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必理の匣  作者: 杉野凪
愚者の章
1/1

Rule1.戴冠

作者は口が軽いのです。

ゆえに、多くのことは語りません。

この作品を楽しんでいただければ幸いです。

それではどうぞ、ご覧ください。

僕はなんとも愚かであった。

僕はなんとも醜くくあった。

故に、人並みの生き方は認められなかったし、認められるべきでないとも思った。

だからこそ、僕はきっと()()()()()のだろう。

ならば、僕はその在り方に従おう。

だって僕は、こんなに愚かなのだから。

*******

『続いてのニュースです。先日、霊都内で獣の顕現が確認されました。その場に居合わせた霊騎士(クルセイダー)によって討伐されましたが、都市部が被害を受けました。また、国家を破壊するレベルと推測される規模の反応も確認されており…』


と、そこでテレビを消し、僕は玄関へ向かった。

「夕日〜、もう出るぞ〜。」

「はいは〜い。」

玄関で靴を履きながら、リビングに向けて声をかける。


僕の名前は鬼陽西人(おにび にしと)

特殊な教育機関が揃っている、霊都トウキョウのカイセイ学園特区に住む高校2年生だ。そして…

「はーい、お待たせ。お兄ちゃん。」

こちらは心戸夕日(こころど ゆうひ)

同じ屋根の下で生活している中学2年生の妹である。苗字が違うのは少々特殊な事情ゆえだが、きちんと血縁である。

「よし。今日体育あったよな?ジャージ持ったか?」

「だいじょぶだいじょぶ。心配性がすぎるぜ?マイブラザー。」

そうして、僕と夕日は家を出る。

ここ、カイセイ学園特区は、この世界に於いて、『詠唱術式(コマンドスキル)』と呼ばれる、所謂魔術に近い物の教育に力を入れている、かなり特殊な学園都市だ。僕と夕日は過去に両親を亡くし、2人で団地に移り住んだ。ここまで話したら、「高校生が2人分の家賃を払うのは大変なのではないか?」という疑問も出るだろう。その疑問については、学園につけば分かるはずなので、今は置いておこう。

「じゃ、行ってくるね。」

「あぁ、いってらっしゃい。」

そう言い、僕と夕日はそこで別れた。ゆっくりと歩き続け、やがて僕の通う学園が見えてくる。

さて、ここで僕の通っている学園について紹介しよう。


霊都立ウェイト学園。

僕が通っている学校の名だ。生徒である僕が言うのもなんだが、ここは全国的に見てランクの高い学校だ。学力の面では僕が死ぬ程努力すれば大丈夫だが、ランクが高いと学費も高い。ここで、先程の話に戻ってくる。先に結論を言うと、とある人が僕達に金銭支援をしてくれている。学園に来れば自然と出会えるだろう。

「…あっ!おーい!!」

と、頭上から、件の彼女の声が聞こえてきた。学園に入っていないのに、頭上から。

次の瞬間、空から僕と年頃の近い少女が降りてきた。

天使と見紛う程の整った顔。その顔は、活気に溢れた笑みを浮かべている。長いブロンドの髪はポニーテールに纏められている。そして何より目を引くのが、その身に纏った機械鎧(パワードスーツ)だ。白銀の鎧が、その神々しさを強調している。

「…今日もパトロールか?律儀だな、フォルは。」

「君だってすごく早く来てるでしょ!人のこと言えないぞ!」

フォルス・オラム。通称フォル。

先程言った、金銭支援をしてくれている、少々特殊な役割の国家組織、『円卓会議(マロリー・ラウンズ)』所属の『詠唱術式(コマンドスキル)』の使い手たる上位の霊騎士(クルセイダー)の少女である。この若さであるが、カイセイ学園特区内に限らず、広い範囲での権力者なのである。両親が死んだ時、保護してくれたのが彼女の知り合いであり、その後、僕達の身柄は彼女に引き継がれた。

