幼馴染み
「はぁ……………………」
何分待っても誰もこない。つまらない。生徒会長が、恋がいないのであれば、わざわざ詩愛がこの恋愛部の部室に足を運んだ意味がない。
無駄なことをしてしまった。時間がもったいない。
「あたし、帰る」
「え……………………? 帰るのかよ」
「なんか文句ある? あっても言わせないけど」
「ないが……………………」
ここまで。鞄を持ち、外に向かう。さっさと帰ろう。
「じゃぁ、また」
明日。明日ここに来るかどうかは分からないが。一回は、恋と話をしておきたい。詩愛を指名した理由。恋愛部のメンバーにしようと思った理由を聞いておきたい。
「あぁ。また明日」
……はぁ……。
変な繋がりが出来てしまったような気がする。あまり作りたくはない。自分のためになる、そういう人間関係なら作りたいと思うが、それを、この高校で作れるとは思わない。
親が学園長をしているというだけで、この学園に通っていることに、自分の意思はない。それが問題なのかもしれないが。
〇
たったったー。
いつも通り、軽快に、元気よく階段を駆け上がる。向かう先は、当然、恋愛部。和がいる、幼馴染みがいる部室である。
「あれ……………………? 」
一人の生徒とすれ違う。見たことのない生徒。一つ年上の女の子。
愛が向かっているのは恋愛部。今すれ違った女の子は、その恋愛部がある方向から来た。少し頬を膨らませていた。イライラしていた。愛はそんなイメージを受けた。
「…………いっか」
そんなことを気にしてる場合ではない。和だ。和お兄ちゃんだ。知らない人のことはどうでもいい。
「おはよーっす。和お兄ちゃん!! 」
「あれ? 愛? 」
思っていたのとは違う反応が返ってきた。
「むー、その反応はなにかなー。和お兄ちゃん」
突撃。座っている和の元に突撃する。やー、やー。
「やめろ。今日バイトじゃなかったのか? 」
「今日ではないっすね。あたしは明日。今日なのは真李じゃないっすか? 」
「あぁ、真李か……。来るの遅いから、どっちもそうだと思ってたわ……………………」
そう。遅かった。すぐに来ようと思っていたのに。出来なかった。引き止められてしまったから。
「用事があったんすよー」
断ることは出来なかった。あまり、そういうことはしたくない。それが自分に出来ることであるなら、尚更、その気持ちは強くなってしまう。仕方ない。身体がそういう風に動いてしまう。
「そうか」
「そうっす」
和から離れる。自分の椅子をもってくる。座る場所は和の隣。当然である。二人きり。二人きりじゃなくても、和の隣は愛のものだ。幼馴染みの特権。慣れた距離感。昔を思い出せる距離感。
「あ……………………」
「どうしたんだ? 」
「誰か来てたっすか? 今日」
「あぁ、うちのクラスのやつ」
「やっぱり……………………。相談しに来た、ってわけではないっすよね? 」
想像はつく。
「そうだな」
……ということは……。
さっきすれ違った人は、恋愛部のメンバー。お仲間、ということになる。
「何で帰っていったんすか? 少しお話したかった……」
「分からない……………………」
「え……………………」
「言ってくれなかったんだよ」
「あぁ……………………」
あの表情の意味を知る。
「多分っすけど、会長さんがいなかったから、じゃないんすかねぇ……………………」
「あー、それあるかもな」
恋と話をしておきたかったのだろう。無理矢理といえば無理矢理、恋愛部に誘われているのである。愛的には和がいるから良かったものの。いなかったら、なんてことは考えたくもない。
「そういえば、今日いないんすね」
「珍しくな。毎日来てたのに」
「会長さん」
「仕事かな。葛城さんも言ってけど」
知らない名前が出てきた。聞かないと。
「さっきの娘の名前? 」
「うん。葛城詩愛」
「覚えておくっす」
次は挨拶をしないと。やりやすくなった。次にいつ来てくれるかはちょっと分からないけれど。
「何するっすかー? 和お兄ちゃん」
「どうする? 」
「質問に質問で返さないで欲しいっすよ。和お兄ちゃん」
「すまんすまん」
特に、することは何も無い。別にそれは、恋がいてもいなくても変わらない。相談する人がいなければ、基本的には暇だ。そういう部活だ。恋が作ったからこそ続けることができる部活なのだろう。そう思う。
「おうちに、帰るっすか? 」
最終下校時間まで、ここでゆっくりとしている必要もない。どうせ、今は、和と愛しかいない。それなら、和の部屋に戻っても同じことである。なんら、変わりはない。なら、後者の方がいい。その方が邪魔は入らない。




