第三惑星コンビニ
はるか上空で轟音が鳴り響いた。雲が浮かぶ暗い空が一気に照らされて、すぐに暗くなった。
目が覚めるとあたりは瓦礫の山になっていた。そして月が燃えていた。その周辺を無数の人工物の小惑星が漂っている。この頃は、ほとんど大気汚染で太陽が見えなくなっていたので私は月面に並ぶ都市の灯りを頼りにして日中を過ごしていた。しかし今となってはその照明は頼りない物となっている。
それに道路には、天空から降り注いだ残骸が折り重なって私の住むコンビニを包囲していた。奇跡的に裏山に守られていたコンビニも、半分天井が焼け焦げてしまっていた。
月へは多くの人々が移住していた。戦争の遺産を数多く残していた地球に残る必要はなかった。ほとんど破壊され尽くされた東半球の大地は、台風の目のように、わずかに「まだ生きられる領域」を残していたが、それも限界だった。
私は親もなく、ボランティアの手で育てられ、他の孤児たちと共に移住船に乗るはずだった。私はその寸前で逃げ出してこのコンビニへと、たどり着いた。
あれから一週間と経たず内に、彼ら大多数の人類は消滅した。今、この地域の住人は私の他に誰もいないだろうなと思った。
コンビニの冷蔵庫はまだかすかに動いていた。バッテリーがまだ地下のどこかで生きているのだと思った。私は棚から水のボトルを取り出し、焼け焦げたカウンターに腰を下ろした。
外の空気は金属の匂いがした。静寂の中で音を立てて月の燃えかすが時折、流星のように降ってくる。
すると、金属がアスファルトの地面を踏む、規則的な音が聞こえてきた。
コンビニの瓦礫の裏から、錆びたロボットが現れた。
ほとんど腕は溶けており、曇ったレンズが赤く瞬いていた。
「生存者、確認。……応答、要求。」
その機械の声は、人間の言葉を模倣していた。
私はしばらく黙っていたが、ついに答えた。
「月から来たのか。」
沈黙。
ロボットは短く電子音を鳴らし、うなずくように頭を下げた。
そして周囲の瓦礫を見回しながら、ゆっくりと告げた。
「この地域における……生体反応、ゼロ。
観測範囲、半径百十七キロメートル。」
私はそうだろうなと思った。
ロボットの躯体から伸びたケーブルが、コンビニの壁を這っていた。
その先は冷蔵庫のコンセント。どうやら、この機械が自らの電力を削って冷気を保っているらしい。
理由はわからない。けれど、私は深く考えずにプラグを引き抜いた。
パチン、と乾いた音。瞬間、蛍光灯が一度だけ明滅して静まり返った。
ロボットは反応しなかった。
私はそいつを背にして、棚の奥へと歩き出す。
賞味期限の文字はもはや読めないが、菓子パンの包みを探す手は止まらなかった。
床の汚れは昨日よりも濃く、足跡が乾いた泥のように残っている。
その後ろを、金属の脚が低いモーター音を響かせながらついてくる。
カウンターへ戻ろうとしたとき、ロボットが道を塞いだ。
無表情な光学センサーがこちらを向く。
無言のまま、私はその脇をすり抜ける。
機械の外装がわずかに擦れ、冷たい感触が腕をかすめた。
背後でまた、モーターが回転を始める音がした。
ロボットの電力がまだ生きているなら、と思いついた私は棚にあるラジオを取り出した。
そしてそれをロボットに繋いだ。
ラジオに電気が供給された。ザーッとノイズがなった。
しかしその僅かな隙間に人間の声のようなものが聞こえた。
「....こえますか.....生存者.......応答を........」
私は息を飲んだ。誰かが生きている。
ーーーーそう思いたい気持ちと、違うとわかっている気持ちで私は揺れていた。
急いでつまみを調節して聞き取れるようにした。
「この記録は....あなたがこれを聞いているなら....」
少なくとも、なんとしてもこちらが生きていることを伝えなければと、胸が高鳴った。震えていた。
私はロボットに言った。
「おい、このラジオの受診先に電波を、こっちが生きていることを伝えてくれ。」
ロボットは応答して静かに音を立てていた。 空に浮かぶ月の残骸はほとんど明かりを失っていた。
これを受信できるということは生きている人間がいるということだった。同時にその声は私をたしかに舞っている。ロボットの返事を今か今かと待った。ラジオからの音声はノイズがひどくなった。
私はたまらず立ち上がってロボットにこう言った。
「返事はまだか?」
ロボットがこう喋った。
「送信完了済。応答...なし。」
ラジオから音声が発せられなくなった。しばらく歪んだ音のあと、途中で再生が巻き戻った。
この声は誰かが残した音声だった。誰かが死ぬ前に残した、生存者への呼びかけ。遠いどこかで機械だけが動いている。
私はラジオのスイッチを切った。そして外に菓子パンの袋を放り投げた。店内は赤い光に照らされていた。
「他に生存者はいるのか」
ロボットは答えなかった。しばらくすると、またロボットは冷蔵庫の方に向かい、自身の電力をコンビニへと供給した。蛍光灯の照明がしばらくちかちかしたあと、きれいな色の電気がついた。
上空はすっかり真っ暗闇になり、コンビニの白い光が夜に溶けている。
じきにこの白い光が消えて、風が止まり、音が消える。
それだけが確かなことだった。
僅かな電力でこの宇宙に向けてロボットにメッセージを送らせた。
ロボットは送信を始め、赤い光を点滅させている。
上空の闇と瓦礫に囲まれたコンビニの中、私はその光を見つめながら静かに目を閉じた。