「部活で来てる人、何人かいるね。ちょっと見てこうか。」

「部活には入らないって散々言っただろ。」

「そうだったそうだった、君には学園を成績トップで卒業する夢があるんだったね!!」

「その地味に分かりづらい捏造をやめろ!…はぁ、ったく…」

と、他愛のない会話をしながら、廊下を学園の校庭へ向かう。校庭で朝練をしていたのは、所謂サッカー部である。しかし、学園(ここ)のサッカーは一味違う。

支援(サポート)風の少年(ハヤテノゴトシ)!どけどけどけぇ!」

「…支援(サポート)言の葉紡ぎ(シェアシングス)。安達、長尾、止めるぞ!」

詠唱蹴球(コマンドサッカー)と呼ばれるその競技は、ルールで定められた範囲内なら、『詠唱術式(コマンドスキル)』を使用して良い特殊な競技だ。他にも、攻撃詠唱(アタックスキル)を使った弓道部や、学園特区にしかない部活である、生成詠唱(クリエイトスキル)を使った武装製作部などなど、様々な部活が存在する。

「…おぉ、鬼陽!…と、オラム卿も!朝からお早いですね!」

試合が終わるや否や、部員の1人がこちらに駆け寄って来た。

「よぉ、依田。お前も朝からご苦労さん。」

「おはよう、天貴君。」

依田天貴(いだ てんき)詠唱蹴球(コマンドサッカー)部に所属している、僕のクラスメイトだ。

「折角だし、教室まで一緒にいこーぜ!」

「わかった、わかった。よし、じゃあさっさと着替えて…」


ウゥゥゥゥゥゥゥゥウ__________


突如、学園内にけたたましくサイレンが鳴り響く。

『八王子区上空に獣の反応を捕捉。至急、出動可能な霊騎士(クルセイダー)は対処へ向かってください。繰り返します。八王子区上空に獣の反応を捕捉。至急対処へ向かってください。』

「…!仕事みたい。ちょっと出てくるね。」

「わかった。ほら、術式補助装置(オド・アシスター)。持ってっとけ。」

「ありがと。行ってくるね!」

そう言い、フォルは勢い良く空へ飛び上がっていった。

「いやー、最近何か増えたよな、獣の顕現。」

依田が言う。

そういえば、獣についてまだ説明していなかったか。

獣とは、そのままの意味では無く、特殊な存在に付けられた呼称だ。神代から存在していると文献に残る、絶対的な『人類の敵』である。不定期に、空間の歪みたる(ゲート)から出現し、その殆どは知性を持たない。それらの対処も、霊騎士(クルセイダー)の仕事である。上位の霊騎士(クルセイダー)には、討伐せずに、その力を従えている者もいるらしい。フォルもそうなのだろうか?

「何ボケっとしてんだ。ほら、さっさと中入るぞ。」

そう言われ、僕は学園の中へ入っていった。


「今回確認されたのは、《愚者》属の獣【ゴブリン】、【オーガ】が多数、そして《魔術師》属の中位種【バフォメット】が一体です。《愚者》属の獣はフォルス・オラム卿と霊騎士(クルセイダー)達によって討伐され、【バフォメット】は捕獲に成功しました。近いうちに適正調査が行われるので、ジャージを忘れないように。」

