Rule1.戴冠
作者は口が軽いのです。
ゆえに、多くのことは語りません。
この作品を楽しんでいただければ幸いです。
それではどうぞ、ご覧ください。
僕はなんとも愚かであった。
僕はなんとも醜くくあった。
故に、人並みの生き方は認められなかったし、認められるべきでないとも思った。
だからこそ、僕はきっとそうなったのだろう。
ならば、僕はその在り方に従おう。
だって僕は、こんなに愚かなのだから。
*******
『続いてのニュースです。先日、霊都内で獣の顕現が確認されました。その場に居合わせた霊騎士によって討伐されましたが、都市部が被害を受けました。また、国家を破壊するレベルと推測される規模の反応も確認されており…』
と、そこでテレビを消し、僕は玄関へ向かった。
「夕日〜、もう出るぞ〜。」
「はいは〜い。」
玄関で靴を履きながら、リビングに向けて声をかける。
僕の名前は鬼陽西人。
特殊な教育機関が揃っている、霊都トウキョウのカイセイ学園特区に住む高校2年生だ。そして…
「はーい、お待たせ。お兄ちゃん。」
こちらは心戸夕日。
同じ屋根の下で生活している中学2年生の妹である。苗字が違うのは少々特殊な事情ゆえだが、きちんと血縁である。
「よし。今日体育あったよな?ジャージ持ったか?」
「だいじょぶだいじょぶ。心配性がすぎるぜ?マイブラザー。」
そうして、僕と夕日は家を出る。
ここ、カイセイ学園特区は、この世界に於いて、『詠唱術式』と呼ばれる、所謂魔術に近い物の教育に力を入れている、かなり特殊な学園都市だ。僕と夕日は過去に両親を亡くし、2人で団地に移り住んだ。ここまで話したら、「高校生が2人分の家賃を払うのは大変なのではないか?」という疑問も出るだろう。その疑問については、学園につけば分かるはずなので、今は置いておこう。
「じゃ、行ってくるね。」
「あぁ、いってらっしゃい。」
そう言い、僕と夕日はそこで別れた。ゆっくりと歩き続け、やがて僕の通う学園が見えてくる。
さて、ここで僕の通っている学園について紹介しよう。
霊都立ウェイト学園。
僕が通っている学校の名だ。生徒である僕が言うのもなんだが、ここは全国的に見てランクの高い学校だ。学力の面では僕が死ぬ程努力すれば大丈夫だが、ランクが高いと学費も高い。ここで、先程の話に戻ってくる。先に結論を言うと、とある人が僕達に金銭支援をしてくれている。学園に来れば自然と出会えるだろう。
「…あっ!おーい!!」
と、頭上から、件の彼女の声が聞こえてきた。学園に入っていないのに、頭上から。
次の瞬間、空から僕と年頃の近い少女が降りてきた。
天使と見紛う程の整った顔。その顔は、活気に溢れた笑みを浮かべている。長いブロンドの髪はポニーテールに纏められている。そして何より目を引くのが、その身に纏った機械鎧だ。白銀の鎧が、その神々しさを強調している。
「…今日もパトロールか?律儀だな、フォルは。」
「君だってすごく早く来てるでしょ!人のこと言えないぞ!」
フォルス・オラム。通称フォル。
先程言った、金銭支援をしてくれている、少々特殊な役割の国家組織、『円卓会議』所属の『詠唱術式』の使い手たる上位の霊騎士の少女である。この若さであるが、カイセイ学園特区内に限らず、広い範囲での権力者なのである。両親が死んだ時、保護してくれたのが彼女の知り合いであり、その後、僕達の身柄は彼女に引き継がれた。
「部活で来てる人、何人かいるね。ちょっと見てこうか。」
「部活には入らないって散々言っただろ。」
「そうだったそうだった、君には学園を成績トップで卒業する夢があるんだったね!!」
「その地味に分かりづらい捏造をやめろ!…はぁ、ったく…」
と、他愛のない会話をしながら、廊下を学園の校庭へ向かう。校庭で朝練をしていたのは、所謂サッカー部である。しかし、学園のサッカーは一味違う。
「支援・風の少年!どけどけどけぇ!」
「…支援・言の葉紡ぎ。安達、長尾、止めるぞ!」
