魔女と使い魔
メンネフェルト王国。北の古城には、青の魔女が住んで居る。
「マノア様、今日は町に薬を納品する日ですね」
ソワソワと落ち着きのない使い魔の少年を見て
「無駄に元気ね」
黒衣の美女は、溜息をついた。
「実は、新作のチョコレート菓子が」
「ゼレトを連れて行くなんて、一言も言ってないわ」
「まだ、最後まで言ってないです」
頬を膨らませるゼレトに
「城の掃除と洗濯。サボったら、お仕置きするわよ」
そう言って、マノアは場車を走らせた。
「この薄情魔女」「貧乳」「魔女のくせに白パンツ」と、背後でゼレトが叫ぶ。
マノアは近くにあったバケツ魔法で浮かせ
「うるさい」
ゼレトの頭に被せておいた。
♦︎♦︎♦︎
「納品が済んだら、さっさと帰ってくれ」
そう言って、店主は金の入った袋を床に置いた。
怪しげな薬を作る魔女の扱いは、だいたいこんなものだ。
(別に、仲良くなりたいわけではないけれど)
棚に調合した薬を入れ、マノアは店の外へと出る。
「都合のいい時だけ頼って、人間って本当に面倒ね」
「ねぇ、エルルの店行こう」
「新作のチョコレート菓子、美味しそうだよね」
女の子たちが掛けて行った。
「お菓子……」
ゼレトの言葉にを思い出し、マノアは溜息をついた。
「私も甘いわね」
♦︎♦︎♦︎
「いっつも、掃除に洗濯。その他、雑用」
僕だって町に行って遊びたい、とゼレトは呟いた。
溜息をつきながら、窓の外に視線を向ける。
「あ、狼だ」
山の方から降りて来たのだろう。
自然とゼレトは、外に出て黒い狼の後を追った。
「見失った……せっかく、捕まえて飼おうと思ったのに」
不貞腐れながら、石を蹴り上げた。
「あの、ここに魔女が居るんですよね」
髭を生やした中年の男。そして、その背中には具合の悪そうな女性。
夫婦だろうか。
「あ、歩いて登ってきたの?」
凄い根性、とゼレトは目を丸くした。
「この薬では、妻の病気を治すことはできない」
男はそう言って、マノアが調合して町に納品している薬ミルラの瓶を見せた。
「そう言われても、僕は使い魔だから……」
ミルラでも回復できない病となると、この人の奥さんは長くないのかもしれない。
ゼレトはそう思いながらも「もう少ししたら、マノア様が戻って来ます」と伝えて夫婦を古城中へと案内した。