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キミのとなりの青春事情  作者: 乾 碧
Prologue〜恋愛部〜
1/19

キミに拒否権はない!

 「私は…………………………っ!!」


 壇上にいる少女は、マイクを通じて、その自分の声を大きく震わせる。キーンと、マイクが悲鳴をあげているが、少女は全く気にしている様子はない。


 「千都(せんと)(れん)は……」


 その少女の隣にいて可愛らしく耳を押さえていた学園長が、下にいる教師たちに音量を下げるように指示する。二回目には間に合ったようだ。


 「ここに」


 連続で来る。


 (ふふふ)


 にやり。

 少女が微笑んだ。明るく輝いた笑顔を振りまいている。


 「恋愛部の設立を宣言する!!」





 「わ………………っ!!?」


 うとうとと、話を全然聞いていなかった涼風(すずかぜ)(かず)は、突然の大声に身体を大きく揺らす。


 (なんだ? なんだ? びっくりするなぁ…………)


 辺りを見渡して見ると、皆の視点は一点に集中していた。壇上。そこに立っている少女に。


 千都(せんと)(れん)。この学園、思蓮(しれん)学園の生徒会長であり、今、皆の注目を集めている少女の名だ。


 「あぁ……………………」


 和は思い出した。今日は、新生徒会長が決定する日。


 この学園では、新学期が始まって二週間後のこの時期に、新しい生徒会長が決まる。よって、新入生に投票権は無く、新二年生と三年生の投票から選ばれることになっている。新入生からしてみれば、なんとも言えないものとなってしまっている。でも出席しないといけないわけで、新入生は、かなり退屈な時間を過ごすことになってしまう。


 和はもう、二年生だ。だから、関係はある。が、投票はしていない。担任が口うるさく言っていたのは覚えているが、単純に、忘れていた。それだけのことだ。咎められるようなことでは決してない。


 「恋愛部、ねぇ………………………………」


 隣から声がする。だが、和にまた、眠気がやってくる。


 (寝るか…………)


 重要なことではない。和にとっては。投票をしていないのだからあたりまえだ。集会が終われば起こしてもらえるだろう。座っているのはパイプ椅子。ぐっすりも出来ないし、先ほどの声で目が覚めてしまうほどの浅い眠りだ。


 例えなていたとしても、全く、問題はない。





 (ほほぅ………)


 生徒会長としての挨拶を終えた恋は、道中から気にしていた一人の男子生徒に目を向ける。


 (寝ているとは……)


 生意気なやつだ、と恋は思う。せっかく話をしているのに聞いてないのだから。見渡す限り、寝ているのはこの一人。何かしらの罰が必要だろう。


 (何をしてやろうか)


 生徒会長になった今、学園に迷惑をかけない程度の事であるならば、恋は何をしても良い。そういう立場に恋はいる。獲得することに成功した。やっとだ。一年待った。


 「千都さん。もういいですよ」

 「はい、承知しました」


 恋より少し背が高いくらいの学園長。見た目は完全に自分達と何も変わらない。高校生に見えてしまう。これでこの学園を仕切っているというのだから分からない。


 解散の合図が既に出ている。授業はない。恋のために開かれたこの集会だけが、今日の必要なことであった。後は自由。帰る人、部活に行く人、人それぞれだ。恋はもちろん。


 (後者だ)


 だが、先に一つ、しておかなければならないことがある。


 壇上から降り、向かう先はただ一つ。


 「ちょっと、涼風君。起きてよ」


 寝ている男子生徒を起こそうとする、女子生徒。


 (いや、違うな…………)


 その中性的な外見から女子だと判断した恋だったが、それを一瞬で振り払う。何故なら、その子は男子用のズボンをはいているから。スカートではない。


 「あ…………………………………………」


 目の前に。起こすことに夢中になっていたのか、二人の前に出るまで気付かれなかった。影が薄いというわけではない。


 「どうも」


 軽く、挨拶を。


 「君の名前は? 」

 「……………………涼風です。涼風沙織(さおり)


 (おや……?)


「こっちも涼風と言ったな? 兄弟か?」


 それにしては似ていない。


 「い、いえ……。そういうのではないです。実は、親戚、とかでもないんですよ。あはは……」

 「ほぅ」


 たまたまかぶってしまった。そういうこと。


 「それで……………………?」

 「ん?」

 「僕達に……、何か用です…………か……?」


 (達、ではないな)


 本当のことを言ってしまえばそうなる。恋が気になるのは、この状況でも寝ているもう一人の涼風のほうだ。沙織の方には、片方に声をかけるまでの前準備に過ぎない。


 「そうだな。では、まず、こいつを起こすとこからはじめようか」





 「……………………んっ……あ……………………?」


 (会長じゃん…)


 呼ばれているようなそんな気がした。


 目の前にいる。こちらもじろじろと見ている生徒会長がいる。


 「ホントに君は……………………」

 「涼風君ってば………………」


 和は首をかしげる。沙織は分かる。起こしてくれたのだろう。友達だ。学園に入って最初に出来た友達だ。理由は簡単。名前が同じ。ただそれだけだ。だがしかし、問題は会長の方にある。ここで何をしているのだろう。どうして、和の目の前に立ち、こちらをジロっと睨みつけているのだろう。


 (ちょっと怖い)


 「ふふふふふー」


 にやりと笑った生徒会長。その右手が上にあげられ。


 「べしっ!」


 和の頭に直撃した。


 「っった…………」


 (いきなり)


 「どうだ? 目が覚めたか?」

 「それは…………まぁ……」


 そんなことは横に置いておきたいほど、和の中に、怒りの感情が込み上げてきていた。だからといって、その感情をそのまま会長にぶつけたりはしない。もう一度やり返されるのが目に見えている。


 「ぐっすり寝ていたな。周りを見てみろ」

 「……………………終わってたのか」


 体育館にいるのは自分と沙織、そして生徒会長の三人。学園長や他の先生すら残っていない。生徒会長がこうしてここに残っているからだろう。信用の度合いがうかがえる。


 完全には目が覚めていない和だが、それくらいのことは分かった。


 「君は、私の話を聞いていたか?」

 「え……?」

 「聞いていなかったのだろう? 君が寝ていたのは知っているぞ? こちらからもバッチリ見えていたからな」


 言い訳を考える方向に、和の頭がシフトする。悪い癖。


 「恋愛部が……………………どうとか……」


 正直、そこしか覚えてない。何をする部活なのか、までは覚えていない。頭に残っているのは、その三文字の言葉だけ。


 「ほぅ……………………」


 生徒会長がまた笑った。


 「そこだけは聞いていたようだな」


 和は息をもらす。難癖をつけられるかもしれない、と思っていたから。その予想は外れた。


 「君には入ってもらう。恋愛部に、な」

 「は……………………?」

 「当然だろう? 寝ていた罰だ」

 「いやいやいやいや」


 当然、和は、首を横に振る。何回も、何回も。


 「もう決めたことだ。この学園では、最低二人いないと部活として申請できないからな。だから、君は必要だ」


 生徒会長の言葉は続く。


 「私の話の全てを聞いていなかった君に、拒否権があるとでも思っているのか?」

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