役目
愛がいる。和の隣にいる。
ただ帰るだけならばそうはならない。愛が住んでいる寮と和が住んでいるが違うからだ。それなのに、二人は同じ方向に向かって、同じ歩幅で歩いている。
「来てどうするんだ? 」
「いつもと同じっす」
特に何かをする必要はない。しようとも思わない。幼馴染みだからか、一緒にいることが普通になってしまっている。一緒にいれるからといって特別に何かをしようという発想は、今の愛にはない。
……ふっふー……。
「あ…………」
「どうした? 」
……思い出した……。
「日曜のこと、覚えているっすか? 」
「日曜日……? 」
「そうっす。あたしと遊んでくれるって」
「あぁ、そのことか」
「今で大丈夫……………………? 」
「まぁ、構わないが」
「ありがとっす。和お兄ちゃん」
……なら……。
「買い物っすよー!!!! 」
和の手を握る。強く。主導権は愛にある。真李ばかりに和を取られてはたまらない。
〇
愛につれられてきた場所は、いつも和や愛、そして真李が使っている大手のスーパーだ。夜九時が閉店時間なので、部活をしていて寮住まいの生徒には重宝されるスーパーである。
「夜ご飯、よるごはんー」
和の手を握って離そうとしない愛。昔と何も変わらない。幼稚園や小学校の頃から、愛はこうだった。和をひっぱる。だから、和はもう慣れている。
「愛」
「んん? なんすか? 」
「お前、料理出来るようになったのか? 」
「ふふー、聞いて驚くといいっす」
和がそう聞くのにはもちろん理由がある。こうして和が高校生になって寮に住むようになるまでは幼馴染みで隣同士に住んでいたのだから、もちろん、愛の素性を知っている。料理が壊滅的に下手であるということも。
なんどか作ろうとしてくれたこともあった。教わって上手くなろうとしていた時期があった。和も手伝ったりもしたが、愛の料理スキルは全く上達しなかった。
「全然! 出来るようになってないっす!! 」
「………………………………………………………………………………………………………………」
……はぁ……。
ため息をつきたくなってしまう。
「ヤル気はあるんだな? 愛」
「もちろんっすよ? あたしを誰だと思っているんすか? 」
ヤル気だけはある。いつものことだ。でも、それだけだ。結果が追いついてこない。
……まぁ……。
それは去年までの話だ。去年までの愛だ。この一年、和が高校生としての一年を過ごし、愛が和のいない中で過ごしたこの一年が、愛にどれほどの影響を与えどれだけ変化させたのかを、和は期待している。
それは、ちょっとだけ楽しみなことだ。
〇
「はぁ……………………」
「お疲れ様ですっ! 会長さん! 」
「あぁ……………………」
……疲れた……。
完全下校時間をむかえた。もちろん、生徒会長である恋も、学校から出て自分の家にへと帰らないといけない。
「悪かったな。付き合わせて」
「いえー。私も副会長ですからぁ」
「会長を手伝うのは当然、か? 」
「はいっ」
「そうか」
副会長である桜花と一緒に、校内の最終チェックを行う。生徒会室の戸締りはもちろん、その他の教室全てをチェックする。これは生徒会内で当番が決まっていて、その曜日の担当者がやることである。今日は、恋の日である。
「これで最後だな」
「ですね」
確認を終え、生徒会室の鍵を職員室に返す。これで、今日のお仕事は終わりだ。
「明日は、構わないか? 」
「恋愛部に行っても、ですかぁ? 」
「あぁ」
「良いですよぅ。今日、たくさんやってもらいましたから」
「助かる」
二日も行けないとなると、ちょっと困ってしまう。部長なのだから、部の現状を把握しておきたい。相談者がくる可能性だってある。自分がいない間に初の相談者が、なんてことになってしまうのはよろしくない。さすがに。
「それじゃぁ、会長さん」
「あぁ、またな」
「はい」
帰り道は違う。正反対だ。
〇
「んもぅ、会長さんったら」
たまには一緒に帰りたいと思ったりもするが、帰る先が全く違うのでかなり厳しい。桜花が遠回りをする必要があるが、それは桜花的に少々辛いところがある。
「んっ、はぁ………………………………。つっかれたぁ…………っ!! 」
歩きを止め、大きく伸びをする。長く。ずっと座っていたからか、ちょっとだけ背中が痛む。マッサージ。帰ったらやっておかないと。
「恋愛部かぁ…………………………」
先週まではかなり話題になっていた。会長があのように大々的に発表をしたのだ。数日を経て今は落ち着いているが、副会長であるという理由で、友達から質問攻めにあったりもした。副会長になったばかりだというのに、そんなことが分かるわけがない。そもそも、付き合いがほとんどないに等しい。分かるわけがない。
「私には関係のない場所だなぁ……。はぁ……」
恋愛。青春。そんなものとは無縁である。
高校生活も二年目になる。高校生という立場にも慣れてきた頃であり、友達の間でも、彼氏がどうだ、とかいう話をだんだんと聞くようになってきた。
「気にしないでいっかぁ…………」




