プロローグ
ランスは、全く浮かない顔で騎竜を走らせていた。
「この調子なら、夕方までに次の町に到着しますね」
「ああ、そうだな」
並走するユーリイの朗らかな問いかけに、ランスは沈んだ声音で返事をする。
そんなランスを、ユーリイはニコニコしながら眺めていた。
──全く……、なんだってこんなことになったんだか……。
ランスは深々とため息を吐いた。
§
ランスことランスロットは、齢四十を迎え、ストロベリーブロンドの髪に白いものが混ざり始めた昨今。
無理が利かなくなったことを痛感しつつも、若手の冒険者に〝初心者の心得〟を指導する、三級冒険者として活動をしていた。
同道しているユーリイことユーリイ・アッシュホロー・ヴァルクレストは、二十代前半。
すらりと手足が長く、黒髪と青い瞳を持つ美丈夫の若者だ。
一級冒険者であり、高位の魔獣を単独で撃破出来る剣の腕と魔法の才を兼ね備えた──いわば〝天才〟。
ユーリイは初心者の時に、ランスの指導を受けた教え子の一人である。
その時、ランスの野営技術に魅了され、自身が〝ランスを充分に養える〟ようになったところで、自らスカウトにやってきた。
ランスにしてみれば、迷惑千万な話である。
その強引なスカウトの結果、前回〝うっかり〟コカトリスの討伐が成功してしまい、ランスは辺境伯から〝コカトリスハンター〟の称号を賜ってしまった。
欲しくもない称号を断る隙もなく押し付けられたこと。
壁と呼ばれる三級から二級への進級が、望まない形で成されてしまったこと。
二級になったことで、一級冒険者であるユーリイとパーティーを組むことに問題がなくなってしまったこと。
それら全部が──。
ランスが〝浮かない顔〟になっている理由なのだ。