担任の言葉に、生徒達が各々答える。

「はぁー、中位種を捕獲かぁ。スゲェなぁ、オラム卿。」

「何人事みたいにいってんの。あんたも少しは見習いなさいよ。」

「そうだぞ依田。少しは怠けずに努力しろよ。だから毎回泉古(みふる)に叱られるんだぞ。」

依田と僕、そして友人の泉古里正(みふる りせ)は言葉を交わす。

「今日は実技からか〜。鬼陽、お前突き刺す振動(ユラギノヤリ)できたよな?頼む、教えてくれ!」

「全く、仕方ないな。」

答えながら、僕たちは体育館へ向かった。


あっという間に時間は過ぎ、放課後になった。依田と泉古は部活があり、今日は1人で帰っている。いつも通りの道を、ゆっくりと歩く。

「今日の夕飯は…そうだな、ハンバーグでも作ろうか。夕日も食べたがってたし。」

ぼんやりと呟きながら、ふと空を見上げる。

そこで僕は、()()()()に気が付いた。

「………(ゲート)…?」

獣の出現地点たる(ゲート)、その前兆と思しきものが空に浮かんでいた。フォルに連絡をしようとした所で、


〚_____Rrrrrrooooow!!! 〛


常世の物とは思えない、奇怪な咆哮が響き渡る。再び空を見上げ直す。そこには、


何kmにも広がった、超巨大な(ゲート)が口を開いていた。


「……………は?」

(ゲート)から、数えきれない程の獣が溢れ出す。余りにも現実離れした光景に、僕は立ち尽くしてしまった。しかし、学生であれど僕だって霊騎士(クルセイダー)の見習い。ならばすべきことは…

「…風の少年(ハヤテノゴトシ)!」

詠唱術式(コマンドスキル)を展開し、街に繰り出す。一瞬、夕日の元へ向かうことを考えたが、あいつはフォルの守護術式が入った護符を持っている。シェルターには間に合うだろう。

「キャァァァァァァッッ!!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

各地から、悲鳴と戦闘音が聞こえてくる。霊騎士(クルセイダー)や、僕と同じ学生達が獣と戦っているのだろう。

〚Boow,Boow!! 〛

と、そこで僕は《戦車》属の獣、【ブラックドッグ】が少女に迫っているところ発見した。

「いや…や、ゃめ…」

〚Aooowww!! 〛

無色の弾丸(シンプルバレット)!」

指の先から、白色の魔力弾が発射され、【ブラックドッグ】に命中する。ヘイトが少女から僕に変更される。

「僕が引きつけるから、早く逃げて!」

「は、はいっ!」

少女が駆け出すのを尻目に見て、僕は獣に向き直る。

〚Grrrrooor…〛

唸りを上げながら、【ブラックドッグ】がにじり寄る。続け様に、無色の弾丸(シンプルバレット)を当て続ける。何発も攻撃を喰らい、獣の動きが鈍っていく。

突き刺す振動(ユラギノヤリ)!」

手に、槍状の魔力が生成される。【ブラックドッグ】の胴体目掛け、槍を投擲する。見事に槍が突き刺さり、【ブラックドッグ】が力無く倒れる。

「…よし、次。」

消滅を確認し、僕は再び街へ駆け出した。


私…フォルス・オラムは、発生した異常な規模の(ゲート)の原因を探るべく、獣を狩り続けながら、カイセイ学園特区上空を飛行していた。そこで発見したのが…

「…《運命(フォーチュン)》のときは、こんな事はなかったんだけどな…さて、一応識別名(なまえ)でも聞いておこうかな?必理(アルカナ)クン?」

空中に佇む白馬の獣に、私は挑発的に呼びかけた。

〚…そちらから名乗らぬ無礼は今は見逃そう、人よ。我が名は《戦車(チャリオット)》の獣。第七の冠位を賜りし、必理(アルカナ)の獣為り。〛

円卓会議(マロリー・ラウンズ)』には、最上位の霊騎士(クルセイダー)以外に公開を許していない、最重要機密事項がある。そのうちの一つが、必理(アルカナ)の獣の存在だ。

必理(アルカナ)の獣。獣にも関わらず、人間と同等、またはそれ以上の知能を持つ、識別名を持つ特殊個体。知能のみでなく、各個体が持つ専用の権能も、国を一つ壊滅可能と言われるほどのものばかりである。今目の前にいる《戦車(チャリオット)》も、その内の一体である。

