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過去のやらかしと野営飯  作者: 琉斗六
幼馴染と暴走と野営飯

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15/21

 ユーリイとランス、それにダリウスは、街を歩いていた。


「ところでユーリイ、きみのパーティーは名前はないのかね?」

「ありませんね。わざわざパーティー名なんて、つける必要あります?」

「私もパーティーに加わったのだ。報奨金の振り込み口座を作るには、パーティー名が必要であろう」

「なら〝ユーリイ&ランス〟です」

「私の名も加えて欲しいところだが、そのまま入れては長すぎるな。それぞれの名の頭文字を取って〝DLY(ディーエルワイ)〟にしてはどうか?」

「なんであなたの名前が先頭なんですか? それならせいぜい〝LYD(エルワイディー)〟です」


 隣で会話を聞いていたランスは、首をすくめた。


──なぁんかこの数日、ユーリイのやつ、機嫌わるいんだよなぁ。


 ヴィオと飲み明かした翌日、ユーリイはなぜか目の下に酷いクマを作っていて、ランスを出迎えた。

 理由を聞いても「寝付けなかっただけです」しか言わない。

 ダリウスはニヤニヤしながら肩を竦めるだけで、だんまりだ。


「そもそもあなた、なんで付いてきてるんです?」

「きみが出掛けたからだね」

「今日は、ランスの装備の受け取りに行くと言ったじゃないですか。あなた関係ないでしょう」

「私が狩ったワイバーンの素材で作られる装備だ、興味津々で当然では?」

「僕が狩ったワイバーンです」

「発注先は、アルジャンティス()御用達(ごようたつ)の職人の店だ。ついていく理由がある」


──採寸のために訪れた時も気後れしたが……。


 店構えの立派さにたじろぐランスに構わず、ユーリイとダリウスはスタスタ(みせ)に入っていく。


「これはこれは、ダリウス様!」

「シュナイダー、出来はどうだ?」

「はい、良質の革を提供いただけましたので、ご納得のいただける品になったかと思います」


 奥に案内され、白い布が掛かったトルソーが運ばれてくる。


「こちらとなります」

「おおっ!」

「こりゃ、すごいな」


 布が取り払われて現れたのは、黒いレザーアーマーだった。


「では、こちらでご試着を……」


 店員がササッとランスの周りに集まると、身につけている古い防具をあれよあれよと脱がされて、気付いた時にはすっかり着替えが済んでいた。


「似合いますよ、ランス!」

「うむ、馬子にも衣装だな」

「あなた、失礼ですね!」


 足踏みをして、体を動かし、腕を振って、首を回してみる。

 まるで装備を外して宿でくつろいでいる時のような、フィット感。


「なんだこれ、全然動きが楽だ!」

「アルジャンティス()御用達(ごようたつ)ぞ、当然であろう」


 ふふんっと、ダリウスが自慢気(じまんげ)に言い放つ。


「お褒めに預かり、光栄にございます」


 シュナイダーが、ニッコリと笑った。



§



「ですが、お持ち込みいただきました革は、ワイバーン。最高級の素材の一つでございます。軽量かつフィット感も抜群でございますから、私どもの技術以上に、傷の少ない良質の素材を大量にいただけましたからでございます」

