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ユーリイとランス、それにダリウスは、街を歩いていた。
「ところでユーリイ、きみのパーティーは名前はないのかね?」
「ありませんね。わざわざパーティー名なんて、つける必要あります?」
「私もパーティーに加わったのだ。報奨金の振り込み口座を作るには、パーティー名が必要であろう」
「なら〝ユーリイ&ランス〟です」
「私の名も加えて欲しいところだが、そのまま入れては長すぎるな。それぞれの名の頭文字を取って〝DLY〟にしてはどうか?」
「なんであなたの名前が先頭なんですか? それならせいぜい〝LYD〟です」
隣で会話を聞いていたランスは、首をすくめた。
──なぁんかこの数日、ユーリイのやつ、機嫌わるいんだよなぁ。
ヴィオと飲み明かした翌日、ユーリイはなぜか目の下に酷いクマを作っていて、ランスを出迎えた。
理由を聞いても「寝付けなかっただけです」しか言わない。
ダリウスはニヤニヤしながら肩を竦めるだけで、だんまりだ。
「そもそもあなた、なんで付いてきてるんです?」
「きみが出掛けたからだね」
「今日は、ランスの装備の受け取りに行くと言ったじゃないですか。あなた関係ないでしょう」
「私が狩ったワイバーンの素材で作られる装備だ、興味津々で当然では?」
「僕が狩ったワイバーンです」
「発注先は、アルジャンティス家御用達の職人の店だ。ついていく理由がある」
──採寸のために訪れた時も気後れしたが……。
店構えの立派さにたじろぐランスに構わず、ユーリイとダリウスはスタスタ店に入っていく。
「これはこれは、ダリウス様!」
「シュナイダー、出来はどうだ?」
「はい、良質の革を提供いただけましたので、ご納得のいただける品になったかと思います」
奥に案内され、白い布が掛かったトルソーが運ばれてくる。
「こちらとなります」
「おおっ!」
「こりゃ、すごいな」
布が取り払われて現れたのは、黒いレザーアーマーだった。
「では、こちらでご試着を……」
店員がササッとランスの周りに集まると、身につけている古い防具をあれよあれよと脱がされて、気付いた時にはすっかり着替えが済んでいた。
「似合いますよ、ランス!」
「うむ、馬子にも衣装だな」
「あなた、失礼ですね!」
足踏みをして、体を動かし、腕を振って、首を回してみる。
まるで装備を外して宿でくつろいでいる時のような、フィット感。
「なんだこれ、全然動きが楽だ!」
「アルジャンティス家の御用達ぞ、当然であろう」
ふふんっと、ダリウスが自慢気に言い放つ。
「お褒めに預かり、光栄にございます」
シュナイダーが、ニッコリと笑った。
§
「ですが、お持ち込みいただきました革は、ワイバーン。最高級の素材の一つでございます。軽量かつフィット感も抜群でございますから、私どもの技術以上に、傷の少ない良質の素材を大量にいただけましたからでございます」
「はっはっはっ、謙遜するなシュナイダー!」
「いやあ、本当にありがとうございます。素晴らしい仕事ですよ、シュナイダーさん」
ランスは感謝を込めて頭を下げた。
「いえいえ。それと、こちら……。鎧の他にご注文いただきました、背負うタイプとウェストポーチタイプの異次元鞄、ランス様専用の騎竜の鞍でございます」
「ダリウスに紹介されたことを除けば、最高の品ですね」
「一言余計であろう」
鞍は異次元鞄に収納し、ランスたちは店を出た。
「ところで、ランス。なぜ、コカトリスの報酬で装備を一新しなかったのかね?」
帰路をたどりながら、ダリウスが問うた。
「ああ、うん。田舎に仕送りをしたからな」
「主の出身は、ソルトヒルだったな。なるほど、そういうことか」
「なにが〝そういうこと〟なんです?」
したり顔のダリウスに、ユーリイがむっとした顔で尋ねる。
「貴殿はそれでも、貴族のハシクレか? ソルトヒルと言えば、塩害で有名な土地ぞ。以前もランスが言っていたであろうが」
「ないないづくし……とかって、あなたが貶してたのは覚えてますよ」
「貶すちゅーか、本当の話さ。塩害が酷いが塩はとれない。作物も育たない、水もろ過しないと飲めないしな」
「でも、仕送りより先に、装備を整えるべきです。ランスの命があってこそ、仕送りが出来るものでしょう」