詠唱蹴球と呼ばれるその競技は、ルールで定められた範囲内なら、『詠唱術式』を使用して良い特殊な競技だ。他にも、攻撃詠唱を使った弓道部や、学園特区にしかない部活である、生成詠唱を使った武装製作部などなど、様々な部活が存在する。
「…おぉ、鬼陽!…と、オラム卿も!朝からお早いですね!」
試合が終わるや否や、部員の1人がこちらに駆け寄って来た。
「よぉ、依田。お前も朝からご苦労さん。」
「おはよう、天貴君。」
依田天貴。詠唱蹴球部に所属している、僕のクラスメイトだ。
「折角だし、教室まで一緒にいこーぜ!」
「わかった、わかった。よし、じゃあさっさと着替えて…」
ウゥゥゥゥゥゥゥゥウ__________
突如、学園内にけたたましくサイレンが鳴り響く。
『八王子区上空に獣の反応を捕捉。至急、出動可能な霊騎士は対処へ向かってください。繰り返します。八王子区上空に獣の反応を捕捉。至急対処へ向かってください。』
「…!仕事みたい。ちょっと出てくるね。」
「わかった。ほら、術式補助装置。持ってっとけ。」
「ありがと。行ってくるね!」
そう言い、フォルは勢い良く空へ飛び上がっていった。
「いやー、最近何か増えたよな、獣の顕現。」
依田が言う。
そういえば、獣についてまだ説明していなかったか。
獣とは、そのままの意味では無く、特殊な存在に付けられた呼称だ。神代から存在していると文献に残る、絶対的な『人類の敵』である。不定期に、空間の歪みたる門から出現し、その殆どは知性を持たない。それらの対処も、霊騎士の仕事である。上位の霊騎士には、討伐せずに、その力を従えている者もいるらしい。フォルもそうなのだろうか?
「何ボケっとしてんだ。ほら、さっさと中入るぞ。」
そう言われ、僕は学園の中へ入っていった。
「今回確認されたのは、《愚者》属の獣【ゴブリン】、【オーガ】が多数、そして《魔術師》属の中位種【バフォメット】が一体です。《愚者》属の獣はフォルス・オラム卿と霊騎士達によって討伐され、【バフォメット】は捕獲に成功しました。近いうちに適正調査が行われるので、ジャージを忘れないように。」
担任の言葉に、生徒達が各々答える。
「はぁー、中位種を捕獲かぁ。スゲェなぁ、オラム卿。」
「何人事みたいにいってんの。あんたも少しは見習いなさいよ。」
「そうだぞ依田。少しは怠けずに努力しろよ。だから毎回泉古に叱られるんだぞ。」
依田と僕、そして友人の泉古里正は言葉を交わす。
「今日は実技からか〜。鬼陽、お前突き刺す振動できたよな?頼む、教えてくれ!」
「全く、仕方ないな。」
答えながら、僕たちは体育館へ向かった。
あっという間に時間は過ぎ、放課後になった。依田と泉古は部活があり、今日は1人で帰っている。いつも通りの道を、ゆっくりと歩く。
「今日の夕飯は…そうだな、ハンバーグでも作ろうか。夕日も食べたがってたし。」
ぼんやりと呟きながら、ふと空を見上げる。
そこで僕は、その異変に気が付いた。
「………門…?」
獣の出現地点たる門、その前兆と思しきものが空に浮かんでいた。フォルに連絡をしようとした所で、
〚_____Rrrrrrooooow!!! 〛
常世の物とは思えない、奇怪な咆哮が響き渡る。再び空を見上げ直す。そこには、
何kmにも広がった、超巨大な門が口を開いていた。
「……………は?」
門から、数えきれない程の獣が溢れ出す。余りにも現実離れした光景に、僕は立ち尽くしてしまった。しかし、学生であれど僕だって霊騎士の見習い。ならばすべきことは…
「…風の少年!」
詠唱術式を展開し、街に繰り出す。一瞬、夕日の元へ向かうことを考えたが、あいつはフォルの守護術式が入った護符を持っている。シェルターには間に合うだろう。
「キャァァァァァァッッ!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
各地から、悲鳴と戦闘音が聞こえてくる。霊騎士や、僕と同じ学生達が獣と戦っているのだろう。
〚Boow,Boow!! 〛
と、そこで僕は《戦車》属の獣、【ブラックドッグ】が少女に迫っているところ発見した。
