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過去のやらかしと野営飯  作者: 琉斗六
幼馴染と暴走と野営飯

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19/21

 傍で誰かが動く気配に、目を覚ます。


「ヴィオ!」

「……ランス?」


 起き上がったヴィオは、自分の置かれている状況がわからない様子で、きょどきょどと周囲を見回しているところだった。

 ランスは、昨晩ヴィオの容態が気になってなかなか寝付けなかったが、いつのまにか寝落ちしていたらしい。


「具合は? どこか痛むか?」

「待って……待ってくれ……。なにが……どうして? 俺は、クリスと魔獣を退けていて……」

「おお、目覚めたのか?」


 状況が飲み込めないヴィオに、ランスが説明をする前に──。

 その気配で目覚めたダリウスが、ヴィオに近づきグッと顔を掴んだ。


「うむ、顔色も上々だが……、まだ瘴気の影響が残っておるな」

「あなたは……、ランスのパーティーにいた貴族の魔法使い氏か?」

「ふふふ、あの短い面識で覚えておるとは、()どころがあるな。そう、瀕死の貴様に回復魔法を掛けたのが、この私だ」

「ありがとうございます……。……ランス、俺だけか? クリスは?」

「いや、俺たちがこのセーフティエリアに入ったところに、ヴィオが倒れていたんだ。その前のことは、ニールから聞かされた以上のことは……」

「そうか……。クリスと庇いあいながら、なんとかセーフティエリアまで逃げようという話になったんだが……。……そうか……」


 ヴィオは、悔しそうに唇を噛んだ。


「貴様も危なかったぞ。半身を聖水に浸けた状態で倒れていた。あれがなければ、もうとっくにダンジョンに吸収されておったわ」

「そうだぞ。九死に一生だよ、ヴィオ」

「ギルマスが、僕らに状況確認を頼めたのも幸運だったと思いますよ」


 励まされ、ヴィオは迷った末に頷く。


「ああ……。ありがとう」



§



 ヴィオの体の瘴気の影響を考え、一行はもう少しセーフティエリアに滞在することに決めた。


「クリスは、俺より年若かったが、二級としての経験は俺より長くて……。最後はきっと、俺を庇ってくれたんだろうな……」

大盾(おおたて)が二枚ありますが、それじゃあどちらかがクリスさんの物なんでしょうか?」

「そっちの革盾がクリスのものだ。アーマードリザードのスケイルシールドだと言っていた」


 ヴィオの鉄盾は、(ゆが)みも傷も酷い。


「このフロアで襲われたなら、敵の殆どはミノタウロスか?」

「ああ。奴らの大斧(だいふ)は、岩が落ちてくるみたいな重さだった」


 ランスは、ヴィオの盾とクリスの盾を見比べる。


「なあ、ヴィオ。クリスには悪いが、この盾をバラしてもいいだろうか?」

「いや、駄目だろう?」


 問われたヴィオは、やや呆れの混じった驚き顔だったが──。


「壊して、どうするつもりなんです?」

「戻りの行程、来た時と同じくらいならいいが。現状、また波が来たり、スタンピードが起きてもおかしくないだろう? ヴィオの装備、盾がないのは危険が大きすぎる」

「うむ、そうだな。私もそれは気になっていた」


 ランスの言葉に、ユーリイはなるほどと頷き、ダリウスは同意を示す。


「しかし! それは遺品だ。クリスの仲間や、家族……がいるかどうかは知らんが、いるなら届けてやらないと……」

「ですが、ダンジョン内での死亡の場合、遺品が手元に戻ってくる可能性は非常に低いです。今は生き残ったあなたが生還し、クリスさんの最後をお伝えするほうが優先かと」

「してランス。もしバラせるとして、なんとかなるのか?」

「正直、応急処置にしかならない。だが、この心許ない壊れた盾よりかは、頼りになると思う」

「クリスは、その盾を手に入れるのに随分苦労したとも言っていた……」


 ヴィオは未だ気の進まない様子だ。


「気持ちはわかる。……だがな、ヴィオ。クリスがおまえを最後まで庇ったんだとしたら、その気持を尊重してやるべきなんじゃないか?」

「どういう意味だ?」

「つまり、おまえが生きてダンジョンを出ることに、必死になれってことだ」

「うむ。では、クリスの遺品を持って帰らなかったことで苦情がきたら、すべてこのダリウス・デュ・アルジャンティスが引き受けよう。盾をバラせ」

「ちょっと、カッコイイところだけ持っていかないでください。言い訳なら、僕だって引き受けますよ!」

「はははっ! こういうものは、最初に言った(もの)勝ちなのだ」


 じゃれ合うユーリイとダリウスをそのままにして、ランスはヴィオを見た。


「無駄にはしない」

「……分かってる。あの頃だって、ダンジョンの中で、鎧や盾をその場でなんとかしてくれていたからな」

「あんな、鍋の蓋の親戚みたいな盾じゃないから、ちょっと気後れするがな」


 ランスは笑い、二つの大盾(おおたて)を持って立ち上がった。



§



 ランスは、バックパックの中から、昨日ユーリイが倒したミノタウロスの素材を取り出した。


「昨晩の夕食にミノタウロスの肉が出てきた時も思ったが、オヌシ、この状況でよくもまぁ、そうもきちんと素材の確保をしているものだな」