「で、今回の件はあなたが起こしたってことで間違いないよね?」

〚如何にも。新たに授かりし奇跡を持って、余の乗り手に相応しき者を我が主とする。全ては我が望みのためよ。〛

「相応しき者、ねぇ。私、結構自信あるけど?」

〚有り得んな。《運命(フォーチュン)》を従えようとする者が、余に相応しい筈もないだろう。〛

「そ、残念。…じゃ、()ろうか。」

そう一言呟き、私は攻撃を開始した。


「…ふぅ…結構片付いたな。」

今回の戦闘において、僕はおおよその傾向を掴んでいた。今回戦った獣は、【ブラックドッグ】、【ケルピー】、そして中位種である【グリフォン】など。その全てが《戦車》属の獣なのである。ある程度の傾向はあれど、獣はいくつかの属が混ざって顕現する。ここまで固まっているのは異常だ。

「報告…はされてるよな、流石に。」

と、思い至り、自分すべきことを考える。周囲には先程【グリフォン】と戦った霊騎士(クルセイダー)が座り込んでいる。全員、結構な消耗だ。一度撤退して回復に専念するのが良いだろう。傷を負った人に肩を貸そうと近づこうとして、



〚Brrraaaawww__________!!!〛



上空から、血のように赤黒い、獅子型の獣が落ちてくる。先程の【グリフォン】と比較できないほどの、圧倒的な格上。都市を破壊すると言われる、上位種の獣である。

「【ウガルルム】だ!上位種が顕現したぞ!」

「撤退口は!?」

「ダメです、間に合いません!」

霊騎士(クルセイダー)の間にざわめきが走る。殆どの人が何かしらの傷を負っており、とても上位種に対処ができそうとは思えない。動けるものといったら、それこそ僕ぐらいのものだ。

「…すいません、機械鎧(これ)借ります!」

「あっ!?ちょっと君!」

近くの霊騎士(クルセイダー)が外していた鉛色の機械鎧(パワードスーツ)を拝借し、【ウガルルム】に魔力弾の射撃を浴びせる。

〚Brr…?〛

初撃を喰らったことで、【ウガルルム】の敵対意識が僕に向いた。

「攻撃を引き受けつつ、他の霊騎士(クルセイダー)と合流します!皆さんは一度撤退を!」

そう言い残し、僕は飛行を開始する。

火事場の馬鹿力というのだろうか、殆ど扱いを知らない機械鎧(パワードスーツ)は、直ぐに操作感覚を掴むことができた。

〚Brraaw!Brrrraaaww!〛

【ウガルルム】から、赤黒い魔力弾の群れが放たれる。先程の意趣返しのつもりだろうか。空中で機動しながら、弾幕の回避を試みる。が、やはり数発が機体に掠ってしまった。軽い衝撃が生まれ、機体が僅かな電気を発する。

「……これは、ちょっと厳しいかもな…」

背後から鬼気迫る表情で走ってくる【ウガルルム】を確認し、僕は飛行を続ける。

〚…Brrrraaaaaaaawwwwwwww!!!〛

一際大きく咆哮し、【ウガルルム】が止まる。それを察し、僕は振り返る。

「何だ…?」


瞬閃。


眼前に魔力の塊が迫る。思考を挟まず、即座に守護術式を詠唱する。全身が魔力の波に呑まれ、押し潰される。機械鎧(パワードスーツ)が半壊し、体が空中に放り出される。

〚……rraaaww……〛

遠くなった耳に、獣の咆哮が聞こえる。それと同時に、何やら大きな衝撃が走る。獣に攻撃されたのだろう。勢いよく、地面に激突する。

「______」

口から空気が漏れる。俺はもう瀕死なのだろう。全身が熱い気がするし、寒い気もする。

(…呆気ないもんだな…)