「いや…や、ゃめ…」
〚Aooowww!! 〛
「無色の弾丸!」
指の先から、白色の魔力弾が発射され、【ブラックドッグ】に命中する。ヘイトが少女から僕に変更される。
「僕が引きつけるから、早く逃げて!」
「は、はいっ!」
少女が駆け出すのを尻目に見て、僕は獣に向き直る。
〚Grrrrooor…〛
唸りを上げながら、【ブラックドッグ】がにじり寄る。続け様に、無色の弾丸を当て続ける。何発も攻撃を喰らい、獣の動きが鈍っていく。
「突き刺す振動!」
手に、槍状の魔力が生成される。【ブラックドッグ】の胴体目掛け、槍を投擲する。見事に槍が突き刺さり、【ブラックドッグ】が力無く倒れる。
「…よし、次。」
消滅を確認し、僕は再び街へ駆け出した。
私…フォルス・オラムは、発生した異常な規模の門の原因を探るべく、獣を狩り続けながら、カイセイ学園特区上空を飛行していた。そこで発見したのが…
「…《運命》のときは、こんな事はなかったんだけどな…さて、一応識別名でも聞いておこうかな?必理クン?」
空中に佇む白馬の獣に、私は挑発的に呼びかけた。
〚…そちらから名乗らぬ無礼は今は見逃そう、人よ。我が名は《戦車》の獣。第七の冠位を賜りし、必理の獣為り。〛
『円卓会議』には、最上位の霊騎士以外に公開を許していない、最重要機密事項がある。そのうちの一つが、必理の獣の存在だ。
必理の獣。獣にも関わらず、人間と同等、またはそれ以上の知能を持つ、識別名を持つ特殊個体。知能のみでなく、各個体が持つ専用の権能も、国を一つ壊滅可能と言われるほどのものばかりである。今目の前にいる《戦車》も、その内の一体である。
「で、今回の件はあなたが起こしたってことで間違いないよね?」
〚如何にも。新たに授かりし奇跡を持って、余の乗り手に相応しき者を我が主とする。全ては我が望みのためよ。〛
「相応しき者、ねぇ。私、結構自信あるけど?」
〚有り得んな。《運命》を従えようとする者が、余に相応しい筈もないだろう。〛
「そ、残念。…じゃ、戦ろうか。」
そう一言呟き、私は攻撃を開始した。
「…ふぅ…結構片付いたな。」
今回の戦闘において、僕はおおよその傾向を掴んでいた。今回戦った獣は、【ブラックドッグ】、【ケルピー】、そして中位種である【グリフォン】など。その全てが《戦車》属の獣なのである。ある程度の傾向はあれど、獣はいくつかの属が混ざって顕現する。ここまで固まっているのは異常だ。
「報告…はされてるよな、流石に。」
と、思い至り、自分すべきことを考える。周囲には先程【グリフォン】と戦った霊騎士が座り込んでいる。全員、結構な消耗だ。一度撤退して回復に専念するのが良いだろう。傷を負った人に肩を貸そうと近づこうとして、
〚Brrraaaawww__________!!!〛
上空から、血のように赤黒い、獅子型の獣が落ちてくる。先程の【グリフォン】と比較できないほどの、圧倒的な格上。都市を破壊すると言われる、上位種の獣である。
「【ウガルルム】だ!上位種が顕現したぞ!」
「撤退口は!?」
「ダメです、間に合いません!」
霊騎士の間にざわめきが走る。殆どの人が何かしらの傷を負っており、とても上位種に対処ができそうとは思えない。動けるものといったら、それこそ僕ぐらいのものだ。
「…すいません、機械鎧借ります!」
「あっ!?ちょっと君!」
近くの霊騎士が外していた鉛色の機械鎧を拝借し、【ウガルルム】に魔力弾の射撃を浴びせる。
〚Brr…?〛
初撃を喰らったことで、【ウガルルム】の敵対意識が僕に向いた。
「攻撃を引き受けつつ、他の霊騎士と合流します!皆さんは一度撤退を!」
そう言い残し、僕は飛行を開始する。
火事場の馬鹿力というのだろうか、殆ど扱いを知らない機械鎧は、直ぐに操作感覚を掴むことができた。
〚Brraaw!Brrrraaaww!〛
【ウガルルム】から、赤黒い魔力弾の群れが放たれる。先程の意趣返しのつもりだろうか。空中で機動しながら、弾幕の回避を試みる。が、やはり数発が機体に掠ってしまった。軽い衝撃が生まれ、機体が僅かな電気を発する。
