魔女と使い魔2
「子供って、どうしてこう甘いモノが好きなのかしら」
エルルの店の新作チョコレート菓子「三層のチョコレートケーキ」
その甘ったるいにおいを嗅いで
「うっ、気持ち悪い」
マノアは眉を寄せた。
古城へ戻るなり、人間の気配を感じ取る。
「人間を招き入れるなんて、馬鹿なの?」
鞭を片手に、ゼレトを威圧。
「だって、困ってるみたいだったから」
壁際に追い詰められ、ゼレトは小動物のように萎縮。
「はぁ……」
マノアは額に手をあてると
(よく考えれば、私の領域に人間が迷い込むなんておかしい)
誰かが、意図的に入り込ませた。
「性格の悪いやり方だわ」
♦︎♦︎♦︎
マノアは奥さんの状態を診察すると
「これは、魔女の力でも無理です。馬車を用意しますので、お帰りください」
「いい加減なことを言うな!!」
男は声を荒げる。
「魔女は、不老不死だろう。その力を、独占するつもりか」
本当に人間は面倒な生き物だ。
「別に、独占してるつもりはないわ」
男は頭を抱え
「ああ、教皇様……教皇様さえ居てくだされば」
どうして死んでしまったのか、と嘆く。
その言葉に、マノアは眉を寄せる。
「……まあ、別に方法がない訳じゃないわ。ゼレト、来なさい」
「はい、マノア様」
使い魔をそばに呼ぶと、マノアはナイフを取り出す。
そしてーー
ゼレトの首を切り落とした。激しい血飛沫が床と、マノアに飛び散る。
「ひっ」
突然の凶行に、男は顔を強張らせた。
「あーあ、これは洗濯しても落ちないわね」
床に転がったゼレトの頭を持ち上げ、切断面を黒衣の袖で隠すように元にもどす。
「ひどい、痛みはあるのに」
再び動きだしたーーゼレトを前に
「ば、化け物だ。お前らは、イカレてる」
怯えながら男が言った。
「これが、あなたの求めているものよ」
魔女は冷たく言い放った。
♦︎♦︎♦︎
「結局、帰っちゃいましたね」
マノアが買ってきたチョコレートケーキを食べながら、ゼレト。
「人間なんて、あんなものよ」
マノアは溜息をつくと
「服を着替えてから、食べなさい。血がついて見っともないわ」
これしか持ってないんです、とゼレトが言った。
「……何かと、町に行きたがるわね」
そう言って踵を返すと、談話室へと向かう。
ソファーの上でくつろいでいる黒い狼を見て
「性格が悪すぎではありませんか?」
「ククッ、人間の欲を図っただけのことだ」
低い声で、黒い狼が答える。
「どこまで、信用してよいのやら。用件は何かしら?」
マノアは肩を竦め、対面のソファーに腰を下ろした。