霞がかった頭で思考する。そういえば、夕日は僕がいなくても大丈夫だろうか…あぁ、まぁ、フォルがいるし大丈夫か、多分。そこまで思考したあとで、ぼんやりとした視界に、【ウガルルム】の姿を捉える。僕を殺した気になって満足したのだろう。ゆっくりと何処かへ歩いていく。アレを放置すれば、被害は更に拡大するだろう。

(それは、頂けないな。)

匂いはない。音は聞こえない。目は見えない。地に触れる肌に感触はない。けれど、謂わば魂とでも呼ぶべき物だけが、あの厄災を殺せと叫んでいる。

殺せ。

段々と、視界が赤く染まっていく。

殺せ。殺せ。殺せ。

脳裏に響く、気が狂いそうな言葉の羅列。

殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。

あぁ、良いだろう。殺してやる。それが()()()()()()ならな。

殺せ。

殺せ。

殺せ。

殺せ。

殺せ。

_____________________________________




個体名:鬼陽西人より、高度な適性を観測。

第〇冠位《愚者(フール)》の戴冠を行います。

霊獣核(アルカナ・コア)として、『ランスロットの叛逆剣(アロンダイト)』の付与を開始。

___失敗(ファイル)

神器級の魔力核を観測。霊獣核(アルカナ・コア)として代用を検討。

成功(サクセス)

条件達成(コンプリート)を確認しました。

これより個体名:鬼陽西人は《愚者(フール)》の獣として承認されます。



_____________________________________

途端に、脳内の声が止まった。それと共に、全身を呑み込もうとしていた虚無感も消え失せた。全身に血が巡り、身体が不思議なほど軽くなる。

〚…!Brraaww!!〛

【ウガルルム】が異変に気付き唸り声を上げるが、今は気にも止まらない。全能感をその身に感じ、ゆっくりと立ち上がる。

〚Brrrrrraaaaawwww!!〛

先程僕を撃ち落とした光線が放たれる。避けること無く、ただその一撃を受け入れる。身に纏っていた制服が焼け落ちる。しかし、

「…全く、熱いじゃないか。火傷でもしたらどうする?」

何事もないように、悠然と語り掛ける。

ふと、視界の中に先程まで使用していたレーザーガンを見つけた。半壊状態で、使えそうにない。だというのに、僕は無意識にそれを手にしていた。そして不意に、その言葉を呟く。