「……これは、ちょっと厳しいかもな…」
背後から鬼気迫る表情で走ってくる【ウガルルム】を確認し、僕は飛行を続ける。
〚…Brrrraaaaaaaawwwwwwww!!!〛
一際大きく咆哮し、【ウガルルム】が止まる。それを察し、僕は振り返る。
「何だ…?」
瞬閃。
眼前に魔力の塊が迫る。思考を挟まず、即座に守護術式を詠唱する。全身が魔力の波に呑まれ、押し潰される。機械鎧が半壊し、体が空中に放り出される。
〚……rraaaww……〛
遠くなった耳に、獣の咆哮が聞こえる。それと同時に、何やら大きな衝撃が走る。獣に攻撃されたのだろう。勢いよく、地面に激突する。
「______」
口から空気が漏れる。俺はもう瀕死なのだろう。全身が熱い気がするし、寒い気もする。
(…呆気ないもんだな…)
霞がかった頭で思考する。そういえば、夕日は僕がいなくても大丈夫だろうか…あぁ、まぁ、フォルがいるし大丈夫か、多分。そこまで思考したあとで、ぼんやりとした視界に、【ウガルルム】の姿を捉える。僕を殺した気になって満足したのだろう。ゆっくりと何処かへ歩いていく。アレを放置すれば、被害は更に拡大するだろう。
(それは、頂けないな。)
匂いはない。音は聞こえない。目は見えない。地に触れる肌に感触はない。けれど、謂わば魂とでも呼ぶべき物だけが、あの厄災を殺せと叫んでいる。
殺せ。
段々と、視界が赤く染まっていく。
殺せ。殺せ。殺せ。
脳裏に響く、気が狂いそうな言葉の羅列。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
あぁ、良いだろう。殺してやる。それがあんたの遺志ならな。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
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個体名:鬼陽西人より、高度な適性を観測。
第〇冠位《愚者》の戴冠を行います。
霊獣核として、『ランスロットの叛逆剣』の付与を開始。
___失敗。
神器級の魔力核を観測。霊獣核として代用を検討。
成功。
条件達成を確認しました。
これより個体名:鬼陽西人は《愚者》の獣として承認されます。
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途端に、脳内の声が止まった。それと共に、全身を呑み込もうとしていた虚無感も消え失せた。全身に血が巡り、身体が不思議なほど軽くなる。
〚…!Brraaww!!〛
【ウガルルム】が異変に気付き唸り声を上げるが、今は気にも止まらない。全能感をその身に感じ、ゆっくりと立ち上がる。
〚Brrrrrraaaaawwww!!〛
先程僕を撃ち落とした光線が放たれる。避けること無く、ただその一撃を受け入れる。身に纏っていた制服が焼け落ちる。しかし、
「…全く、熱いじゃないか。火傷でもしたらどうする?」
何事もないように、悠然と語り掛ける。
ふと、視界の中に先程まで使用していたレーザーガンを見つけた。半壊状態で、使えそうにない。だというのに、僕は無意識にそれを手にしていた。そして不意に、その言葉を呟く。
「……『自由を騙る姿亡き鉾』」
次の瞬間、黒い魔力がレーザーガンを覆い、その姿を禍々しい物へ変貌させた。自分の身に何が起きているのか、全くわからない。だが、一つだけたしかなことがある。それは…
「今なら、お前を殺せる。」
銃口を向け、引き金に指を掛ける。何かを感じ取ってか、【ウガルルム】が後退る。
よく狙え。
敵を見ろ。
死という現実を恐れるな。
…………………………………
今。
引き金を力強く引く。極限まで黒く染まった弾丸が、易々と獣の脳天を貫いた。獣の死体が塵となって消える。
勝利した。そこに、感動はない。只々、勝利という事実のみが残っていった。
「………!!!」
〚ほう、これは……〛