「はっはっはっ、謙遜するなシュナイダー!」

「いやあ、本当にありがとうございます。素晴らしい仕事ですよ、シュナイダーさん」


 ランスは感謝を込めて頭を下げた。


「いえいえ。それと、こちら……。鎧の他にご注文いただきました、背負うタイプとウェストポーチタイプの異次元鞄、ランス様専用の騎竜の鞍でございます」

「ダリウスに紹介されたことを除けば、最高の品ですね」

「一言余計であろう」


 鞍は異次元鞄に収納し、ランスたちは店を出た。


「ところで、ランス。なぜ、コカトリスの報酬で装備を一新しなかったのかね?」


 帰路をたどりながら、ダリウスが問うた。


「ああ、うん。田舎に仕送りをしたからな」

(ぬし)の出身は、ソルトヒルだったな。なるほど、そういうことか」

「なにが〝そういうこと〟なんです?」


 したり顔のダリウスに、ユーリイがむっとした顔で尋ねる。


「貴殿はそれでも、貴族のハシクレか? ソルトヒルと言えば、塩害で有名な土地ぞ。以前もランスが言っていたであろうが」

「ないないづくし……とかって、あなたが貶してたのは覚えてますよ」

「貶すちゅーか、本当の(ハナシ)さ。塩害が酷いが塩はとれない。作物も育たない、水もろ過しないと飲めないしな」

「でも、仕送りより先に、装備を整えるべきです。ランスの命があってこそ、仕送りが出来るものでしょう」

「つっても、十数年ぶりだけどな、(かね)を送れたのは」


 ははは……と、ランスは乾いた笑いをもらした。

 冒険者を目指して王都に登り、戦闘スキルが無く諦めかけた。

 ヴィオを含めた友人同士が力を合わせ、なんとか稼ぎの一部を送れるようになったところで、酷い怪我をしてリタイア寸前になった。


「ギルドから指導の仕事を回してもらって、自分が食っていけるだけの稼ぎは得たが……。結局自分しか養えない生活になっちまったからなぁ」


 ピカピカの装備を改めて眺め、ランスは感慨深くそう言った。



§



 戻り(みち)は、ギルドの傍を通る。

 だが、そこは不穏な空気が漂っていた。


「なんだ?」

「うむ、ギルドの扉が開け放たれているな」

「人の出入りも激しいようですし、騒然としてますね」


 顔を見合わせ、三人は予定を変えてギルドへ向かう。


「おい、ジョナサン。なにかあったのか?」

「ランス! それにユーリイさんとダリウスさんまで! ありがたい!」


 ギルドの待ち合いには、怪我を負ったものが運び込まれていて、職員達や回復(じゅつ)が使える魔導師、それに薬師が慌ただしく走り回っている。


「こいつらは?」

「ダンジョンに様子見に行った先遣隊の生き残りだ」

「生き残り……? じゃあ、スタンピードが起きたのか?」

「それが、よくわからんのだ」


 命からがら戻ってきた者たちの話が、どうにも要領を得ないと言うか、話がまとまらないのだと言う。


「魔獣の集団に襲われたことは確かだ。横道から別の集団にも襲われて、隊列が崩れたらしい。その所為で、もうスタンピードが起きてると言うやつと、まだ予兆だが既に魔獣の(かず)が増えすぎていて、先遣隊では手に負えないだけだったと言ってるやつがいてな。リーダーだった冒険者が戻ってきてないから、全容が把握できない状況だ」

「先遣隊ってのは、ギルドの選抜メンバーか?」

「ああ。最初に送った斥候が、瘴気の濃度的にまだ時間的な余裕があるというので、冒険者主体の先遣隊で間引きをしつつ、騎士団にも助力を仰ごうと思っていた」


 そこで、ジョナサンは改めて三人を奥の個室へと促した。

 待ち合いは負傷者の手当で混乱していて、話が出来る状態ではなかったからだ。

 そうして、場が改まったところでジョナサンは、ガバっとひれ伏した。


「貴殿のパーティーが王都所属ではないこと、重々(じゅうじゅう)承知している。だが、現状他に頼るすべがない。力を、お貸しください」


 土下座せんばかりのジョナサンに、ランスは驚いたが、ユーリイとダリウスは冷静なままだ。


「先遣隊に選ばれた冒険者の級数は?」


 ダリウスが問う。


「二級と三級の混成部隊だ。タンクのヴィオとクリスが殿(しんがり)を務めて、部隊の撤退を援護して……」

「ヴィオが!」


 ジョナサンの口から出た名前に、ランスが叫ぶ。


「ああ。お陰でかなりの人数が逃げてこられた。だが、二級はまだほとんど戻ってない」

「しかし……、ヴィオだってまだ二級に上がったばかりで……っ!」

「落ち着くのである」


 ダリウスが、腰を浮かせたランスの肩に手を掛ける。


「して、貴殿の申し出だが……。先遣隊の残りの回収であるか? それとも、先遣隊に代わってスタンピードの予兆の調査であるか?」


 ソファに座り、長い脚を組み替えてダリウスが問う。


「予兆の調査をお願いしたい。もし、余力があれば遺品の回収もしてもらいたいが……」

「ふむ……」


 ダリウスは、ちらとユーリイへと視線を投げた。

 ユーリイは激昂するランスを、眉根を寄せて不機嫌とも心配ともつかぬ表情で見ている。


「ユーリイ、どうする?」

「なぜ、僕に聞くんです?」

「それは、きみがこのパーティーのリーダーであるからだな。きみがこの件を引き受けると言うなら、私もダンジョンへ赴こう」

「ユリィ! 頼む!」


 ランスは、ジョナサン以上に必死の様子で頭を下げた。


「ランスにそこまで言われたら、僕に断る選択はありません」


 パッと顔を上げたランスは、そこで初めて、ユーリイが苦々しげに顔をしかめていることに気付く。


「あ……、すまん……。こんな面倒事を……」

「いえ。それにダンジョンのことをよく知らない僕でも、現状が〝緊急事態〟だってことぐらいわかってますから」

「棘のある物言いであるな」


 からかうように、ダリウスが言った。

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