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過去のやらかしと野営飯  作者: 琉斗六
過去のやらかしと野営飯

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5/10

 目覚めたランスは、伸びをしようとして……またしても身動きができなくなっていた。


「なんだ……?」


 がっちりと、寝袋の上からユーリイに抱きしめられている。


「おい。…………おいっ!」


 最初はやんわりと。

 二度目はかなり力を込めて、背後の相手に肘を打つ。


「ん…………、あっ! ランスッ!」


 目覚めだユーリイは、腕を解くどころかより強く抱きしめてくる。


「は〜な〜せぇ〜〜〜!」

「目覚めないかと思いましたよ!」


 グリグリと頭を擦り付けてくるユーリイは、ランスの背中に涙と鼻水も擦り付けてきた。


「よせっ! 俺の背中を湿らすな! 毒は問題ないと言っただろう!」

「でも、心配じまじだぁ〜〜」


 途中から、もう泣くのを隠しもしない。

 ため息を()き、ランスは動きの悪い手で寝袋の紐を解いて、それからユーリイの腕を振りほどいた。


「子供じゃないんだ、泣くな!」


 ばすんばすんと、やや乱暴にユーリイの頭を叩くように撫でて、テントから外に出る。

 そしてようやく伸びをすると、高熱で一晩寝ていただけあって、節々が悲鳴を上げてベキバキと不穏な音を出す。


「本当にもう、大丈夫なんですか?」

「言っただろう。コカトリスの毒で、一度死にかけたことがあるって。逆にもうアレの毒ではめったに死なん。それより、そんなんで、あの場で毒腺の処理をちゃんとしてるんだろうな?」

「処理……というか、毒腺は切り落とした首側なので、首だけ別に保存しました」

「よし。じゃあ、身を出せ」


 川辺に移動し、ユーリイがバッグからコカトリスの死体を取り出す。

 ランスは切り落とされた首の様子を見て、毒腺が綺麗に取り除かれているのを確認してから、羽毛をむしった。

 首から上にある毒腺さえ破れていなければ、コカトリスの肉は食用に出来る。

 川で血抜きをし、表面の残った羽毛を炎の魔法で焼いて処理する。


 小麦粉を水で溶き、フライパンで薄く焼く。

 そこに少し辛味のある薬草の根、爽やかな香草、蔓になっていたサヤ入りの豆の若芽などと共に、コカトリスの腿肉を焚き火で炙ったものを巻き込む。


「ほい、朝飯」

「ありがとうございます」


 熱々にかぶりつけば、腿肉の脂が口内に広がり、香草の香りと薬草の辛味が彩りを添える。


「おいしいです」

「そら、良かった」


 コカトリスの解体も、野営地の後片付けも、ユーリイが食事をしてゆっくりと薬草茶のコーヒーを飲んでいる間に終わっていた。

 ランス自身は、食事の支度をしながら適当に朝食を済ませていて、体調もさほどどうという様子もみせない。


「じゃあ、村に戻って討伐を報告して。それから辺境伯領に戻るか」

「そうですね」


 村には、夕方までにたどり着いた。




§



 領都で冒険者ギルドに寄り、討伐報告をすると、ユーリイは辺境伯に呼び出された。

 報奨が出るのだろう。

 討伐報告をすれば、ランスの "指名依頼" も同時に終了する。


──やれやれ、なんとか無事に終わったな。


 辺境伯領のギルドで報酬を受け取り、ランスは騎竜をギルドに預けて、自分は王都へ向かう乗り合い竜車のチケットを買った。

 騎竜のほうが早いのは分かっているが、乗り合い竜車であれば眠っていられるし、そもそも騎竜を調達したのはユーリイであるから、乗っていっていいかどうかもわからなかったからだ。


 行きは四日の行程は、帰りは一週間掛かった。


 それでも王都の城門をくぐった時に、ランスの顔は晴れ晴れとしていた。

 途中で盗賊が出ることもなく、竜車の旅は至って気楽だったからだ。


──今日はクエスト完了の報告だけして、食いっぱぐれたうさぎのシチューを食いに行こう。


 馴染みの冒険者ギルドの建物が見えてきたところで、足取りも軽くなる。

 だが、ギルドの扉を開いたランスは、次の瞬間、みぞおちに鋭い衝撃を感じていた。


「ぐはっ!」

「ランスさん! 僕を置いて先に帰っちゃうとか、ひどいじゃないですかっ!」


 床に尻もちを付いたランスの上に、ユーリイが乗ってわんわん泣いている。


「よう、おかえり、ランス」


 ユーリイの向こうに、げんなりした顔のジョナサンが立っていた。




§



 聞けば、ユーリイは四日前からこのギルドに踏ん張り、ランスの帰りを待っていた……という。

 誰がどんなになだめすかそうと、絶対に動こうとしないユーリイにほとほと手を焼き、ジョナサンは体重が五キロも減ったとか。


「ちゅーわけで、こちらの一級冒険者様のご指名で、おまえはもうウチのギルド所属じゃなくなったから」


 ギルド長の部屋に、ユーリイと二人、ほとんど "運び込まれ" たところで、ジョナサンが言った。


「はあっ? なんだそれ?」

「なんだもなにも、おまえは三日前からその一級冒険者様のパーティメンバーになってっから」

「本人の意志は?」


 その問いに、ジョナサンは明後日の方へと目を逸らす。

 隣のユーリイは、ニコニコしながらうんうん頷くだけだ。


「今回のクエスト、最高のコンビネーションだったじゃないですか。次は隣国でワイバーンの討伐指名依頼が来ています。あ、今回のコカトリス討伐で、辺境伯様からランスにも報奨とコカトリスハンターの称号が贈られました」

「ハンターの称号獲得で、おまえも二級に進級だ。良かったな」

「良くねえええええっ!」


 ランスの叫びは、誰にも聞き入れてはもらえなかった。



終わり。

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