《戦車》との交戦中、私はその気配に気が付いた。身の毛がよだつ魔力の奔流が、音もなく出現した。どうやらそれは、《戦車》も同じようで。
〚…向かったらどうだ?余も彼の者に興味がある、貴様の用が終わるまでは、何もせず待っていてやろう。〛
「…貴方の言葉を信じろって?」
〚あぁそうだ。貴様の用が終わるまでは何もしない。余の冠位に誓おう。〛
必理の獣にとって、冠位というのは自身の存在意義に等しいとされている。それに誓うと言うのなら、嘘である可能性は低いだろう。
「…ッチ…各霊騎士に報告。カイセイ学園特区六丁目付近に獣の反応あり。5分以内に合流可能な者は合流せよ。」
そう言い、私はその場から離脱した。
〚…さて、少しばかり様子を見ておくか。〛
また、その場にいた《戦車》も、一瞬にしてその姿を消した。
「一体何が起こってんだ、ホントに…」
勝利したのは良いものの、僕は未だに状況を何一つ理解できていなかった。どうしたものか、と悩んでいると、
ヴォン。
「うぉおい!…何だ、これ?」
突如として視界に、異世界物のステータスよろしく光の画面が現れた。そこに映っていたのは…
目標:自身の正体の隠匿
優先度:A+
「………はい?」
いやいや、正体って…元よりフォルはおろか夕日にすら話したことはない。だったら一体何のこと…
「お、あれフォルじゃね?おーい。」
そこで、フォルが霊騎士を数人連れてやって来た。そこに、軽く声を掛ける。
「全員、照準!!対象、新規顕現した人型の獣!!」
〚…………え?〛
フォルの言っている事が理解できず、困惑する。獣?僕が?有り得ない。
そう思い、自身の腕を見る。
〚……ッ!?〛
つい先程までごく普通だった腕が、黒くゴツゴツとした物に変化していた。指の先も鉤爪の様に…というか、そのまま鉤爪になっていた。もしや、と思い、近くの霊騎士のヘルメットに映った姿を見る。
愚者属の【リザードマン】か、あるいは軽装の鎧に近い黒の身体。腰の辺りから、長く刺々しい尾が生えている。腕や足は先程言った通り、ごつごつとして鉤爪がついている。その頭からは角が前に2本伸び、口には鋭い牙。此方は、悪魔属の獣に近い。
…つまり、今の僕は完全に獣だということだ。
焦燥した。焦燥したが、確かに納得もした。【ウガルルム】を殺した力も、システム(仮称)が言う、隠匿すべき正体もこのことだろう。
考えが多少まとまり、冷静になってきた事で、僕はその違和感に気がついた。
獣の姿で誤魔化されていたが、僕の姿に服がない。そして、警戒の色を濃くし僕に銃口を向ける霊騎士、そしてフォル。それ即ち。
〚………Kyaaaaaaaaaaaaaaaa_________!!〛
「獣の咆哮を確認!各員戦闘体制!」
〚あっ違っ…!というか、やめて!見ないでぇぇぇっ! 〛
「この獣、言葉を…!?」
混沌に混沌を重ね、状況に収拾がつかなくなる。フォルが冷静に鎮めようとしているが、中々上手くいっていない。何か、何か状況を打破できるものは……!
そこに、ふわりと救いの手が伸びた。
【ウガルルム】の攻撃に被弾したらしい、スーパーの垂れ幕の切れ端が落ちてきたのだ。
〚コレだっ………!〛
僕自身もびっくりする速度で垂れ幕を手に取り、サッと腰に巻く。恥はもはや無いッ!!
〚さらばだ!とうっ!〛
獣らしい跳躍力を発揮しつつ、僕はその場を去った。
「…必理の獣…だよ、ね?」
かくして、物語は幕を開ける。
未だ明かされる情報はない。全ては秘密だ。
それもそうだろう。なぜならこれは、
人々の秘密を解き明かす物語だからなのだから。
はじめましての方ははじめまして。久しぶりの方はお久しぶりです。作者の杉野凪でございます。
今回はこの作品をお読みくださり、ありがとうございます。突然舞い降りたインスピレーションから作り出した作品ですので、まだ輪郭はぼんやりとしていますが、もう片方の作品と並行して執筆していくつもりです。さて、今回の話は中々混沌に終わってしまいましたが、一体これからどうなるのか。ぜひ、お楽しみに!以上、作者でした。