「俺はポーターとバックサポートだ。ダンジョンに入ったなら、状況がどうであれ、素材のピックアップはするさ」

「ランスは勤勉なんですよ」


 ユーリイの言葉に、ダリウスは肩を竦めた。


「それで、その皮をどうするつもりだ?」

「まずはこいつを……」


 聖水の泉に皮を浸け、ざっくりと全体を洗う。

 そしてミノタウロスの脂と塩を混ぜたものを揉み込み、最後に石の床に広げて、上から重石を乗せた。


「雑ななめし革……といったところか?」

「そうだ。そんでこっちのスケイルシールドの鱗を剥がして……」


 精巧な造りでぴっちりと重ねられた鱗は、激しい攻撃によって一部は剥がれ、一部は鱗が割れている。

 ランスはバックパックから道具を取り出すと、丁寧に鱗を一枚ずつバラした。


「ヴィオとクリス、どっちの盾も似たような壊れ方をしてるな」

「ミノタウロスは、大斧(だいふ)を振り下ろしてくるからな。タンクはヘイトを集めて敵の攻撃を自身に集中させ、身体強化の(じゅつ)大盾(おおたて)でパリィをしながら仲間を守る」

「なるほど」


 自身が実際に戦っていないランスは、ダリウスの解説に頷いた。

 そしてランスは、道具の中から槌を取り出し、左手で鉄盾の一番酷い(ゆが)み部分をしばらく撫でてから、右手で槌を振り下ろした。


(ぬし)は、器用だな。今、なにをした?」

「盾の(ゆが)みを少しでも直すために、温めて叩いてる」

「金属が変形するほどの熱が出せるなら、よほどの攻撃を放てるのでは?」

「小さい炎しか出せねぇよ」


 実際に、ランスがしている作業を見ていると、炎を作っていることすら分からない。

 手元に隠れて、見えない程度の炎しか作れていないからだ。


「攻撃魔法として、相手に飛ばして当てるとか出来ないんだ。湿った服が乾く、飲める水が出せる、湯沸かしの出来る炎が出る。その程度だ」

「だが、その小さな炎で、剣も盾も鎧も修理してくれた。……ランスは、俺たちのパーティーには、欠かせないメンバーだった」


 ランスの作業を眺めながら、ヴィオが言った。


「でも、怪我をしたランスを養えず、パーティーから外したんでしょう?」

「そうだ。……あれは苦渋の決断だった」


 棘のあるユーリイの言葉を、ヴィオはすんなりと認める。


「三級冒険者では、致し方ない決断であろうな」


 ダリウスは笑って、ユーリイの肩をポンッと叩いた。



§



 鱗を取ったクリスの盾と、(ゆが)みを補修したヴィオの盾、その二枚を重ねる。

 一番破損の酷かった部分に、無事に形を残している鱗を集中的に並べ、きっちりと()める。

 最後に、ミノタウロスのなめし革で全体を包み、一枚の大盾(おおたて)に仕上げた。


「ほほう、これは素晴らしいな。むしろ、最初のスケイルシールドより強度が上がっておるのでは?」

「そんなわけあるか。応急処置だぞ」

「うむ。だが、出発前に私が強度アップの(じゅつ)を掛けてやろう」

「待て。強度アップの(じゅつ)って、三十分ぐらいしか効かないんじゃないのか?」

「はははっ! この大魔法使いダリウス・デュ・アルジャンティスの(じゅつ)は、三時間ぐらいは維持できる」

「それにしたって、ダンジョン出るまで持たないじゃないですか。せいぜい、接敵(せってき)した瞬間に掛ける程度の気遣いみせてください」

「ふふふ、ユーリイよ。八つ当たりなぞ、大人げないぞ」

「八つ当たりなんて、してませんよ!」

「まあ、ユーリイの意見も筋が通る。よろしい、ではそのタンク氏の体力回復も兼ねて、これからもう一度食事をして、一眠りしよう。さすれば私の魔力も充実、道中(どうちゅう)でしっかり(じゅつ)を掛けることもできるだろう」

「わかった」


 ランスは、昨晩と同じくピュリーフとトマルージュを集めた。

 ミノタウロスの肉と集めた薬草を全部細かく刻み、炉に掛けた鍋にミノタウロスの肉を入れて炒める。

 じんわりと滲み出した油を残して、火の(とお)った肉を引き上げ、そこにピュリーフを入れた。

 ジュワッと軽快な音と、ピュリーフが焦げる良い匂いが広がった。


「昨夜のスープではないのか?」

「ああ、胃に優しくしたいからな」


 いい感じにピュリーフが焦げたところに肉を戻し入れ、そこに水とトマルージュ、更に堅パンを細かくちぎったものを加えて、灰汁を掬いながらじっくりと煮込む。


「卵がありゃよかったんだが」


 器に(よそ)って、ランスはそれをまずヴィオに渡した。


「ああ……、ランスの野営飯、久しぶりだな」

「ふふふ、貴様は昨晩、意識がなかったので覚えてなかろうが。スープをランスが馳走してくれていたのだぞ」

「そう……なのか? 済まない、手間を掛けさせた」

「いや、俺の自己満足でしかないさ」


 ランスはユーリイとダリウスにも、パン粥を渡す。


「ううむ……、ほぼ同じ材料と味付けだが、ゴロゴロとした具がないと、ここまでじんわりと沁みる味わいになるとは……」

「瘴気に蝕まれた体が、洗い流されるようです」

「そりゃトマルージュの浄化効果だって、昨日ユリィ自身が説明してたじゃねぇか」

「いえ、これはランスの愛の効果です。僕は今、ランスの愛を摂取してるんです」

「意味がわからん……」

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