にかいめ #1
「まだ和先輩いるかなー」
早足で、真李は部室棟の階段を三階まで駆け登る。
昨日は、バイトのせいで部室に顔を出すことが出来なかった。
ホームルームが終わってから、一時間ほどが経ってしまっている。授業が終わったらすぐに恋愛部に出向いて和とお話をしたかったのだが、その授業が長引いてしまい、運悪く、その後、友達に勉強を教えることになってしまった。
「むずかしいな、もぅ……」
断ればよかった、と後悔する。教えることは難しい。理解していないと、他の人に教えることなんて出来ない。
「…………とーちゃくっ! って、あれ……? 」
恋と和の声に混じって、聞いたことのない声が真李の耳に届く。
……新しい人かな……?
まだ全員揃っているわけではない。
「…………………………………………そろっと……」
お取り込み中だ。ゆっくりと、部室に。
「お? 御神楽じゃないか」
「はいっ。御神楽真李ですよーっ! 」
一人、二人、三人。恋と和と、知らない人。真李は、さりげなく自己紹介を行う。そのまま和の隣へ。
恋の隣にいる女の子。和と同学年か。腕を組んでいて、さっき大きな声を出していたのはこの人だと、すぐに分かった。
「葛城詩愛よ」
「ほぇ……? 」
「こいつの名前だ」
「あぁ。そういうことですかー」
……葛城さん、葛城さんっと……。
「こいつ、って言わないでもらえる? 」
「む、すまなかったな」
「まぁ、許してあげるわ」
……あわわわ……。
詩愛の口調は荒々しい。一つ年上の先輩に対して、生徒会長に対してのそれではない。あまり良い雰囲気ではない。怖い。
「和先輩、和先輩」
「なんだ? 」
声を小さく。なるべく、和の耳元で。二人に聞かれないように。特に、詩愛に聞かれないように。
「葛城先輩って……………………」
「学園長の娘らしいぞ」
和ももちろん意図を汲み取って、真李に合わせてくれる。
「どこの、なんですか? 」
「ここに決まってるだろ」
「へぇー……………………」
それもそうか。
恋に対して上から目線。立場を持つ人間だとは思っていたが、真李が考えている以上だった。
だからといって、その詩愛の学園長の娘という立場が、真李に影響を与えるわけではない。
「恋愛部の……、部員ですよね? 」
「おぅ」
だとしても、直接的に影響はない。部員としての付き合い。それをすればいいだけの話である。こちらは一年生。無茶なことはしない。
部活として、人が増えることは良いことだ。それに、この部活は、人の相談に乗るための部活だ。それも、恋愛相談。意見は多い方がいいだろう。相談者にも、それはそれは良い影響を与えることだと思う。
真李には、あまりその経験はない。だから、他者を通じて、この部活を通じて、少しでも成長したい。その程度だが、真李にだって願望はある。ただ生徒会長が言ったから、等という理由で部活に入るほどの人間ではない。
「あ、そうです」
「どうしたの? 真李ちゃん」
「和先輩は、あの葛城先輩とお知り合いですか? 」
質問。気になった。同学年だからだ。
「そうだな。クラスメイト。席も隣だし」
「……?? 一緒なんですか? 」
……むむむむむ……。
「そうだぞ」
ちょっと困った。クラスメイトだけならまだ問題はなかった。だが、隣となると。教室での接する機会が多くなってしまう。恋愛部のこともあるから、その機会は、これからもっと増えてしまうことだろう。
別に、どうってことはないが、真李は一年生だから、校内にいる間は、あまり和と接することが出来ない。寮へ帰れば問題ないわけではあるが、それでは足りない。羨ましい。
「んー……………………」
〇
「なんなのよこれは……………………」
放課後になってから学校に登校したアリス・ハナン・フーリアは、自分の下駄箱に、見知らぬ封筒が二つ入っていることに気づいた。
「恋愛部ってなに? 」
全く分からない。恋愛部が何なのか。どうして二枚入っているのか。理解することが出来ない。
「新生徒会長? そういえば、会長代わるんだっけ」
新と書いてあるということは、もう交代してるのだろう。自分が登校していなかった時に行われていたことだ。アリス的に、興味の無いことだ。会長が誰になろうと、アリスには関係のないこと。
そのはずなのに。
「なんでその会長さんから、あたし宛にこんなものがきてるの? 」
……ありえない……。
誰が新しい生徒会長になったのか。アリスは、それすら知らない。学校に来ていなかったのだから当然のことだ。それなのに、そんな生徒会長からの手紙。全く接点のない生徒会長からの手紙。
「意味不明だわ」
呼吸。
「それにしても……、恋愛かぁ……………………」
恋愛。恋。愛。
二つ目の封筒には、何やら活動内容と見られるものが記されている。他者に対して恋愛相談を行う、と。
「相談ってなによ。あたしにそんなこと出来るわけがないじゃない」
そもそも、友達の相談すら乗ったことがない。というか、乗れる、乗ってくれるような友達が、アリスにはいない。それは、恋愛以前の問題であろう。
去年に転校してきて、今年で一年。最初の頃は、ハーフだなんだと騒がれていたアリスであったが、今ではそんなこともない。一過性のものにすぎなかった。
「はぁ………………………………。もう……」
考えることにする。答えを出すにはまだ早すぎると思う。




