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教室に花爆弾(中編)

作者: ふみ

早く大人になって、こんなところ抜け出したい。


本当にうるさくて、めんどうなバカばっかり。


性欲むき出しで寄ってくるバカ。自分をかっこいいと思って、自信満々によってくるバカ。

そのバカの動向にいちいち一喜一憂して、つっかかってくるバカ女。

無関心を装って、でも興味津々にぶつけてくるたくさんの視線。

心配そうな猫なで声で事情を聞き出して、あとで話のネタにする狡猾なバカ。

ばかばかばかばか。

本当にバカばっかり。

もううんざり。


自分の部屋で、ベッドに寝転がって、長い溜息を吐く。

午後10時57分。

時計を見て、わたしはガバッ、と起き上った。

慌てて部屋のドアをそっと開ける。階下の物音が聞こえるように。

タイミングを見計らったように玄関のドアが開く音がした。「ただいまー」と間延びした兄の声、そして続く、「おじゃまします」という、低い声。あのひとの、声。


二人はまず、リビングに向かうはずだ。急いで髪を整え、唇にリップを引く。今着ているのは、Tシャツとショートパンツ。白とグレー。本当は、もっと可愛い格好に着替えたいけれど、こんな夜におしゃれするのも変なので諦める。ざっくりした薄いピンクのカーディガンを羽織り、階段を降りた。


リビングのドアを開けると、いた。

わたしに気づいて、目を細めて微笑みかけてくれる。

「こんばんは、あやこちゃん」

「…こんばんは」

人懐っこい、大型犬のような笑顔。相変わらず眩しくて、優しい笑顔。



彼は、兄の友人で、木戸さんという。

わたしの3歳上で、兄とは中学校が同じだった。兄と同じ高校に通っていて、同じ部活。

我が家が引っ越してから、家が近所になったため、最近はよく遊びに来てくれる。

そんなに多くは話せないけど、同じ家にいると思うだけで、心が温かくなる。


「綾子、涼さんからお花を頂いたのよ、きれいでしょう?」

涼さんとは、木戸さんのお母さんだ。何度かあったことがあるけれど、さっぱりとして、おもしろい人。母ともとっても仲よし。


言われて、わたしは母が抱える花束を見た。

小さな愛らしい花は、赤、白、ピンク、オレンジ。色とりどりで可愛らしい花束。

とても素敵な花束だが、それを見た時、胸に痛みが走った。

それは、今日、わたしの机にのっていた花だったから。

嫌な思い出が、一瞬よぎった。


「…きれい」


なんとか、感想を言うことが出来た。笑顔がちゃんと作れているか、自信がなかったけれどもともと、わたしの表情は乏しい方のようなので、母も兄も、あまり気にしない。痛む胸を押さえて、きれい、という言葉を出してみると案外、すぅ、と何かがおちたように、心の底から、可愛いと思えた。可愛い。この花は素敵だ。


「庭に咲いているガーベラなんだけど、喜んでもらえたみたいでよかった」


木戸さんは笑う。素敵な笑顔。素敵な花。

…そう言えばあの花を用意しているのは、教室の花係だ。

たしか、楠野さん。

園芸部で、いつも育てた花を活けてくれていた。

彼女の育てた大事な花を、私は床に散らした。

バカがバカな行為をして、かっとなったとはいえ、彼女には悪いことをした。

あの花たちも、こんな風に、人の心を華やがせるために活けられたかもしれないのに。



明日、楠野さんに謝ろう。


美しい花を散らせたお詫びに。





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