第3章 事件発生
遅くなりました!!
「あー疲れたー……」
俺は軽く肩を揉みながら呟いた。隣にいる渡は涼しい顔をしながら、軽く溜息をついて言う。
「あれだけ動いたらそりゃ疲れるだろうな」
「渡も動けよ。ずっとキーパーばっかりやって、最小限にしか動いてないだろ」
「運動は苦手だから。熱中症になる可能性も考えないで好き勝手に動き回る、自分の体調をよく考えていない誰かさんとは違って、僕は客観的に自分を見てるんだ」
「へ、へぇ〜。ちなみにその誰かさんとは誰のことなのかなぁ〜?」
眉をひそめながらにっこり笑って聞くと、
「さぁ?誰のことだろうな?心当たりある?」
と、これまた綺麗な顔でにっこり微笑んで聞いてきた。
……目があまり笑ってないから怖いんだよ。
今は6月。夏の直前期のはずなのに、既に夏のような温度だ。そんな中でのサッカーは正直拷問に近い。
体育教師は「あと2回ほどサッカーをしたら水泳をする」と繰り返し言い、だらける生徒達をなんとか励ましていた。
その言葉を鵜呑みにして全力でサッカーに挑んだ数人のうちの一人が俺だ。
「せっかくだから全力でやった方が楽しいじゃん」
「…本当に高校生の発言かそれは?」
「どういう意味だよ!」
そんな会話をしながら、渡と教室に向かう。既にほとんどの奴らは着替え始めていた。俺もとっとと着替えてさっぱりして……
「あ!!!」
突然大声が聞こえた。
声がした方を向くと、後ろの方にいた男子が何やら慌てている。
渡がそっと近づいて来て、
「彼は…隣のクラスの人だな?」
「ああ…どうしたんだろうな」
うちの学校は、体育は2クラス合同で男女別に行われる。着替えも男女片方ずつクラスに分かれて着替えることになる。
にしてもさっきから鞄を漁ってばっかりいるな。誰も声をかけず、どうした?と目線で問いかけていただけなので、俺は直接聞くことにした。
「おーい、どうしたんだ?」
すると彼は俺を見て、今にも泣きそうになりながら答えた。
「財布が………ないんだ!!」
えっ、と周りの奴らが驚く。渡も少しばかり目を見開いている。
俺は廊下をちらっと見てから、
「えと……話は聞くからさ、とりあえず着替えを終えようぜ。女子から遅いと文句を言われるのも嫌だろ?」