「……『自由を騙る姿亡き鉾ネヴァーフリー・アーモリー』」


次の瞬間、黒い魔力がレーザーガンを覆い、その姿を禍々しい物へ変貌させた。自分の身に何が起きているのか、全くわからない。だが、一つだけたしかなことがある。それは…

「今なら、お前を殺せる。」

銃口を向け、引き金に指を掛ける。何かを感じ取ってか、【ウガルルム】が後退る。

よく狙え。

敵を見ろ。

死という現実を恐れるな。

…………………………………

今。

引き金を力強く引く。極限まで黒く染まった弾丸が、易々と獣の脳天を貫いた。獣の死体が塵となって消える。

勝利した。そこに、感動はない。只々、勝利という事実のみが残っていった。


「………!!!」

〚ほう、これは……〛

戦車(チャリオット)》との交戦中、私はその気配に気が付いた。身の毛がよだつ魔力の奔流が、音もなく出現した。どうやらそれは、《戦車(チャリオット)》も同じようで。

〚…向かったらどうだ?余も彼の者に興味がある、貴様の用が終わるまでは、何もせず待っていてやろう。〛

「…貴方の言葉を信じろって?」

〚あぁそうだ。貴様の用が終わるまでは何もしない。余の冠位に誓おう。〛

必理(アルカナ)の獣にとって、冠位というのは自身の存在意義に等しいとされている。それに誓うと言うのなら、嘘である可能性は低いだろう。

「…ッチ…各霊騎士(クルセイダー)に報告。カイセイ学園特区六丁目付近に獣の反応あり。5分以内に合流可能な者は合流せよ。」

そう言い、私はその場から離脱した。

〚…さて、少しばかり様子を見ておくか。〛

また、その場にいた《戦車(チャリオット)》も、一瞬にしてその姿を消した。


「一体何が起こってんだ、ホントに…」

勝利したのは良いものの、僕は未だに状況を何一つ理解できていなかった。どうしたものか、と悩んでいると、

ヴォン。

「うぉおい!…何だ、これ?」

突如として視界に、異世界物のステータスよろしく光の画面が現れた。そこに映っていたのは…


目標(マストノルマ):自身の正体の隠匿

優先度:A+


「………はい?」

いやいや、正体って…元よりフォルはおろか夕日にすら話したことはない。だったら一体何のこと…

「お、あれフォルじゃね?おーい。」

そこで、フォルが霊騎士(クルセイダー)を数人連れてやって来た。そこに、軽く声を掛ける。

「全員、照準!!対象、新規顕現した人型の獣!!」

〚…………え?〛

フォルの言っている事が理解できず、困惑する。獣?僕が?有り得ない。

そう思い、自身の腕を見る。

〚……ッ!?〛

つい先程までごく普通だった腕が、黒くゴツゴツとした物に変化していた。指の先も鉤爪の様に…というか、そのまま鉤爪になっていた。もしや、と思い、近くの霊騎士(クルセイダー)のヘルメットに映った姿を見る。

愚者属の【リザードマン】か、あるいは軽装の鎧に近い黒の身体。腰の辺りから、長く刺々しい尾が生えている。腕や足は先程言った通り、ごつごつとして鉤爪がついている。その頭からは角が前に2本伸び、口には鋭い牙。此方は、悪魔属の獣に近い。

…つまり、今の僕は完全に獣だということだ。

焦燥した。焦燥したが、確かに納得もした。【ウガルルム】を殺した力も、システム(仮称)が言う、隠匿すべき正体もこのことだろう。

考えが多少まとまり、冷静になってきた事で、僕はその違和感に気がついた。

獣の姿で誤魔化されていたが、僕の姿に服がない。そして、警戒の色を濃くし僕に銃口を向ける霊騎士(クルセイダー)、そしてフォル。それ即ち。

〚………Kyaaaaaaaaaaaa(キャァァァァァ(恥))aaaa_________!!〛

「獣の咆哮を確認!各員戦闘体制!」

〚あっ違っ…!というか、やめて!見ないでぇぇぇっ! 〛

「この獣、言葉を…!?」

混沌(カオス)混沌(カオス)を重ね、状況に収拾がつかなくなる。フォルが冷静に鎮めようとしているが、中々上手くいっていない。何か、何か状況を打破できるものは……!

そこに、ふわりと救いの手が伸びた。

【ウガルルム】の攻撃に被弾したらしい、スーパーの垂れ幕の切れ端が落ちてきたのだ。

〚コレだっ………!〛

僕自身もびっくりする速度で垂れ幕を手に取り、サッと腰に巻く。恥はもはや無いッ!!

〚さらばだ!とうっ!〛

獣らしい跳躍力を発揮しつつ、僕はその場を去った。

「…必理(アルカナ)の獣…だよ、ね?」

かくして、物語は幕を開ける。

未だ明かされる情報はない。全ては秘密だ。

それもそうだろう。なぜならこれは、


人々の秘密(アルカナ)を解き明かす物語だからなのだから。


はじめましての方ははじめまして。久しぶりの方はお久しぶりです。作者の杉野凪でございます。

今回はこの作品をお読みくださり、ありがとうございます。突然舞い降りたインスピレーションから作り出した作品ですので、まだ輪郭はぼんやりとしていますが、もう片方の作品と並行して執筆していくつもりです。さて、今回の話は中々混沌(カオス)に終わってしまいましたが、一体これからどうなるのか。ぜひ、お楽しみに!以上、作者でした。

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