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王都の冒険者ギルドに駆け込んだところで、ランスは顔なじみの受付嬢の元へと走った。
「ジョナサンを呼んでくれ! 緊急に伝えたいことがある」
「は……、はい、わかりました」
ランスの様子に逼迫したものを感じ、受付嬢は奥に走ってすぐにギルド長を呼んできてくれる。
「よう、ランス。ワイバーンどうだった?」
「それはあとだ、こっちに戻ってくる途中で、スタンピードの予兆があった」
「なんだと?! 場所は?」
「まずは地図であろうよ」
ランスとジョナサンの間に割って入ったダリウスが、自分の異次元鞄から地図を取り出し、カウンターに広げた。
「気配を感じたのはこの辺りだ。近くにダンジョンがあるか?」
「ランス……、こちらの貴族様は……?」
「名前はダリウス。アルジャンティス伯爵家の血族だが、一級のライセンス持ちだ」
「へえ……。どんどんすごい知り合い増えてんな……」
「うむ。王都は〝ふりだし〟だからな。あまり一級なぞとは顔を合わすこともないのであろ? よっく、この顔を拝んでおけい」
──ジョナサン、〝鼻の穴を見せびらかしてんな〟って思ってんだろうな……。
半口を開けているジョナサンの顔を見やり、ランスは自分が最初にダリウスに会った時の感想を、同じように抱いているだろうな……と想像した。
「初心者研修に使ってるダンジョンの傍だな。瘴気の濃度は?」
「予兆と分かるが、まだ切羽詰まっちゃいないと思う……が。断言はできん」
「まずは斥候を出して、状況の把握だな……。よし、報告、感謝する」
ジョナサンは、そこで即座に受付嬢や奥で作業をしている職員を呼び集め、スタンピード対策の指示を出し始めた。
「おい、手を貸すか?」
「莫迦。おまえはもう、ウチのギルド所属じゃねぇんだ。ま、実際にスタンピードが起きたら、一級サマの腕を借りなきゃならんが。予兆がそのまましりすぼみになることもあるからな」
ジョナサンはニヤッと笑って、奥へ引っ込んでいった。
「ランスは、スタンピードにあったことがあるんですか?」
それまで、自分に出来ることがないことを理解し、大人しく成り行きを見ていたユーリイが、話が一段落したことを察して口を開く。
「若い頃は、ダンジョン行って稼ぎもしたからなぁ。足をやられたのが、そういえばスタンピードの時だった」
「ほう、スタンピードに巻き込まれ、足を怪我して、よく生きて戻れたものだな」
「仲間が良かったのさ」
慌ただしくなったギルドにいては邪魔だろうと、三人は外に向かった。
§
「ランス?」
出口に向かいかけた一行に、待ち合いの冒険者たちに紛れていた男が、そっと……遠慮がちに声を掛ける。
振り返ったランスは、パッと破顔した。
「ヴィオか?」
「やっぱり! ランスか! あんまり凄そうな奴らに囲まれてたから、人違いかと思ったぞ!」
ランスよりも頭一つ大きな、背丈。
背負っている大盾に見合った、広い肩幅。
そんな大柄な体格とは裏腹な、素朴な笑顔。
気の優しそうなその人物と、ランスは笑い合いながら、互いに肩をたたき合い、ハグをする。
「……誰……?」
ボソッと漏れたユーリイの一言を、ダリウスは聞き逃さなかった。
「なんだ? 〝僕の知らない笑顔〟とでも言いたげであるな?」
ユーリイはチラッと、苛立ちを含んだ鋭い視線をダリウスに投げかけてから──。
言葉を返さずに踏み出す。
「ランス。この方、どちらさまですか?」
二人の間に割入るようにして、ユーリイが訊ねた。
「ああ、うん。こいつはヴィオ。一緒に王都に出てきた、幼馴染だよ。ヴィオ、こっちはユーリイ、俺が指導した教え子で一番の出世株だ。あっちはダリウス。ユーリイのパーティーの魔法使いだ」
「ヴィオランだ。二級に上がったばかりです」
ヴィオの自己紹介に、ランスはやや驚いた顔になった。
だが、何かを言う前に、ユーリイが口を開く。
「ユーリイです。一級です」
らしからぬ尊大な態度で自己紹介するユーリイを、ダリウスが鼻で笑った。
「ダリウス・デュ・アルジャンティス。アルジャンティス伯爵家の者である」
「へえ、貴族様ですか! こりゃすげぇや」
「ランス。ここは今、少々慌ただしい。旧友殿と旧交も温めたかろう。今日はここで解散といかぬか?」
「ちょ……、ダリウス……っ!」
ユーリイは不満そうな声を上げたが、それはダリウスに遮られてしまう。
ヴィオとの再会に意識が向いていたランスは、そんなユーリイの様子には気付かなかった。
「そうか? じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうか」
「久しぶりだ。山羊の蹄亭でエールといくか?」
「ああ、そいつはいい!」
ランスはヴィオと、肩を並べてギルドを出ていった。
「ちょっと、ダリウス! なんですか、それ!」
「なんだもなにもあるまい。旧友との再会は〝また楽しからずや〟と言うではないか。あまり心狭く嫉妬深いと、ランスに嫌がられてしまうぞ?」
ニヤニヤ笑うダリウスを、ユーリイは眉根を寄せて睨みつけた。
が──。
「全く! あなたって本当に僕の邪魔しかしませんよねっ!」
ぷいっと顔を背け、一人、ギルドを出ていった。




