽真李です」
「うんうん。覚えたよ」
……仲良く、できるのかな……?
友達付き合いは、非常に重要だ。恋愛部の中だけの話ではない。こういうところでも。和の友達と仲良くすることも大切だ。必要なことだ。
「涼風君は、今日も恋愛部かな? 」
「だな。すまん」
「いいよいいよ。僕のことは後回しにしてもらって構わない」
……んんん……?
「何か、用事があったんすか? 」
「大丈夫だよ。気にしなくても」
「いいですか? 沙織さん」
「問題ないよ。ほら、はやく涼風君を連れていって。皆がこっちに注目されているしてるよ」
「……………………それもそうだな」
「ほんとだ…………」
「みんな、こっち見てるっすねぇ………………」
ある意味愛の狙いはそこにあったわけだが、ちょっと行き過ぎたか、過半数以上、むしろ教室に残ってる人のほとんどが、こちらを見ている。
「じゃぁ、行くか」
「あ、ちょっと待ってほしいっす」
「そうそう。愛ちゃんのお友達をつれてきたの」
「どうして真李ちゃんが? それはあたしが言うことっす」
……もぅ……。
「愛の友達? 中学の時のか? 」
「いや、全然違うっす」
……びっくりしたっすよ……。
友達も恋愛部の勧誘を受けていたことに。そして、恋が先週来なかった人にもう一度恋愛部に関する手紙を送っていたことに。
それによって、友達が誘われているということが知れた。相談されたから。良かった。部活のメンバーはそれはそれで友達というので括れるが、恋愛部というものを介さない、元々の友達がいてくれたらなー、と愛は少し思っていた。和と真李がいるが、二人は友達ではない。もっと大切なもの。
〇
……あわわわ……。
あたふた、あたふた。
愛と真李から少し離れた先、廊下の柱に隠れるようにして、愛の友達松原莉依渚は四人の様子を観察していた。
さっきから、愛がチラチラとこっちに目線を送ってくる。もうそろそろかな。
「不安だな……」
友達、友達。莉依渚は愛のことを友達だと思っている。何故なら、愛に声をかけたのは莉依渚だからだ。あっちの方から声をかけてきたのではない。決して。
「はぁ………………………………………………」
……どうして……。
どうして自分はそんなことをしたのだろうと、莉依渚は首を傾げる。決して、悪いことではない。快く引き受けてくれてむしろ良かったと、莉依渚は思っている。
もしかすると、愛はそう思っていないかもしれない。一方的の可能性もある。
……さてと……。
「よしよし…………っ!! 切り替えていくよーーーーーっ! 」
偽りの自分は隠していこう。こんな姿は誰にも見せられない。だって、莉依渚はそういうキャラではないからだ。失敗してはいけない。高校一年生。取り返せる、そんな気持ちはない。最初からミスをおかさないように。
「莉依渚っ!! おいでーーーーっ!! 」
……よしきた……っ!
呼ばれた。
深呼吸。初まりが大切だ。それも、愛の幼馴染み。ちょっとは話に聞いていたりするけれど。
躓いてはいけない。