「つっても、十数年ぶりだけどな、金を送れたのは」
ははは……と、ランスは乾いた笑いをもらした。
冒険者を目指して王都に登り、戦闘スキルが無く諦めかけた。
ヴィオを含めた友人同士が力を合わせ、なんとか稼ぎの一部を送れるようになったところで、酷い怪我をしてリタイア寸前になった。
「ギルドから指導の仕事を回してもらって、自分が食っていけるだけの稼ぎは得たが……。結局自分しか養えない生活になっちまったからなぁ」
ピカピカの装備を改めて眺め、ランスは感慨深くそう言った。
§
戻り道は、ギルドの傍を通る。
だが、そこは不穏な空気が漂っていた。
「なんだ?」
「うむ、ギルドの扉が開け放たれているな」
「人の出入りも激しいようですし、騒然としてますね」
顔を見合わせ、三人は予定を変えてギルドへ向かう。
「おい、ジョナサン。なにかあったのか?」
「ランス! それにユーリイさんとダリウスさんまで! ありがたい!」
ギルドの待ち合いには、怪我を負ったものが運び込まれていて、職員達や回復術が使える魔導師、それに薬師が慌ただしく走り回っている。
「こいつらは?」
「ダンジョンに様子見に行った先遣隊の生き残りだ」
「生き残り……? じゃあ、スタンピードが起きたのか?」
「それが、よくわからんのだ」
命からがら戻ってきた者たちの話が、どうにも要領を得ないと言うか、話がまとまらないのだと言う。
「魔獣の集団に襲われたことは確かだ。横道から別の集団にも襲われて、隊列が崩れたらしい。その所為で、もうスタンピードが起きてると言うやつと、まだ予兆だが既に魔獣の数が増えすぎていて、先遣隊では手に負えないだけだったと言ってるやつがいてな。リーダーだった冒険者が戻ってきてないから、全容が把握できない状況だ」
「先遣隊ってのは、ギルドの選抜メンバーか?」
「ああ。最初に送った斥候が、瘴気の濃度的にまだ時間的な余裕があるというので、冒険者主体の先遣隊で間引きをしつつ、騎士団にも助力を仰ごうと思っていた」
そこで、ジョナサンは改めて三人を奥の個室へと促した。
待ち合いは負傷者の手当で混乱していて、話が出来る状態ではなかったからだ。
そうして、場が改まったところでジョナサンは、ガバっとひれ伏した。
「貴殿のパーティーが王都所属ではないこと、重々承知している。だが、現状他に頼るすべがない。力を、お貸しください」
土下座せんばかりのジョナサンに、ランスは驚いたが、ユーリイとダリウスは冷静なままだ。
「先遣隊に選ばれた冒険者の級数は?」
ダリウスが問う。
「二級と三級の混成部隊だ。タンクのヴィオとクリスが殿を務めて、部隊の撤退を援護して……」
「ヴィオが!」
ジョナサンの口から出た名前に、ランスが叫ぶ。
「ああ。お陰でかなりの人数が逃げてこられた。だが、二級はまだほとんど戻ってない」
「しかし……、ヴィオだってまだ二級に上がったばかりで……っ!」
「落ち着くのである」
ダリウスが、腰を浮かせたランスの肩に手を掛ける。
「して、貴殿の申し出だが……。先遣隊の残りの回収であるか? それとも、先遣隊に代わってスタンピードの予兆の調査であるか?」
ソファに座り、長い脚を組み替えてダリウスが問う。
「予兆の調査をお願いしたい。もし、余力があれば遺品の回収もしてもらいたいが……」
「ふむ……」
ダリウスは、ちらとユーリイへと視線を投げた。
ユーリイは激昂するランスを、眉根を寄せて不機嫌とも心配ともつかぬ表情で見ている。
「ユーリイ、どうする?」
「なぜ、僕に聞くんです?」
「それは、きみがこのパーティーのリーダーであるからだな。きみがこの件を引き受けると言うなら、私もダンジョンへ赴こう」
「ユリィ! 頼む!」
ランスは、ジョナサン以上に必死の様子で頭を下げた。
「ランスにそこまで言われたら、僕に断る選択はありません」
パッと顔を上げたランスは、そこで初めて、ユーリイが苦々しげに顔をしかめていることに気付く。
「あ……、すまん……。こんな面倒事を……」
「いえ。それにダンジョンのことをよく知らない僕でも、現状が〝緊急事態〟だってことぐらいわかってますから」
「棘のある物言いであるな」
からかうように、ダリウスが言った。




