国会議員
私は国会議員の吉岡晴香30歳。地元からの根強い支援があって、衆議院議員に当選した。ちなみにこの仕事は始めたばかりだ。
そもそもの選挙出馬のきっかけは父が衆議院議員だったこと。そして父が高齢になったので、代役として私に立候補の機会が訪れた。それまでは、父の口ききで入社した土木会社にて事務の仕事をしていた。
というわけで今日も国会で会議。話の焦点は私の地元に高速道路を作るかどうかだ。
「財政削減が叫ばれている中、なぜこのような人の少ない場所に高速道路を作る必要があるのですか?」
いつもと同じような質問に、私はいつもと同じ事を言う
「高速道路がないから人が少ないんです。」
そしていつも同じ返事が返ってくる。
「だから人が少ない場所に高速道路を作っても誰も利用しないでしょ?」
さらにいつもと同じ事を繰り返し伝える。
「いえ、高速道路がないから人が少ないのであって、道路が出来て産業が発展すれば、人が増えて利用者も増えるはずです。」
私は40年前に作成された計画を手に持ち、話を続けた。
「当初の計画を見てください。ここに道路を作る計画があったじゃないですか。なぜ今まで作られていないのか、まさにこれは国民に対しての冒涜としか思えません。一度決めたことはやるべきです。国民の期待と信頼を裏切り続けているこの状況を打破するため、この会議は道路を作るか作らないかの話ではなく、早期の建設を実現するためにどうするかという前向きな話をする場ではないのですか?」
・・・要するに私は俗に言う道路族なのだ。
私を当選させてくれた地元民の多くは、土木関係の仕事をしている。道路を新しく作ることになれば、彼らに仕事が舞い込み、恩恵を受けることが出来るという流れだ。だからどんなことがあっても、私は地元に道路を作らなければならない。出来ればコストのかかる高速道路が望ましい。もしそれがたとえ誰も使わない道だとしても・・・。
「ふぅ、今日も終わった。」
議員宿舎に帰り、一人ホットティーを煎れ、テレビをつけた。ニュース番組で今日の会議が流れていた。私の発言シーンがしっかり写っていた。
そしてコメンテーターの発言はこうだ。
「40年前と今は状況が違いますからね。ましてや道路は維持費がかかりますから、作るだけでは終わらないということまで考えて欲しいものですね。」
そして高速道路建設予定地のビデオが後ろで流れ始めた。
正直言って山道もいいところだ。車は当然通らない。
そして地元民のおじさんにインタビューが及んだ。
「ここに高速道路が出来るって話知ってますか?」
「いやー知ってっけど、この道誰も通らないよ。ほら、ずっとまっすぐ行くと2軒住んでるでしょ、佐藤さんのおじいちゃんとかさ。けどおじいちゃんもう目が悪くなっちゃって車乗ってないみたいだよ。」
きっと国民のほとんどが私を敵だと思っているに違いない。
そう考えながら今日もベッドに入る。