対立関係
「涼風っ! 」
「な、なんだ…………? 」
授業が終わった。ホームルームも終わった。今日も、なんでもな一日が終わった。つまらないといえばつまらない。
そんなことはどうでもよくて。
「今日も行くから」
「どこに? 」
「恋愛部に決まってるでしょ!? 」
少しだけ、無意識のうちに大きい声を出してしまった。抑える。周りから、変な視線を受けるのは嫌いだ。面倒だ。
「そうか」
「あんたもくるでしょ? 暇なんだから」
「勝手に決めつけないでもらいたいが…………」
「なんなの? 用事あるの? 」
「沙織と勉強する予定だ」
「沙織……………………? あぁ……」
沙織。涼風沙織。このクラスにいる、もう一人の涼風。兄弟とか、そういうのではないらしい。全く似ていない。紛らわしい。
……面倒よね……。
苗字だ。涼風と呼べば、和か沙織か、どっちかが反応する。今は目当ての方が振り向いてくれたわけだが。
「別にいいよ。涼風君」
「いいのか? 」
「うん。明日の朝とか昼とかでも出来るものだからね。わざわざ、今日の放課後にやる必要はなかったりもさるんだよ。うん」
「沙織がそう言うなら俺はいいけど……」
「決まったわね。じゃ、涼風借りるから」
「うん」
言ってしまえば、和を連れていく必要はあまりない。もう場所は知っているわけだし、鍵が置かれている場所も把握している。和はいらないのだ。
でも、詩愛は、和と一緒に恋愛部に行くことを選んだ。
「行くわよ、涼風」
「はいはい」
和の手を握る。あまり乗り気ではなさそうだからだ。逃がすわけにはいかない。
〇
……今日は空いてるわね……。
到着。ドアノブに手をかけ、一気に中へ。ここまで来たら問題ない。いつまでも和の手を握っておく必要はない。
「あぁ、涼風。それと……………………」
「葛城詩愛よ」
「葛城、葛城……………………。お、やっときてくれたのか」
「まぁね。本当は昨日来ていたんだけど、会長さん、いなかったから」
「それはすまなかった。生徒会の仕事が溜まっていてな。本来なら、こちらに顔を出すつもりだったのだが……」
「まぁ、そんなことはどうでもいいのよ。あたしがこうして今日も来てあげたんだから」
「ほぅ……………………。下手に出てみれば、会長に対して、目上の人間に対しての態度がなってないんじゃないか? 」
「はぁ!? あたしを誰だと思っているの? 葛城よ? 葛城詩愛」
〇
……葛城……?
「思い出した」
葛城。ここの学園長の名前だ。そして、その苗字を持ち得ているということは、今、和と一緒にやってきた詩愛という少女は、必然的に学園長の娘ということになる。
……厄介だな……。
恋は生徒会長だ。そして、詩愛は学園長の娘だ。どちらかというと、仲良くしておいた方が、自分を有利に動かすことが出来るだろう。そして、この部活も。そういう存在である。
「まぁ、いい」
「で、あたしを選んだ理由は? 」
「特にない」
「は……………………? 」
「理由はない。そう言っているんだ」
「はぁ………………………………………………」
適当に選んでしまった。その人となりを見ずに選んでしまったのだから、こういうことも起きてしまう。いけない。もう少し、きちんとした方が良かったかもしれない。でも、もう手遅れである。間に合わない。
「どうするんだ? 葛城は」
「入るわよ。仕方なく、ね」
「ほぅ。そうか」
……断らないのか……。
断られるかと、一瞬思った。だって、別に、詩愛である必要はないのだ。理由がないのだから。たまたまこうなっているだけで。和である必要もないことになる。
「し、か、た、な、く、よっ! 」
〇
……一件落着か……。
入口の近くで二人のことを遠巻きに見ていた和は、安堵からため息をもらす。
過程はなんであれ、部員が増えた。こうあの封筒が来た時点で恋愛部に入部することが確定しているものだと和は思っていたが、どうやら違うらしい。少なくとも、拒否する権利はあるようだ。もちろん、和にはそんなものはなかったが。
「キミはいつまでそんなこところにいる? さっさとこっちに来たまえ」
「あ、はい」
恋と詩愛。対立関係が生まれてしまっているように感じる。
生徒会長か学園長の娘か。権力があるのはどっちか。もちろん、前者だ。この部活を作ったのも恋なのだから、上に立つのは恋だ。先輩という面を考えても、和は玲奈には逆らえそうにない。逆に、詩愛に対してそういうイメージはあまり湧いてこない。
恋には、間違いなく行動力がある。生徒会長になり、そして、この恋愛部を作る行動力が。明らかに、メインは恋となる。詩愛がどうか分からないが、今のやり取りを見ている限り、詩愛が恋に突っ込みをいれる部分が出てきたりするだろう。和はそう思う。何かと対立しそうな二人だからだ。
「はぁ……………………」
ため息が自然と出てしまう。
「どうかしたのか? 」
「いえ、なんでもありませんよ」
そう。和が頭を悩ませるようなことではない。気にしなくていいだろう。




