いつになったら
恋は、いつもより大きく、そして早く、足を前に動かす。和を誘ったのは恋なのだから、目的地の場所まで先導するのも、もちろん、恋だ。
……ふぅ……。
和の足元に目をやり、距離が開かないように、ペースが遅れないように心掛ける。歩くスピードが遅いと自分で感じたことはないが、こうして和と比べると、身長差もあり、どうしても、遅いと思ってしまう。
「そうだ」
「なんですか? 」
「どんな店がいい? キミの要望を聞くのを忘れていた」
「先輩が決めていいですよ」
……む……。
「それでは困る。私が選んだ先の店で、キミの嫌いなものがあったりしたら、少し申し訳ないからな」
だから聞いておきたい。両方の好みに合うような、そういう店を選べたら文句はない。
「あぁ、そういうのなら無いので大丈夫ですよ。基本的に、嫌いなものはないので」
「好き嫌いがないのか? 良いじゃないか」
「そうですか? 」
「あぁ」
恋は辛いものは嫌いだ。甘いものがいい。
「だから、千都先輩が行きたいと思ったお店で大丈夫です」
「そうか」
「はい」
「助かる」
……なかなかだな……。
そういってくれるのはありがたい。本当に。
「どこにしようか………………」
といっても、答えがすぐに見つかるわけではない。昼食。昼ご飯。これがお菓子とかそういうのであれば簡単に選ぶことができるのに。そう上手くはいかない。
恋と和は、ホームセンター近くにあるショッピングモールに移動する。その移動途中でも探していたが、なかなか見つからなかった。
「ここなら、何か見つかりそうだ」
食欲を刺激してくる。そんな匂いが流れ込んでくる。その匂いが、この先には様々なお店があることを知らせてくれる。選択肢は多そうだ。
「余計、お腹が減ってきました」
「私もだ」
はやく決めようか。迷うのはそろそろやめにしよう。
〇
「蕎麦か……………………」
うんうんと唸っていた恋が、はたと足をとめる。その視線の先、そば処、と書かれた看板があるお店があった。
チェーン店などではなく、家族で営んでいそうな雰囲気が漂っている。
「ここで構わないか? 」
「はい」
ちょうどいいだろう。久しぶりに食べてみるのも良いと思う。
「分かった」
〇
暖簾をくぐり、店内へ。
ポツポツ、お客さんがいる。だが、自分達のような、若者は、子供はいない。年配の方がほとんどだ。昔から営業しているお店なのだろう。そういった雰囲気がうかがえる。
ちょっと古びた雰囲気。嫌いではない。落ち着ける。良いことだ。
「カウンター席へどうぞ」
対面の席ではなく、カウンターへ。多人数ではなく、二人だからだろう。
恋、個人的には、こっちのほうがありがたい。対面が嫌いだとか、駄目だとか言うわけではない。今、この関係性、進展させるためには、横に並ぶことができるカウンター席が向いてる、それだけのことなのだ。
「ほぅほぅ」
メニュー表が渡される。それほど多いわけではない。多くても悩んでしまうだけ。この方が決めやすいものだ。
〇
「今日は付き合ってくれて感謝する」
「いえ。こちらこそ」
一時過ぎ。モール内を動く人数も増えてきている。邪魔にならないように端に。
「また明日、だな。涼風」
これにて、今日の予定は終わりだ。欲を言えばもう少し時間潰しに付き合ってほしいが、これ以上拘束するわけにもいかない。自分でなんとか。
「はい。ありがとうございました」
和が一礼する。
……うむ……。
恋は思う。出だし、無理矢理な理由で恋愛部に誘ったが、関係性は良好といえる、と。
必要なことだ。恋愛部。他人の恋愛の相談にのる。こちら側が相談にのれる状態にしておかないといけない。内部で軋轢があれば、まともにはできないだろう。それでは困る。
……まぁ……。
和以外の人選に関しても、適当だったのだが。
それを象徴するように、まだ来ていない人がいる。真李と愛。それ以外、まだ来てないのだ。自分がいない時に訪れた、ということでもないらしい。相談者もまだだ。
「来週には……………………」
全員揃ってほしいと思う。
運営人数に関していえば、今でも問題はない。でも、それでは、恋を含め八人にした意味がなくなってしまう。